第11話 心配

美生みおの北海道ツーリングの準備は着々と進んでいる。日程は決まってフェリーの予約も済んだ。ルートも大まかだが決まってきている。問題はキャンプ場で、管理人が常駐しているところは少なく、ネットで情報を集めて、治安の良さそうなところを選ぶしかない。


祖父の和之かずゆきと父の貴生たかおは逐一相談を受けているが、どうにも不安である。ある晩、夕食の席で、和之は食後のお茶をすすりながら美生に尋ねた。


「なあ、美生。若い女の子二人だけでツーリングなんて、やっぱりおじいちゃん心配だな。美生も佳ちゃんも可愛いしな。おじいちゃんか、お父さんが一緒じゃ駄目なのかい?」


「大丈夫だよ。」美生はけらけらと笑った。


「でも私はともかく佳に万一のことがあったら困るから、そこは充分気を付けるね。ご馳走様でした。」


美生は食器を片付けると自分の部屋に戻ってしまった。


美生は基本的に男性に警戒心がない。子どもの頃、オートバイに乗っている男は皆、美生に優しかったからである。しかし、それはたいてい和之の知り合いで美生がまだ子どもだったということを忘れている。今の美生は身体的には、もう大人の女に近いと言っていい。バイクに限った話ではないが、バイクに乗っている男は皆いい奴というのは綺麗事に過ぎないのを和之は良くわきまえている。


貴生が心配そうに和之にささやいた。


「どうします? スタンガンでも持たせますか?」

「アホウ。優しい美生がスタンガンなんて使える訳ないだろ。」


和之は一美ひとみの方をチラッと見た。


「貴生、ちょっと俺の部屋に来い。」


一美が、何を企んでいるのやら? というような目で二人を見た。

二人は連れ立って階段を上がった。


「何ですか?、お義父さん。」

「しっ!」


和之は声をひそめた。何しろ隣は美生の部屋なのだ。


「費用は俺が出すから、お前も北海道に行け。」

「えっ! いいんですか?」


貴生の顔がぱっと輝いた。


「遊びじゃねえぞ。美生に気付かれないように後をついて行って、何かあったら美生を助けるんだ。」

「なあんだ。でも僕、喧嘩はからっきしですよ。」


「お前にそんなもん期待してねえよ。警察が来るまで相手に殴られていてくれればいい。」

「ひどいなあ。」


貴生は顔をしかめた。だが、和之の負担で自分も北海道に行けるのだ。悪い話ではない。だが、、、貴生は形を改めた。


「ところで、お義父さんは大丈夫なんですか? 退職以来、家でぼーっとしてるか、昼寝してるかで、一美がどこか具合が悪いんじゃないかって心配してるんですが。」


貴生が和之をじっと見た。


「ん? ああ、退職してから長年の疲れか、とにかくだるくて眠いんだよ。まあ、病気じゃないから、一美には心配しないよう言ってくれ。」


「でも、最近はモトビとヴェスパを動かすようになって、少し元気が出たような気がするよ。やっぱりオートバイに乗らないと駄目だな。来年は俺が北海道について行くから、今回はお前に頼む。」


和之はにやりと笑ったのであった。

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