北の中枢


「まぁ大阪の隣にいてつまらねことがねぇのは確かだべさ」


 言い合う三大都市に対して実の右側からのほほんとした声があがった。そちらに目を向けると、先ほどの自己紹介で北海道だと名乗っていた子がふんわりした笑顔を浮かべている。


 彼は集会の時、ステージ上にいた実から見て一番前の列の右端にいたのだが、実がそれを覚えているほどに背が高くとても目立っていた。東京や大阪の背が低めなのもあってか、彼が自己紹介をしようと立ちあがったときにはほんとに熊のようにも見えた。しかし、そこまでがっしりとした印象もなく、なおかつこの声と雰囲気である。180cmくらいはあるであろうその体から春のお日様のような笑顔と声とオーラが溢れだしてきた時は意外だったものの、元々眉が垂れ気味だったのもあってかとてもしっくりきてしまった。


「北海道ー! お前は北から舞い降りた天使なんか!? 海の天使クリオネちゃんなんやなっ」


「そんなことないっしょー」


 褒め言葉をかけてくれた北海道に、大阪が目を輝かせながら感動の声をあげる。すると北海道はにこやかに笑いながら頭をかいた。


「そんなことあるで、北海道っ! 俺お世辞は嫌いやねん、今のは俺の素直な気持ちやで」


「じゃろうね、お前バカ正直じゃけぇの」


 パチリとウインクしてみせた大阪に対し、今度は北海道ではなく別の方向から野次が飛んできた。しかし、大阪は外野の声を無視することにしたらしい。彼は両腕を広げると、机の角を挟んで隣にいた北海道に抱きつく。そんな大阪に、北海道はやれやれと言うように少し眉を寄せて微笑んだ。


 そんな二人を眺めながら「楽しそうだなぁ」などと実は苦笑いする。


「あ、もうそろそろ1時間目終わるんでね?」


 ふと、北海道の横からそんな声が上がった。そちらを見れば、宮城だと名乗っていた生徒が教室内の時計を見上げている。

 少しハネのある髪は東京と同じくらいの黒髪で、その前髪は真ん中で緩く分けてある。つり気味の目は東京に似ているが、彼よりも少し幼く見えた。


 そんな宮城の言葉を聞いて、東京が「あ」と声をあげる。


「そろそろここ出ないとな。まぁこんな学校なので、新しい職員が入った時はちゃんと校内のことを説明することになっているんです。今から先生にも色々と学校の中を回ってもらうんですけど······」


 そこで言葉を区切ると東京は実の方を向く。


「どうします? 先に教室に行ってみますか?」


 教室とは担当教室のことなのだろう。実は国語科担当なので、同じ国語科の教員が担任であるクラスを受け持ったはずだ。

 そんなことも考えながらどっちの方がいいのかと考え込んでいると、ふと宮城が大阪の方へ視線を向けた。


「先生四組担当だべ? 多分先に教室行がねどこいつがじっとしてらんねと思う」


「先生四組来てぇな! めっちゃ楽しいで!」


 この反応からすると、大阪は当の四組の生徒なのだろう。今日何度向けられたか分からないが、そのキラキラした瞳が再び実に注がれる。


「と、とりあえず四組の皆さんにご挨拶させていただきます······」


 どうするか一瞬悩んだものの、結局大阪の瞳に圧倒されてしまった。そんなこんなで、実はかちこちになりながらそう答えたのだった。




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