イロオニ

第1話 いろは

 鬼というと、どんなものをイメージするだろう。昔話に出てくる悪い鬼。人を食べちゃうような怖い存在。桃太郎に退治される赤鬼や青鬼といったもの。昔話以外だと吸血鬼なんかも鬼の一種かもしれない。海外の小説や映画なんかでは、吸血鬼は美形の男性で、妖しい魅力がある姿で描かれていたりするけれど、やっぱり昔話の鬼と同じように、その本質は人ならざらもので、わたしたち人間の尺度では図ることができない存在なんだろう。


 どうして急にこんな話をしているかというと、わたしも鬼という存在に心当たりがあるからだ。心当たりというよりも、本人――人といっていいのか悩むところだけれど、とりあえずその本人が自分のことを鬼だと名乗っていたのだ。正確には、色鬼――〝イロオニ〟だと。わたしには色鬼という存在に心当たりがない。後日、学校の図書室で鬼について調べてみたけれど、色鬼という鬼について記載がある本はわたしが探すことができた範囲では見当たらなかった。


 本人が鬼と名乗ったからといって――勿論本当に鬼なのかといった証拠にはならないのだけれど、ただ、一目見ただけで、わたしたちとは本質的に異なる存在なのだ、というのは感じとることができた。


 まずはその外見だ。体格はわたしと比べても小柄だった。わたしの身長は一六〇センチだけれど、わたしよりも頭一つ分は低く感じたから、きっと一五〇センチ前後だろう。ただし、別段子供っぽいというわけではなかった。褐色の肌に、それとは対照的ともいえる色素をまったく感じさせない明るい白髪。その長さは腰に届くほど。小柄な体躯には、いかにも不釣り合いな大きな胸に括れたウエスト、女のわたしでも目を奪われるほどの見事な脚線美。


 そう――鬼というと、わたしは男の人をイメージしてしまうのだけれど、その鬼は女の姿かたちをしていたのだ。それも、とても女のとは思えないほど、完成した美とでもいうのか、出来過ぎた外見をしていた。


 つぎに、その目だ。夢見るようにカールした睫毛まつげに縁取られたその瞳は、彼女がわたしたちと同列の存在ではないことを感じさせる〝力〟を持っていた。どうしてなのかはわからなかったけれど、ただ、そう実感できたのだ。


 それ故に、普段なら信じることができないであろう、荒唐無稽な鬼との出会いを、割とあっさりと実感できてしまったのだ。


 これが、彼女――色鬼の〝いろは〟との出会いだった。高校に入学してすぐ、四月の放課後の出来事だった。

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