「私は……」


 強張った声で、ほたるちゃんが呟く。表情が硬い。


「姉妹で魔法少女だったんだ」


 茶化すように私は言う。まあ、面白いっちゃあ面白い事態だし。私はほたるちゃんをまっすぐ見つめた。


「前にも異空間でほたるちゃんみたいな人影を見たんだ。でも逃げられちゃった。なんで逃げたの?」

「……。ほのかちゃんが魔法少女になるなんて」


 ほたるちゃんは質問に答えてくれなかった。とりあえず、ほたるちゃんの言葉に話を合わせる。


「うん。でも、新米魔法少女なの。ほんの二か月ほど前になったばかりだし」

「――魔法少女になってはいけないの!」


 突然。大きな声できっぱりとほたるちゃんは言った。顔が怯えているかのように真剣だった。


「……え?」


 戸惑う私に、ほたるちゃんはさらに言った。


「魔法少女になってはいけないの。魔法少女になったら……死ぬの」




――――




 ど、どういうことだ? いきなりなんの話をしているの、ほたるちゃんは? 私は予期せぬ展開に言葉が出なかった。いつの間にか近くにやってきた他の三人が私の背後でひそひそと話をしている。「死ぬ?」「魔法少女が?」「なんで?」


 なんで?? まさに私もそれを聞きたい。無言で続きを促していると、ほたるちゃんが再び口を開いた。


「私たちのお母さんも、魔法少女だったの」


 ……。今なんと。衝撃の展開だな! そっか、姉妹で魔法少女だから、その母親も……うん、ありうる……のか? 魔法少女になるよう定められた血筋なの?


「……お母さんが、亡くなる前にそう言ったの?」


 私は尋ねた。少なくとも私は、お母さんが魔法少女だったなんて知らなかったし……。最期に、ほたるちゃんだけに伝えたのかな?


 ほたるちゃんは首を横に振った。


「違うの。ただ、遺品の中から石が出てきたの。一年くらい前のことなんだけど、お母さんの使ってたタンスを整理していたら偶然。それは私たちが変身の際に使う石とよく似たもので、お母さんもきっと、魔法少女だったんだろうな、って」


 石が似ていただけで? 私たちの持っている石はとても綺麗なものだけど、あまり特徴のないものだし、それだけで魔法少女と断言できるのだろうか……。


 疑問渦巻く私を置いて、ほたるちゃんは続けた。


「……お母さんは何故、若くして亡くなってしまったんだろうって思ってたの。病気だったことは知ってる。でもそうじゃなくて……お母さんの死と、魔法少女であったことが関係しているのだとしたら……」

「待って、それじゃあ――」

「私たちは魔法を使うでしょ、その代償に寿命が削られているのかもしれない」


 そんなまさか! いや、ありえなくはない……のか? 私は言葉をなくし、他の三人も黙ったままだ。重い沈黙が流れる中、ほたるちゃんがそれをやぶった。


「ある時、敵の予感がして異空間に赴いたら、そこでほのかちゃんを見たの。覚えてる? スノードームの異空間。瑞希ちゃんもいたわ」


 ああ、あの時……。やっぱりあそこで見たのはほたるちゃんだったんだ。


 ほたるちゃんは眉をよせて続ける。


「ほのかちゃんが魔法少女になっていたなんて……。私の後輩なのよね。私の後を継いでくれるの。ほんとは喜ぶところだと思う。でも私は怖かった。お母さんのことがあったから。もし本当に、お母さんの死が魔法少女に関係しているのだとしたら……」

「ま、待って! 異世界の人は! ほら、ほたるちゃんに魔法少女になるよう言った異世界の人がいるでしょ! その人はなんて言ってるの?」


 私の言葉に、ほたるちゃんの顔が奇妙に歪んだ。


「彼は私の疑問に答えないわ。はぐらかすだけ。教えてくれないことがいっぱいあるの。どうして? 私たちがやっぱり早くに死んでしまうから? そういった事情を知られることがまずいから?

 それにもう時間がないの。私が魔法少女でいられるのはあと少ししかない。異世界とのコンタクトもたぶんできなくなってしまう。それが証拠に、あのうさぎのぬいぐるみと話ができる時間も少なくなって、私は――! 私には時間がないの!」

「あなたは勘違いしてるわよ」


 その時、また新たな声が飛び込んできた。ここにいる五人、誰のでもない声。でも知ってる声。


 教室でよく聞いた声だ。私は振り返る。池の向こう。視線の先にいたのは――。


 後藤先生だ。


 池を巡って先生がこっちに来る。私たちは誰も何も言わない。先生は歩みながら言った。


「あなたのお母さんが亡くなったのは、魔法少女だったことと何も関係はないわ。病気だったのよ」

「でも――」


 ほたるちゃんが先生のほうを向き、怯えた表情で言いよどむ。私も胸がどきどきしていた。「魔法少女」って、先生は言った。この学校の魔法少女のこと、先生は知っているの?

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