『ねえちょっと。なにそれ。はじめましてって何よ』


『え。あ。ごめんなさい。わたし、半分だし。あなたも半分だし』


『彼はそういう切ない気持ちに弱いのよ。何やってるの。だめよ。死にたがっている彼にとどめ刺してどうするの』


『え。あ。どうしよう。わたし。今まで、あの人と心が繋がってる気がして。それで、その。ひどいことを』


『たしかに心は繋がってるわね。私が私でいるときは見えなかった彼の感情が、あなたの脳が半分入って、初めて分かった気がする』


『どうしましょう。このままだと彼が』


『行かなくちゃ。彼が死んでしまう前に。抱きしめて、あとセックス』


『セックス。え。まっ。そんなっ。まだ心の準備がっ』


『これは私の身体だから、大丈夫よ。今まで彼とは何回もしてきた。身体の相性もばっちりなの。だから。おねがい』


『え?』


『左半身はあなたの管轄だから。点滴抜いて』


『うええ』


『おねがい。彼のところに行きたいの』


『えっ。これ。上半身と下半身にも分けられますよね?』


『それだと下半身の取り合いになっちゃうから、とりあえず右と左で。ね』


『うええ。じゃあ、点滴抜きます』


『はい』


『抜きました』


『よし。行くわよ。彼は駅前の公園にいるはず。二人三脚のイメージで』


『はい。いっちに、いっちに』


『私が一人のときより速いわ』


『あの。ほんとに。えっちって。その』


『大丈夫大丈夫。いたくないから。彼に愛されるとね。彼のやさしい部分に、触れられるの。どうしようもないやさしさが、どうしようもなく空回りして、彼は、死にたくなっちゃうの。だから、愛してあげないと』


『わかりました』


『ねえ』


『はい』


『彼に逢ったら。生きてほしい、って。言ってもらえないかしら?』


『わたしが?』


『私ね。言えなかったの。セックスを願うばかりで、最後まで。彼に、生きてほしい、って。私。彼のことが。彼のやさしいところが好きだから。死んでほしくないのに、生きてほしい、って、どうしても、言えなくて』


『言います言います。だって死んでほしくないですもん』


『あなたみたいな、単純な生き方がしたかったなあ』


『大丈夫です。半分わたし入ってますから。ふたりでひとりです。あっえっちのときはエスコートおねがいしますねわたしえっちしたことないんで』


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そして彼は途方に暮れる 春嵐 @aiot3110

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