03 昧原雪瑚

 仕事以外で会うのは、初めてだった。

 彼。ドナー検査の会場。


「あの、あなたも、検査に?」


「ええ、まあ」


 彼も、ドナーになるんだ。素敵。


「あなたは、なぜドナーに?」


「誰かを助けたいからです」


 本心だった。今まで、誰かに助けられるばかりで、誰も助けられない人生だったから。せめて自分が死んだあとは、たくさんみんなの役に立ってほしい。それだけ。彼にも、たぶん伝わったはず。


「いい心掛けだと思います」


 彼。何か、雰囲気が違う。


「どうか、したんですか?」


「いえ」


 ドナー検査の結果が出た。


「あっ。すごい」


 わたしの身体。頭のてっぺんから足の爪先まで、ドナー検体として使える判定。健康だけが取り柄だったし、これは嬉しい。


「わたし。ドナーになれました。嬉しいです」


「そうですか」


「あなたは?」


 彼。表情が曇る。


「使用不可。脳機能が常人よりも過剰で、ドナーとしては一切適さない」


「わっすごい。頭がいいってことじゃないですか」


 空気が、割れるような、感じがした。

 違う。

 彼の表情が。

 心が。

 ひび割れたのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る