第12話 レベチ

「……スッゲェ」


 バスケの試合中に、そんな声が漏れた。

 遊佐川がバスケ上手いということは元々知っていたことだ。

 だが、正直ここまで上手いとは思いもしなかった。相手に阻まれたとしてもするりとかわして、その先のゴールへ最短距離で進んでいく。

 そして、いとも簡単にゴールに入れてしまう。まるで、ゴールに入るのが当たり前と言わんばかりの、あっさりとしたゴール。

 経験者はレベルが違う。


「次は一郎の番だよ」


「おっと……」


 遊佐川が相手のパスを綺麗にカットして、すぐさま俺にパスしてきた。

 パスのスピードが豪速球すぎるんだよ。

 俺も、見様見真似でかわそうとしてみた。

 だが、相手も上手く反応して前に出ることは出来ない。

 ……おい、これどうやって抜かしてたんだよ。


「一郎!」


 突然声がした方を向くとそこにはどフリーの久留米がいた。


「頼む!」


 このままでは埒が明かないのですかさずパスをする。

 そして久留米は1人を上手くパスをするふりでやり過ごして、前へ進み遊佐川にボールをパスをする。

 そして、遊佐川がゴールを決める。


 久留米は空いているスペースを見つけるのが上手い。そこへすかさず移動してパスを貰う。これが出来るのは、恐らくサッカーを長年やってきた結果だろう。


 2人とも半端ないレベルの高さだ。

 なるほど、だからこの相手を選んだのか。2人だけで十分なんだな。

 そうなれば、俺のやることといえばこの2人のサポートくらいだ。

 1人がマークされていてパスが繋げられない時に、俺でワンクッション挟む。

 そして、またどちらかにパスをする。無理なら女子陣に更に繋ぐ。

 なんだよ、入間も運動苦手とか言っておいてなんだかんだ出来るじゃねぇか。

 その後も相手にボールは渡さず、相手のボールはすぐに奪う。

 同じことがずっと続いて、気付けば圧勝していた。

 結局逆の意味で強さのバランスが取れていなかったな。


 ◆ ◆ ◆


 あれから数試合やって、1つ負けは付いたものの基本的に綺麗に勝つことが多かった。

 俺は基本パス回しに徹して、チャンスがあれば少し目立とうとするくらいで、基本的に久留米と遊佐川のサポートに徹した。

 堀田と入間も上手かったし、それだけで十分やることが出来た。


「「「「「かんぱーい!!」」」」」


 近くのファミレスで軽い打ち上げをすることになった。ジュースを片手に、皆は楽しそうに喋る。打ち上げとは言っても、反省会とかそういう感じではない。

 ただ適当に飲み食いして、普段と特に変わらずドラマの話やゲームの話で盛り上がる。

 なんていうか、海星が嫌いそうな話ばかりだった。


「佐藤はドラマとか見たりするのー?」


 堀田が突然話しかけてきた。


「ドラマ、かー……。頻繁にっていう訳じゃないけど、妹が見てる時は一緒になってみるかな」


 アイドルやってるだけあって、仁奈はエンタメには人一倍興味を持っている。いつかドラマで役を演じられたら……なんて考えることもあるくらいだ。


「へ〜。佐藤妹がいるんだ〜。年は?」


 ……あれ、あいつ何歳だっけ。


「今は中学2年だな」


「そうなんだ〜。その年で兄妹仲良いのって珍しいね」


「そうなのか?」


「だって、私とか姉とバチバチよ? いやー困っちゃうよね。なんでそんなに突っかかって来るのか分からない」


 家族によるんだろうけど、意外と家族内でも関係って難しいんだな。


「仲悪いのか?」


「仲が悪いというか、なんかギスギスしてるみたいな?」


「変わらなくね?」


「確かに!」


 堀田はケラケラと笑った。仲が悪いとは言いつつも、本人はその現状で満足しているみたいだ。

 俺もそのくらい楽観的になれたら、別にぼっちのままで満足出来たんだろうな。


「あ、俺ちょっとジュース取りに行くわ」


 俺はジュースが足りなくなっているのに気付いて、ドリンクバーへ向かった。

 すると、それに遊佐川もついてきた。


「一郎は、今日の試合は満足出来たか?」


「満足は……正直してない。あんまり俺のいる意味とか分からなかったし」


「そこまで悲観しなくていい。まあ、よくやってくれたのは確かだよ。でも、求めているレベルとは程遠い。何を言ってるのかは、分かるよな?」


「ああ」


 確かに、俺はバスケである程度自分に合う役は見つけることが出来た。

 だが、今回での目標は目出すことだ。

 バスケ部の先輩を出し抜くくらい活躍して、女子陣と遊佐川の信頼を得る。

 それが本来の目標だ。無難な場所に落ち着くのは、俺も遊佐川も望んでない。

 遊佐川はコーラをコップに注ぎながら言った。


「これからはそこをどうやって打開していくかが課題だ。球技大会前の体育ではバスケがやりたい放題だ。勝ち抜き制のチーム戦で、勝てば何度も実践を積める。1試合は短いが、そこで何度も反省して……おっと入れすぎた」


 遊佐川はコーラを少し啜った。


「反省して、そしてまたすぐに試合へ向かって課題を潰す。それの繰り返しだ。もちろん、毎日部活終わりの練習にも付き合ってもらう。今より更に大変になるだろうが、一郎なら着いてきてくれると信じてるからな」


「買い被りすぎ……とは言わないよ。まあ、俺なりにやれるだけやる。兎に角、全力を尽くすよ」


 俺は紅茶をコップに注いだ。


「そうしてくれるなら嬉しいよ。俺は優勝をめざしてるから、一郎もそのつもりで頑張って欲しい」


「ああ、当たり前だ」


 俺だって、やると決めたことがある。それを達成するまでは、止まるわけにはいかないからな。


「……さて、戻るか」


 ◆ ◆ ◆


「今日は楽しかったぜー! いつも4人で遊んでたけど、1人増えると賑やかでいいもんだな!」


「久留米うるさーい」


「おい、それは酷くないかー!?」


「あはは……」


 帰り道を5人で歩いた。

 すごく賑やかな1日だった。

 この4人と遊んで、以前とは比べ物にならないくらい日常が楽しくなった。

 それだけじゃなくて、当初の目的でもあった女子陣の信頼を獲得するというのも達成した。それが一番の成果だ。

 初めはどうなるか心配ではあったが、バスケをやって一緒にご飯を食べて話しているうちに、少しずつだが打ち解けることが出来た。

 後はひとつに集中するだけ。それが一番大変だが、前より安心材料は増えた。


「あ、俺こっちの道だから」


「え〜、佐藤ここで帰っちゃうのか〜。じゃあ、また学校でね〜。あ、来週も来れる? また遊ぼうよ~」


「……」


 何となく、今初めて仲間だと認められた気がした。じんわりと胸の内側が暖かくなる。

 これが友達が出来るということなのだろうか。


「……佐藤?」


「ああ、いやごめん。勿論、来週も行かせてもらうよ。今日はすごく楽しかったし」


「本当? 助かる。久留米の相手するの大変だからさー」


「おい! そりゃ聞き捨てならねーなぁ!」


 しょうもない軽口の応酬が、自然と笑いを誘ってくる。

 久留米も楽しそうにツッコミを入れる。一時期リア充なんてとか思うこともあったが、なんだかんだ皆は人間なんだ。楽しくありたい。その思いは変わらない。

 

「あはは! じゃあな」


 俺は4人に手を振って、帰路についた。

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