12/11 休日のような日

 
「ねぇ……悪いけど、今日はお休みの日にしない?」
 



 朝、僕を訪ねてやってきたレディは開口一番そういった。理由は聞かなくてもわかる。小麦粉と干し葡萄を追いかけ回したおかげで疲れているからだ。だるさに加え、筋肉痛も始まっていた僕は、一も二もなく同意した。



 ヨロヨロと足取りがおぼつかないレディに長椅子を勧め、さて自分はどこに……と見渡すと、キノコのような椅子がにょきっと床から生えてくる。

 とくに訝しがることもなく、そこに腰を下ろせた僕は、早くもここに慣れてきたようだ。


 カレンダーを見れば、11日部分に新たなハートがある。

 なになに、今日の丸文字は『とぎとぎ♡』

 ……どういうことだ、これ?


 期限のクリスマスは25日。今は11日。まだ日にちには余裕があるようにみえる。

 ただ、クリスマス・プディングは、寝かせることで発酵が進み、美味しくなるお菓子だ。一ヶ月、二ヶ月寝かせることは当たり前。本場イギリスでは、一年以上寝かせる家庭もあると聞く。


 今回はそこまで時間を割くことはできないけれど、少なくとも20日頃には完成させて、あとは寝かせる日にしたい。だから、残り時間は意外に少ないと言える。


 下ごしらえに数日かかる材料もあるし、これからは材料を手に入れる順番も気にした方が良さそうだ。



 よし。出かけないのなら、今日は作戦を立てる日にしよう。えーっと、まずは材料をリストアップして……あー、なんか書くものないかな。

 やや、というかだいぶ期待して周りをみたけど、今回は何も部屋に出現しなかった。この辺りの線引きがよくわからない。


「紙……紙……」


 無意識につぶやくと、「なによ、うるさいわねぇ」とレディが不機嫌な声で自分の金髪を数本プチプチと抜いて差し出してきた。


「ありがとう。……って、違うよ! 僕が言ってるのは『髪』じゃなくて『紙』!」


「はぁ。よく見なさいよ」


 ……!! 果たして、僕の手に渡された髪は数枚の紙になっていた。どういうことなんだ? 音が同じなら、物として入れ替え可能。そういうことなのか……?


「あの……あとはペンとか鉛筆みたいな物って出せるかな。書ければ、なんでもいいんだけど……」


「外にいっぱい生えてたわよ」


 大体言いたいことが分かった僕は、外に飛び出し……ではなく体を労りながらソローリソローリ歩いていって、建物の脇に生えてたナズナ、別名ペンペン草を引き抜き、ソレが2本のペンと草に分離するのを待った。


 手に入れたばかりのペンを手に持ち、必要だと思った材料を紙に書いていく。


 最低限必要なのは、これくらいか……。


 夢中になって書き込んでいたので、レディが後ろにきていたことに気がつかなかった。

 不意にリストを覗き込んできた彼女は、トン、トンと素早くそのうちの二つを指さす。


「これなら、明日同時にいけるわよ」

「えっ、ほんとに?!」


 下ごしらえの観点からも、これらを早めに手に入れられるのはありがたい。


 レディは自信ありげにコクリとうなづく。


「ただし、ちょっと準備が必要だけどね。そうだわ、こうしちゃいられない! アタシ、帰るわね」


 そういうと、さっきまでヨロヨロしていたくせに、びっくりするほど機敏な動きで出ていこうとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ」


 まだ、ほかにも相談したいことが。


「待ちません。そうだ、コータ。あれ、ちゃんと研いでおいてね」


「と……ぐ……?」


 指された先には、いつのまにか物騒な代物——巨大なマサカリが置かれていた。

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