第18話 そして誰も俺に緋のマントを捧げなかった

オークキングは、俺の必滅の蹴りにその身を貫かれると、周りのオークをも巻き込んで木っ端微塵に爆砕した。


俺の蹴りはオークキングの巨体を貫き、その勢いのまま、駐車場のアスファルトを深く抉りながら漸く止まった。


そして、振り返った俺が見たものは、爆砕され四方に飛び散って燃え続けるオークキングの肉塊と、炭化して燻る多数のオークの死骸。更に、呆然として俺を見る守備隊の将兵達だった。


避難民を襲うため分派したオークの群れは、御眷属様方が一掃し、その御眷属様方は、最早用も無しとばかりに姿を消していた。


オークの大群が滅んだ満峰神社の駐車場では、ローターの回転音が一段と強くなり、やがて避難民を乗せた陸軍の大型ヘリは無事に離陸し、行く手は立川駐屯地か入間基地か、東の空へ飛び去って行った。


俺は次第に小さくなって行くヘリを見送りながら、一つの戦いが終わった事を実感した。



オークの群れ、そしてオークキング。いずれも決して楽な戦いではなかった。今回の戦いでつくづく思ったのは、魔物との戦いには魔法が実に有効という事。


どんな魔物であれ生物である以上、現代の兵器で対処可能だと思う。あの巨大だったオークキングでさえ、火砲やミサイルで攻撃すれば殺傷出来るだろうし、まして核兵器や、更に言えば衛星軌道上からの質量兵器などを使用すれば例え魔王だってイチコロだ、多分。


しかし、そのどれもがコストがかかり、運用に難があり、まして核兵器などは威力が強すぎてそうそう使用出来るものではない。それに対して魔物は何処に現れるか知れず、好きに動きまわり、人を襲い、街を襲い、進化して強くなる。


また、そうした兵器は軍隊、つまり国家が保持するものであるから、魔物出現の事案毎の柔軟で素早く、小回りの効く対処は難しく、後手後手に回る事になる。


そこに、もし、魔法が使える戦闘員(仮に魔法戦闘員とする)が いたとするならばどうだろうか?その戦闘員は身体強化の魔法で重い装備を携行しながらも山岳地帯でも行動可能。属性によるものの、それぞれが攻撃魔法が使え、魔法で水を作る事が出来、負傷しても魔法で回復出来るのだ。


そして、魔法のエネルギーとなる魔力は誰もが持つものであり、その元となる魔素は大気中に無尽蔵にあるものである。つまり、魔法使いは自ら魔力を作り出すため、特別なエネルギーを必要とする事は無い。機械を動かすよりも極めて安価と言える。


そうした魔法戦闘員を安定的に育成するシステムが出来たとしたら、魔物の出現・襲撃の事案発生に対し、必ずしも国家レベルの軍事力行使を必要とする事無く、将来的には、ラノベでお馴染みの《冒険者》のような、国から許可を得た魔法戦闘員の個人や集団が魔物討伐を請け負う、などという可能性もあり得るだろう。


もちろん、誰もが魔法を修得出来る訳では無いだろう。俺や斉藤が魔法を修得出来たのは、子供の頃から師匠より錬気道空手を通じて錬気術の教えを受けていたためであり、魔法に長けたエルフから魔法の手ほどきを受けられた為だ。


今後、この世界に魔法が根付き、普及するのか、否か。今の段階では何とも言えない。なんと言っても、この世界で魔法が使えるのは俺と斉藤しかいない訳であり、今の俺達に他人に魔法を教える余裕なんて無いからね。



そうした予想や推測はさて置き、どうにか困難を一つ乗り越え、俺は守るべき仲間達の元へ戻るべく、踵を返した。


しかし、皆の元に戻ると微妙な反応。斉藤は「お疲れ。」と労ってくれるも、何故か苦笑い。そして、エーリカは怒っていた、顔を真っ赤にして。


確かに、俺はエーリカとの約束を破り、結構無茶な戦い方をしてしまった。エーリカが、そんな俺に怒るのも当然なのだ。真摯に謝らなくてはならない。


「エーリカ。ごめん、約束を破って。本当に申し訳ない。」

「こっち来ないでよ、馬鹿!」


エーリカは最早、謝罪すら受けてくれないのだろうか?もう俺にその笑顔を見せてはくれないのだろうか?そんなのは嫌だ。


俺が更に謝ろうと、エーリカ歩み寄ろうとしたとが、避けられてしまった。


「来ないでって言ってるでしょ!」


ユーリカは可笑しそうに笑い、サキとミアは顔を真っ赤にして、時折俺をチラ見しつつ俯いている。どういうことだ?


エーリカはユーリカ達を連れて車両の方へ逃げるように去ってしまい、俺がそんな女の子たちを呆然と見送っていると、入れ替わるようにラミッド達獣人男子組がやって来た。


「兄貴スゲエな。オークキングを一撃じゃん!」

「兄貴、ホント強ぇよ!」

「兄貴、後でいろいろ聞かせて下さい。」


男子組は瞳をキラキラさせ、女の子達とは実に対象的だ。戦いは常に男の血を滾らせるという事か。


「でも兄貴、女の子の前では何か服を着ていた方がいいですよ。」


狐獣人のアックスにそんな事を言われ、え?と思って下を向いて身体を見てみると、なんと俺は全裸だったのだ。


何という事だろう。これではエーリカが怒るはずだ。まあ、怒っていた理由はそれだけでは無いだろうが。


「何でだ?っていうか、何で今まで気づかなかった?」


焦った俺は、斉藤に股間を隠すからお前のハンカチを貸せと頼んだのだが、「馬鹿か、お前は!」と罵られて、断られてしまった。


「お前が着ていた服は、おそらく炎龍のブレスで燃えたのだろうな。」


斉藤はそう説明し、俺は曖昧に頷いたが、そんな事よりも、俺の全裸を、そして大事な部分をエーリカにすっかり見られてしまった事実に、この後どんな顔して彼女と会えばいいものかと、頭を抱えた。


そんな最中、ふいに殺気を感じ、辺りに不穏な空気が流れた。周囲を見回すと、守備隊の空挺部隊が俺達を半包囲しながら近づいて来ていた。その銃口をこちらに向けて。


"リュウ"

".ああ"


俺と斉藤は目配せをして、互いの意思を確認する。空挺部隊は俺達を拘束するつもりだろう。彼等から殺気を感じる事から、俺達が抵抗した場合は実力行使をするはずだ。


まあ、思い当たる事は有り有りだ。確かに、彼等からにしてみれば、俺達は突然現れた得体の知れない力を使う怪しい集団かもしれず、世界に魔物が現れて人を襲うような世の中で、俺達も同類と思われてしまうったのかもしれない。だかしかし、俺達は多くのオークを屠り、オークキングを倒した。自惚れではなく、御眷属様方と俺達が参戦しなかったならば、ヘリは破壊され、避難民も守備隊も全滅していただろう。


それでも、俺達に銃を向けるのか。


"みんな。集まってくれ。非常事態だ。"


俺は全裸のままだったが、念話でエーリカ達女子組を呼び寄せた。空挺部隊はエーリカ達についても言及してくるはずだ。今までは単純に身を守るための戦いだった。しかし、残念ながら、これからは同じ人間、同じ日本人と戦う事も覚悟しなければならない。エーリカ達を守るために。


俺と斉藤は、念話でエーリカとユーリカにこの事態を伝え、俺達4人は獣人の子供達を背後に庇い、いつでも魔法発動出来るよう、迫り来る空挺部隊に対し身構えた。









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