第16話 狼と踊れ

満峰神社に現れた魔物・オーク。その身体は大きく、ぱっと見た感じでは2mくらいか。筋肉で肥大した身体は剛毛で覆われ、その手にはそれぞれ斧や棍棒などの武器を持っている。


俺の後方からは、エーリカとユーリカが放つ光の矢がオークを牽制している。俺はフルスロットルでバイクを加速させ、一直線に逃げ遅れた女性達の元へ向かう。


近づくと、二人の女性は20歳くらいと、高校生くらいの女の子で、年長の女の子が年下の女の子を抱き締めて庇っている。


そしてオークは、動けない二人に容赦なく斧を振り上げた。


俺は前輪にブレーキをかけて前のめりに後輪を浮かせ、更に前輪を軸にして車体をターンさせ、斧を振り上げてガラ空きになった顔面に後輪を叩きつけた。


「ブヒィィィ!」


オークは豚のような悲鳴を上げて仰け反った。俺はバイクを倒し、立ち上がりながら雷丸を抜刀し、刀身に魔力を込め、一刀の元にオークの胴を真っ二つに切り払った。


二人の女の子は抱き合って蹲ったままだ。俺は二人を安心させるため、周囲を警戒しながら声をかけた。


「大丈夫か?オークは倒したぞ。」

「へ?」


年上の女の子が間の抜けた声をだし、恐る恐る顔を上げる。黒髪ロングの、なかなかのメガネ美人さんだ。


「立てるか?」

「あっ、はい、立てます。」

「そっちの子はどうだ?」


年下の女の子は、色白のショートボブで、ちょっとだけ目がキツい感じがするものの、美人系の可愛い顔立ちをしている。


「私も大丈夫です。」


そう言って二人は立ち上がり、そして俺の顔を見て、何故か見続ける。

「?」


「土方先輩!土方先輩ですよね?」


いきなり年長の女の子に姓を先輩付きで呼ばれた。名札が付いている訳でもないのに。何故、俺を知っているのだ?


「そうだけど、誰だっけ?」

「私です。中学、高校で2コ下の後輩の北川 舞です。」


確かに後輩で北川 舞っていたな。2コ下だったからあまり絡みは無かったが、憶えている。えらい美人になったな。


「剣道部の?」

「はい!憶えていてくれたんですね!」


しかし、今はそれどころじゃない。3体のオークが、仲間の仇とばかりに襲いかかってきたのだ。


囲まれたら厄介だ。3体纏めて屠るには面で作用する電気系の魔法を使う事にする。


俺は二人を背後に庇い、左膝を立ててしゃがみ、右拳を地面にぶつけるように付けた。


「行け、エレクトリックファイヤー!」


俺の右腕から青い雷が発生し、雷は雷鳴を轟かせて地面をオーク共に向かって走り、オーク共は雷に全身を焼かれ、真っ黒に炭化して感電死した。


魔法の発動には、特に呪文や詠唱は必要としない。しかし、指向性の魔法の場合、向かわせる方向について、言葉や指で指し示すジェスチャーを付加させると、その魔法の効果がより出易くなる事が以前の実験によってわかっていた。


この電気魔法は、そうした性質を利用して作った技であったが、上手いように3体纏めて屠る事が出来て良かった。


二人の女の子は、俺の技に驚いて声も出せない様子だが、そのままにもしておけず、俺は早く逃げるように促した。


「二人共、動けるようなら向こうまで走れるか?」

「「…」」


俺は二人に斉藤達の方を指し示した。しかし、オークに殺されかけた経験の直後に走って逃げるには微妙に距離があった。


と、その時、突然辺りの空気が張りつめた。音も無く、時が止まったような一瞬の後、神社の社がある木々の間から、牛のような大きさの巨大な狼の群れが飛び出し、避難民を襲っていたオークの群れに襲いかかった。


「ガァウルルゥ!」

「ブヒィィィ」


不意を突かれたオークの群れ。あるものは喉笛を食い千切られ、あるものは大腿に噛み付かれて倒れたところに、更に他の狼に全身を食い千切られて絶命した。


狼の群れには、よく見ると俺達を案内した狼(多分だけど)もいた。この狼達は、その大きさや纏う気配から、生物としての狼ではなく、恐らく、この満峰の山を守る神獣、御眷属様なのではないかと俺は直感した。


突然の御眷属様の参戦で、形成は一気に逆転。避難民を襲っていたオークの群れは、逆に襲われる側となって急速にその数を減らしていった。これで神社の社があるこちら側の安全は確保されたと考えて良いだろう。


「境内の方へ逃げろ。向こうはもう安全だ。」

「先輩はどうするのですか?」


俺はエンジンがかかったままで倒していたバイクを起こして跨り、軽くエンジンを吹かして状態を確認する。うん、異常は無いようだ。


「俺はヘリを襲っているオーク共を始末する。」

「わかりました。きっと先輩なら出来ちゃうんでしょうね。」


北川さん立ち上がり、年下の女の子にも促した。本当なら、こんな時は一緒にいてあげた方がいいのだろうが。


「先輩、先輩のその力は?」

「ごめん、それに答える時間が無い。急いでくれ。」


俺にそう言われた北川さんは、何か言いたげな表情をしてたが、事実、時間が無いのだ。


「わかりました。先輩、助けてくれて有難う御座いました。先輩もご無事でいて下さい。」


北川さんは俺に一礼し、年下の女の子の肩を抱いて、境内の方へと歩き出した。年下の女の子は何も言わず、何故か俺の顔を凝視し続けていたが。


バイクを駆って、斉藤達の元に戻る。途中はオークの死骸が累々と有り、御眷属様の力の強さが窺えた。


しかし、残念な事に、その中には避難民の遺体も散見された。この戦いが終わったら収容しなければならないだろう。



ヘリ襲撃のため分派したオークの群れは、守備隊の防戦と、斉藤、エーリカ、ユーリカの魔法攻撃を受けて、その数を減らしているようだった。


しかし、それでもなお、未だに50体ほどのオークがヘリを囲んでいる。


俺はオークの死骸をジャンプ台がわりにしてバイクをジャンプさせ、行きがけの駄賃とばかりに、1体のオークの背部にバイクごと体当たりさせた。その、バイクがオークにぶち当たる瞬間、俺はバイクの前輪に念力を応用して強力な高周波振動を生じさせた。


「ラ○ダーブレイク!」


オークは背部にバイクにぶつけられた衝撃と強力な高周波振動を喰らい、悲鳴を上げる間も無く、その上半身を砕かれてミンチのような状態となって絶命した。


俺は好きな昭和の変身ヒーローの技を、自らの魔法で再現出来た事に満足して、仲間の元に急いだ。


「済まん、遅くなった。みんな無事か?」


俺が逃げ遅れていた北川さん達を助けに行っている間、斉藤、エーリカ、ユーリカは獣人の子供達を守り、襲いかかってきたオークを撃退していた。


「リュウ、お疲れ。」

「リュータ、良かった。こっちはみんな無事よ。」

「リュータ、大活躍ね。」


俺は斉藤と目が合うと、お互いに頷き合う。俺達四人で開発した大技で、残りのオーク共を一気に滅却してくれよう。










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