第14話 もっと、ロードを

当然の話だが、獣人の子供達を助けた以上、責任を持って今後も保護しなくてはならない。じゃあ、俺達先急ぐから元気でな?という訳にはいかないのだ。


そして、夜が明けて朝となり、朝食をしっかり食べた俺達は、当初の予定通りに避難所となっている満峰神社へ向けて出発する事となった。


では、車へ乗り込め!となった、その時になって初めて、現状に大きな問題がある事に気付いた。俺やエーリカ、ユーリカは兎も角、斉藤までこの事を失念していたのだから、俺達皆、昨日の出来事で余裕が無かったのかもしれない。


斉藤のパジェロは7人乗りで、俺達は人数増えて9人。つまり、そういう事だ。定員オーバだったのだ。獣人の子供達は、子供達とは言いつつも皆中学生くらいの年齢で、体格も痩せ気味でもそれなり。更には食糧や物資なども多く積んでいるのだ。


満峰神社まで、道路状況が良くないので、ゆっくり走行して2時間くらいだろうか。その間、葛折りのくねくね道をギュウギュウ詰めの状態、しかも自動車に乗るのが初めてという子供達が乗車する、という事になる。おわかりだろう。きっと車内はゲロまみれだ。


この先何があるのかわからないので、荷物を捨てるなんてのは問題外。


ではどうするか?

そこで、他の移動手段を確保しよう、という事になったのだが、確保出来たのがオフロードバイクが1台。


そのバイクはヤマハ・セロー250CC。魔物による破壊を免れた車庫で発見したのだ、キー付きで。結構古いバイクだが、オーナーは整備を怠らなかったようで、状態は良く、燃料も満タン、満峰神社に行くには十分だ。


「これって車輪が2つしか無いけど、どうやって使うの?」


エーリカがバイクを見ながら、興味津々に尋ねた。


向こうの世界にも、馬車などの4輪で大型動物に曳かせる車両はあるものの、2輪というものは遊び道具でもそういったものは無いそうだ。


俺がエーリカにバイクの仕組みを説明すると、乗ってみたいというので、点検を兼ねて少し乗ってみる事にした。


車庫から出した車体は、特に下手なチューンナップはされていないスタンダードなものだ。俺がキーを差して回すと、バッテリーの電圧もいいようで一発でエンジンはかかった。


「「おおー!」」


エンジン音に、周りで見ていたエーリカとサキの驚く声が重なる。


因みに、アラクネから助けて以来、サキは俺に付いてくる事が多い。今回も自動車を探しに行こうとしたら


「私も一緒に行っていいですか?」


と上目遣いで求められ、特に問題ないため、いいよと答えると、それを見ていたエーリカが


「私も一緒に行こうかなぁ?」


と、俺をチラ見して言ったため、3人で集落内を探索に行く事になったのだった。


「じゃあ、ちょっと走ってみるよ。」


俺はバイクに跨ると、左足でスタンドを上げ、スロットルを軽く何度か回して空吹かしさせた。


うん、エンジンの調子もいい。そのままギアをロウにして低速で走り出し、路上を一回りする。


凄い、凄いを連発する女の子たちをよそに、一つの懸念が浮かび上がった。こうしてバイクが一台確保出来たのはいいとしても、俺が運転してもパジェロの定員オーバは解消しないのではないかと。そうした疑問を口にすると、エーリカが、


「大丈夫よ。だって、それって二人乗りなんでしょ?二人で乗ればいいんじゃない?」


まあ、確かにその通りで、オフロードバイクでも長距離を走る訳ではないから、ちょっと寒いけど、何か上着を着ればタンデムでも問題ないだろう。


斉藤達が待つ支所までバイクを押して3人で戻る。その途中、何やらエーリカとサキの間で牽制し合う気配が感じられたが、気にしない、気にしない。


しかし、いざ、誰がバイクの後ろに乗るのか、で少々揉める事となった。エーリカは車内のスペースを空けるためなのだから(一応)大人である自分が乗るのが当然だと主張し、サキも私も乗りたいと譲らない。バイクを見てエンジン音に魅了されたラミッド・アミッド兄弟も、俺も、俺も乗りたい!となったのだ。


「ここは大人であるエーリカがバイクに乗った方がいいだろう。」


という斉藤の一言で、一応この問題は終息した。しかし、この決定に喜んでドヤ顔するエーリカにサキがむくれたため、次は必ずサキを乗せるからと約束して納得してもらい、虎兄弟には乗り方を教えると約束した。


「約束だぜ兄貴。」

「あぁ、男と男の約束だ。」


そう言って拳と拳をぶつけ合う男3人。こういう事に世界とか文化の違いが無い、というのが興味深かった。


因みに、俺は男子組からは兄貴と呼ばれている。俺が主に彼等の面倒を見ている、という事もあるが、獣人が力の強い者に従う習性がある事も関係あるようだった。


そして、それまで俺はサキの事をちゃん付けで呼んでいたのだが、俺と男子組が名前で呼び、兄貴と呼び合う様を見て、サキが自分の事もちゃん付けでなく、名前で呼んで欲しいと言い出した。そうした訳で、サキの事も名前で呼んでいる。



仕切り直して、再度、満峰神社へ向けて出発する俺達一行。バイク探しで少々時間を喰ってしまい、時刻は午前10時を過ぎてしまっていた。


と、その時、俺達の上空を国防軍の大型ヘリが通過して行った。今までも広大な魔物出現地域に点在する孤立状態の避難所から、避難民を救出搬送している国防軍や警察のヘリを目撃している。今、上空を通過して行った大型ヘリも、飛行して行った方角的に満峰神社へ向かっているようだった。


俺は乗車してセローのエンジンを始動させた。エーリカは、俺が失敬してきたヘルメットを被って後部座席に跨り、俺の胸に両腕を回してしがみつく。そして、俺は背中越しにエーリカの柔らかさを感じて、自分のエンジン回転数がどんどん早くなっていくのがわかる。


「い、行くよ?」

「フフッ、安全運転でお願いしま〜す。」


絶対わざとやってるよな、まあ、いいだけど。


走り出した俺は、ギアをセカンドに切り替えて国道に出た。バックミラーには後続するパジェロがが見える。このまま魔物の襲撃などがなければ、2時間かからないで満峰神社に到着するはずだ。


国道から信号を左折して県道に入り、秩父湖に沿って二瀬ダムの上を通る。


"こっちの世界の技術って凄いのね。こんな大きな堰まで作っちゃうのね。"


エーリカから念話が伝わってきた。このように密着すると念話は感度が更に良くなり、より内容がはっきりと伝わるのだ。某SFアニメの"お肌の触れ合い通信"と同じようなものと俺は理解している。


"貯めた水で発電したり、飲み水を供給したり、下流の洪水を防いだりしているんだよ。"

"へぇ、私も凄い世界に来ちゃったものね。"

"俺からしたら、魔法の方が凄いけどね。"


こんな時だけど、俺はエーリカと二人でいられる幸せを感じている。このままエーリカとずっと一緒に居たい。俺はつくづくエーリカというエルフの少女に惚れているのだと思う。知り合って10日くらいだが、初めて会った時からもう好きだった。魔物がこの世界に現れて、世界も、多分俺の人生も変わってしまうかもしれないけど、エーリカと出会えた事は、この事態を起こした誰かに感謝したい思いだ。エーリカの為なら死んでもいい、いや、エーリカの為に死にたい。


と、そんな事を考えていると、俺の体に回しているエーリカの両腕に力が入り、ギュッと強く体を押し付けてきた。急にどうしたのだろうかと訝しんでいると、一つの可能性が思い浮かんだ。まじか、やば過ぎる。


"エーリカ、もしかして、今の念話で伝わっちゃった?"

"…うん。"


今更誤魔化す事は出来ない。伝わってしまったものはしょうがないのだ。バイクに二人乗りして、告白(念話だけど)とか、考えようによってはカッコいいじゃないか。


しかし、危険を予知した感覚と、魔物の気配を感知して、俺は甘い思考を中断させた。


"エーリカ!"

".うん。"


俺はバイクを停車させ、後続の斉藤達と合流した。斉藤もユーリカも危険を予知し、大量の魔物の気配を感知していた。ほぼ間違いなく、この先の満峰神社へ魔物の大群が向かっているのだ。


魔物の大群は、旧大滝村の全域に出現しているかもしれず、どこに行っても魔物と遭遇し、戦う事になるだろう。


進むか、引き返すか。決断をしなければならない。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る