第6話 ちらり



「それで、何するんですか?」


 ぼーっとしていて先生の話を聞いていなかったので、バツとして何かの手伝いをしなければならないこととなった俺は、先生に言われるがままに着いていく。


「んー、何だと思う?」


 先生は子供のような笑顔をこちらに向けてくる。

 職員室を後にした俺達は階段を降り、現在一階の廊下を歩いている。


「保健室で大人の授業とか」


「……」


 俺が冗談を言うと、先生は呆けた顔をこちらに向けてくる。呆れている、というよりは衝撃を受けているようだ。


「ま、間宮くんは先生との大人の授業をペナルティだと言うの?」


「そこ!?」


「重要なところだよう! わたしだって、その、一応女だし……そういうこと言われると、さすがにショックというか」


 もじもじしながらブツブツと独り言のように呟く先生の顔は赤く、若干涙目なのでたぶんこれはガチのやつ。


「いや、冗談ですよ。先生と大人の授業とか、お金払っちゃうレベルですよ」


「いくらくらい?」


 先生は上目遣いでこちらをちらと見上げてくる。歳上で大人なのに、上目遣い使ってくるとかマジ卑怯。

 ていうか、この人自分の価値を数値化しようとしているのか?

 俺は衝撃を受けながらも俺は考える。限りなく短い時間で考える。なんて答えれば正解なのかを。

 冗談ぽく一〇〇〇円とか言うか? いやいやさっきの冗談でさえ本気にしたのだからそれはシャレにならなそうだ。

 じゃあ一五〇〇〇円くらいで行くか? リアルだろ、風俗とかそれくらいだし。でも「わたしは風俗嬢か!」みたいなツッコミ返ってきても困るし、そもそも今の俺は風俗事情を知らないはずだし。

 なら三〇〇〇〇とか四〇〇〇〇円くらいか。いや「わたしはソープ嬢か!」というツッコミが目に浮かぶ。


「いやいや、先生に値段なんてつけられませんよ」


「なにそれ」


「何円出されても渡したくないってことですよ」


「いつからわたしは間宮くんのモノになったのでしょうかね」


 じとりと半眼をこちらに向けてくるが、起っている様子はないので乗り切ったと言える。

 なんてことを話している間に目的地へと到着したようで、先生はくるりと回ってこちらを向いた。


「ここです」


「花壇?」


 花壇である。

 他に説明などしようがないくらいに花壇であった。

 校舎を出て、中庭の方に歩くとある花壇。あまり意識して見たことはないけど、いろんな花が育てられていた気がする。


「イグサクトリー」


 いい発音で、先生は親指を立てながら言ってきた。


「ここで何を?」


「実はここの花壇はわたしがお世話をしているんだけど、暖かくなってきたから新しく何か育てようかなと思って」


「はあ」


「そして、見ての通り雑草とかがちらほらと見えるでしょ? 花を育てる為には周りの環境を整えてあげることが大事なの。だから、まずは雑草抜きから始めようかと思ってね」


「あ、それを手伝えと」


 納得だ。

 確かに雑草抜くの面倒だもんな。そもそも言うと花を育てること自体が面倒だ。よくもまあそんな面倒なことを進んでやるもんだよ。


「手伝えとは言ってないよ?」


 ちっちっちっと、指を振る。

 いや、言いましたけどね。


「でも、目の前で汗水垂らして雑草を抜く先生をただ見ているなんてこと、優しい間宮くんはできるかしら?」


「……出来なかないよ。ただ、じっと見ておくのもわけ分かんないから手伝いますけど」


 言いながら、腕まくりをして準備を始める。そんな俺を微笑ましそうに見ながら、先生も腕まくりをした。


「じゃあ先生はこっち側やるから、間宮くんはそっちをお願いね」


「うす」


 長方形の花壇のあちら側に先生が回る。隣同士でやるよりは効率がいいだろうし、悪くない采配だ。


「…………」


 雑草を抜きながら視線だけを向けてちらと先生の様子を伺うと、俺の視線は自然と先生の足元……太ももへと吸い寄せられる。

 タイトスカートから伸びる足は折り曲げられているが、足の隙間から太ももが見えている。あれが普通のスカートならば余裕で下着が見えただろうが、タイトスカートなので中は見えない。

 しかし、俺レベルの変態になると下着など見えずとも興奮するなど造作もない。タイツと太もも、その組み合わせはもはやゴールデンコンビと言ってもいい。

 更に前かがみになって雑草を抜くものだから、胸元から肌色がちらりと見える。引き締まった体をしているが胸は大きいので、微妙に谷間が見えるところにさらに興奮だ。

 体が高校生に戻ったからか、思考も段々と侵食されているのか。思春期のようなドキドキを覚える。


「ん、なに?」


 俺の視線に気づいた先生がこちらを向く。さすがに足と胸元見てましたとは言えないので、笑って誤魔化す。


「いや、先生がサボってないか見張ってたんですよ」


 そんな俺の冗談を、またしても本気に捉えたのか先生はぷくっと頬を膨らませ、大人らしからぬ拗ね方を見せるのだった。

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