ネックレスとブレスレット【改】 魔法少女に召喚された青年は彼女を守る事になりました!

川村直樹

第1話 プロローグ

人間、エルフ、ドワーフや獣人、四つの異なる種族が共存する世界。


個々種族の繁栄を願った神は、種族ごとに異なる能力を授けた。


それぞれの種族は、長い時間をかけ世界に散らばり独自の生活圏を形成した。


人間族は、寿命が他の種族より短い代わりに高い知識と魔法を与えられた。


知識を武器に国を作り発展させた彼等は、一番人口の多い種族になれた。


ただ彼等の盲点は、化学技術を発展させてしまった事だった。それは、文明の発達に反比例して魔法を失うに等しかったのだ。


せっかく与えられた火、水、風、土の四属性を具現化する力の使い方を忘れ、魔法を使える者の力は弱くなっていた。


本来なら自然の摂理を理解し、科学的な知識を取り入れれば、この4つの魔法を組み合わせ他の種族が真似できない強力な力を得る事が出来たのに。便利な発明品により人間族は、神の恩恵を次第に忘れて行ってしまったのだ。


エルフ族は、長寿種族である。


彼等は、自然を愛し守護する者として神から光と闇の魔法が与えられた。四属性の魔法とは異なる形無き光と闇の魔法は、表裏一体の力だった。


それは使い方を間違えれば、この世界に混乱と絶望をもたらしてしまう力。自分たちに課せられた力を恐れた彼等は、他種族との交流を絶ってしまう。


孤立し科学技術から遠く離れてしまった彼等は、便利な物に頼らない独自の文明を築いていく。


静かな生活を望む彼等は、森の中に国を作り自然と共に生きる道を選んだ。


ドワーフ族は、国を持たない流浪の民となった。


モノづくりに長けた技能集団を築く彼等は、小さな体をしているが、神より与えられた強靭な身体能力により一番力の強い種族となった。


彼等は、与えられた力を戦いよりモノづくりに使うのを好んだ。


最高の武器や道具を作るために人間族や獣人族の国に住み付き、子々孫々に技術を継承しながら日々腕を磨く。


稀に魔法の使える者が現れると、魔法が付与された絶大な武具を作る事もある。そんな彼等を人間族と獣人族は受け入れたのだ。


ただし、人工物が好きな彼等と自然を守るエルフとは、仲が悪く決してお互いを認めない犬猿の仲となってしまった。


獣人族は、神によって猫科と犬科の二種類に分けられた。


神から与えられたのは、高い知識や魔法では無く全てを受け入れる寛大な心だった。


人間族とエルフ族より高い身体能力こそ与えられたものの、彼等は魔法が使えなかった。


他種族との共存の道を選んだ彼等は、農業と狩りを生業に人間族と隣接して国を成す種族となった。


ドワーフ族の次に腕力を得た犬科の獣人は農夫となり、俊敏性を活かす猫科獣人は狩人となった。


戦いを好まない自然を愛する彼等は、異なる種族に寛容なのだ。

そのため獣人族は、それぞれの種族の仲介者となる役割を担う様になった。


この世界で最も力の弱いはずの人間族が、繁栄と栄華を極めて行った。


人口を増やし国が増えると、同族同士でも醜い争いを始めた。より多くの人と土地を支配するために、王となった者達の欲望は留まる所を知らなかったのだ。やがてそんな人間族は、他の種族にとっての脅威となってしまう。

 

そんな人間族に伝わる伝説からこの物語は始まる。


約200年前、国を滅ぼすほどの強大な魔力と知識を持つ魔法士が人間族の中から1人現れた。彼は、パートナーと呼ばれる不思議な武器を操る者を従えていた。


魔法士と行動を共にするパートナーは、その不思議な武器で百人、千人にも勝る力を備え魔法士に降りかかる火の粉を払う。そんな魔法士を守るパートナーは、いつも何処からともなく現れる不思議な存在だった。


世界を良くしたいと考えていたこの魔法士は、パートナーと共に困っている人々を種族に関係無く旅をしながら助けるのが日課になっていた。


救いの手を差し伸べる魔法士は、人間族にとっての救い主となり神格化され、違う種族からは恐れられ、二人の噂は波紋のように国々に広まった。


ある日、貧困にあえぐ小国に魔法士とパートナーがやって来た。


小国の王は良き心の持ち主で、苦しむ民の事を常に思い、争いと飢えの無い幸せに満ちた世界を切に望んでいた。


王に共感した魔法士は、共に良い世界を作ろうと、この小国のために力を貸す。


新しい作物や栽培の知識を人々に教えると、それまでの食糧不足が嘘の様に解決し、飢えのない生活が送れるようになった。


農業が充実すると、今度は商業の発展を目的とした交易物流拠点を作り、外貨の獲得によって人々の暮らしを豊かなものにした。


更には、周辺で暗躍する盗賊や隣国からの脅威を退けるため、軍に戦術と武器の知識を与えた。時には攻め入る者があれば、パートナーと共に自からが戦場に赴いて、強大な力で敵を打ちのめした。


知識と力を得た小国が、領土を増やし豊かな大国と成るまでに、さほど時間は掛からなかった。


全ての人が善人なら何の問題も起こらないが、悪人もいるのが世の常である。


大国となると、もっと豊かになりたい、強くなりたいと思う人間が増えた。


そんな中で良き心を持つ王が亡くなると、後継者を選ぶための派閥争いが起きた。


それだけでは終わらず、領主、高官、軍人、商人、農民と誰もが私利私欲のために自己中心的な考えを持つようになってしまったのだ。


醜い人間の所業に心を痛めた魔法士は、パートナーと共にこの国から去ろうと決め、人知れず出て行ってしまった。


大国の人々は、魔法士の旅立ちを快く思わなかった。


何故なら彼等は、自分達の事しか考えていなかったのだ。豊かな暮らしを失うことを単純に恐れたのである。


欲望に駆られた新しい国王は己の利益のために、魔法士の力を私物化し利用したかった。だからこそ軍を引き連れ彼等の後を追いかけた。


東へ東へと進む魔法士たちに、王が派遣した軍勢が追いつく。


新しい国王は、国に戻るよう魔法士を説得したが、応じてもらえなかった。


国王に従わない魔法士は、彼等にとっていずれ脅威に変わる存在になる。


恐れを抱いた国王は、魔法士たちを追いかけ、殺せと軍に命じた。


彼等の愚かな行為に呆れた魔法士は、これから向かう東の地へ軍勢が近づけないように、魔法で険しい山脈を作り出した。山脈は、国と国とを隔てる国境線となり大陸を分断した。


行く手を遮られた軍勢は、魔法士を追いかけるのを諦めた。


撤退する彼等を山頂から見届けた魔法士は、東の彼方へと消え去り行方をくらませたのだった。

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