第24話 雨宮と帰り道



「アメゾンちゃん、おっつ―! ハイタツくんもまた来てね―!」

「マキちゃん先輩、お先に失礼します~」

「は、はい。機会があれば……」


 ビルの出口まで見送りに来てくれた元気っ子メイドに頭を下げ、あぶな荘への帰路につく俺と雨宮。

 滞在時間は1時間ほどだったが、なんとも濃ゆい時間だった。


 しこたま雨宮に怒られた俺は、「ハイタツくんは適当に相槌を打ってろ!」と言われ、ただただ首を縦に動かす機械となっていた。その甲斐があってか、どうやら俺は彼氏として認められ、雨宮もバイトを平常通りに続けていけるようになったようだ。

 そしてメイドを愛するものという共通点から、なぜか店長と仲良くなり、RIMEを交換してしまった。さすがにあの店長と同族と思われるのは不服ではあるが、定期的に雨宮のバイト風景の写真を撮ってもらうとしよう。


「そういえばハイタツくん、さりげなく女の子とRIME交換してたよね?」

「そ、それは、あの3人が勝手に……」


 RIMEの連絡先を交換する方法に、『ぷるぷる』という機能がある。その機能を使用しながらスマートフォンをぷるぷる振ると、近くで『ぷるぷる』を使っている人と自動的に連絡先を交換できるというハイテクなものだ。ちなみに俺は、そんな機能があることをはじめて知った。

 その機能を使って店長と連絡先を交換している時、なぜか姦しメイドーズもぷるぷる振っており、気づけば俺のRIMEに店長と姦しメイドーズの連絡先が追加されていたのだった。


「別にいいけどさー。悪用したらダメだぞ!」

「し、しないよ!」

「そーですかー」


 悪用どころか、まったく使わない可能性が高いです。

 先を歩く雨宮の靴音は高く、どうにも不満いっぱいという雰囲気だ。後から思い返せば、俺は失敗ばかりしていたし、怒られても当然かもしれない。というか、本当に雨宮のバイト先でなんというバカなことをしてしまったんだ……思い出せば思い出すほどに、なんだか落ち込んできたぞ……。


「もう、どうしてハイタツくんが暗い顔するの。調子狂うなぁ」

「えっ、ご、ごめん」

「ほーら、すぐ謝る。しゃんとしなさい!」

「うっ、は、はい!」


 背中をドンと叩かれて、背筋を強制的に伸ばされる。小柄な見た目に反して、スナップの効いた力強い張り手だった。けっこう痛い。

 しかし、こうして背筋を伸ばしてみると、なんだか気持ちも前向きになった気がした。雨宮の張り手には、元プロレスラーの闘魂注入ビンタのような不思議な力があるのかもしれない。


「うん、いい顔になった! カッコいいぞ、ハイタツくん!」

「お、おう!」


 雨宮に「カッコいい」と言われ、お世辞だと分かっていても嬉しくなっちゃうハイタツくん。でも仕方ないじゃない、こんな美少女に褒められてしまえば、人間だれしも生まれてきた幸せを嚙みしめるものだろう。

 ありがとう、世界。ハロー・ワールド!


「今度は変な顔してる」

「ガーン」

「あはは、口に出して『ガーン』って言う人を初めて見た! ガーン!」


 俺の真似をしながら、雨宮は楽しそうに笑った。それを見て、俺もなんだか自然と笑顔になった。

 まさか自分が異性と一緒にいて、こんなにも自然に笑える日がくるとは、1週間前の自分では想像もつかなかったと思う。いつも行くコンビニの店員ですら、異性であれば目を合わせるのを躊躇するほどであるし、阿武名さん以外の異性と話す機会なんてそもそもなかったのだ。


 それに、仕事から帰るこの道がこんなにも楽しいと思ったことも、初めてだ。

 ただ毎日を生きることで精一杯で、「明日も仕事かぁ」なんて心の中でボヤキながら、重い足取りで帰る毎日だった。別に仕事が嫌いなわけでは、ないのだけれど。


「どうしたの、ハイタツくん?」


 雨宮がやってきてから、まだ4日しか経っていない。

 たった4日だけれど、人生が大きく、それもとてもいい方向に変わったような、そんな気持ちになった。


「ありがとう、雨宮」

「えー? よく分からないけど、どういたしましてであります!」


 不思議そうな顔をしてから、なぜか綺麗な敬礼ポーズを返してくる雨宮。そして敬礼ポーズのまま綺麗に回転して前を向き、楽しそうに大きく手を振って行進をはじめた。

 その微妙にズレた返事も、楽しそうにノリで返すところも、なんだか雨宮らしくて微笑ましかった。


「ちゃんとお礼が言えたハイタツくんに。ご褒美をあげようじゃないか」


 しばらく「あるこーあるこー」なんて歌つきで更新していた雨宮だったが、ふと立ち止まったと思うと、そんなことを言いはじめた。


「ご褒美?」

「そ! 今日はハイタツくんが食べたいもの、なんでも作ってあげようじゃないか!」


 気がつけば、家からすぐの場所にあるスーパーの前にいた。

 どうやら、ここで晩御飯の食材を買っていこうということらしい。確かに家の冷蔵庫には、あまり食材がなかった気がする。


「だけど、『チョモランマ』で晩御飯を……」

「食べてないよね?」


 という雨宮の言葉に答えるように、俺の腹が情けない声をあげた。

 よくよく思い返せば、いつのまにかチョモランマのテーブルの上にあった料理たちは姿を消していて、姦しメイドーズたちが片づけをしていた。混乱していて気がつかなかったが、状況証拠から推測すると、俺が食べるはずだった領地たちは姦しメイドーズのお腹の中らしい。


「あの料理、あたしも食べるはずだったんだ。『ちゃんと残しておいてください』って頼んでおいたのに、先輩たちはホントに食いしん坊なんだから」

「あんなに細いのに、よくあんな量を3人で……」

「女の子をナメたらいけません。美味しいものは、いくらだって食べれるのです」


 人差し指をピンと立てながら、得意そうな顔で話す雨宮。確かに雨宮も小柄だし、爪楊枝かと思うくらいにウエストも細いけど、成人男性の俺と同じくらいの量を食べるのだ。

 女の子のお腹はミステリー……。


「ほら、お買い物をしましょうか。彼氏(仮)さん」

「うえっ!? まだ続いてたの!?」

「なんだよ――! イヤならいいです、元彼氏(仮)さん――!」


 憎たらしくもかわいらしいアッカンベーを披露してから、スーパーへと小走りで駆け込んでいく雨宮。

 彼氏役というのは、チョモランマの中だけのことだと思っていたため、反射的に返してしまった。これは勝手に俺が雨宮をフッたみたいになるのだろうか。

 雨宮が怒るのも無理は……。


「ん?」


 どうするべきかと迷いながら、雨宮の後姿を見ていると、あることに気がついた。

 小走りでスーパーに駆け込んでいった雨宮だが、入口にあったカートだけを持って店内に入っていっているじゃないか。


 なるほど、これは……。


「ちょっと待って! 彼女(仮)さん!」


 同じ入口にあったカゴを確保しながら、俺も小走りで雨宮の後を追う。


 追いついた時、雨宮にスネを蹴られながら「スーパーで大声を出さない!」と怒られたけれど。

 なんとなく、雨宮の顔は満足そうに見えたのだった。




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なんとなくキリがいいので第一章 完!!!


まだつづきます。


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ネットショッピングでTシャツを注文したら美少女高校生が置き配されていて、キャンセルも不可らしいので結婚することになりそうです。 詠み狐知らず @yomi_0523

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