第39話 旅行①

「はあ……なんでカップルに挟まれながら旅行に来ないといけないんですか……」

「梨花、せっかくの旅行なんだから仏頂面してたらもったいないよ‼」

「だ、誰のせいだと……!」


 さっそくバチバチの雰囲気だが、俺は正直めちゃくちゃ楽しみにしていたので、先輩の味方である。

 残念ながら相坂さんには犠牲になってもらうしかない。


「そう言いながら、相坂さんも楽しみにしてたんでしょ?」


 幅がめちゃくちゃ広い麦わら帽子みたいな形の白の帽子を今まさに外そうとしている相坂さんに、俺は言う。

 今は新幹線に乗り込んだところで、この新幹線で福井まで行く。


「い、いや、私は別に楽しみにとかは……。ただ、魚とソースカツ丼がちょっと」

「さすが梨花。食い意地が張ってるっ」

「真理は殴られたいの?」

「ご、ごめんなさぁい……」


 そう言っている先輩は、白を基調としたスカート型のワンピース。

 もう5月ということもあって、露出度も高く涼し気な格好だ。ちらりと見える真っ白に照り輝く太ももがまぶしい。


 相坂さんはもう少しカジュアルに長丈のチノパンツとTシャツというカジュアルな格好。こちらも露出度は先輩に比べて控えめだが、シャツでは隠しきれないスタイルの良さが思わず目を引く。


 そんな美少女二人と3人席に座る。

 窓側から相坂さん、先輩、俺と来ていて、周りからは「なんであんな冴えない男が……?」「男1人に女2人ってどういう関係?」みたいな目が飛んでくる。

 ああ、痛い痛い。


「うーん、駅弁買ってこればよかったかな?」

「先輩、この時間から食べたらお昼食べられなくなりますよ」

「でもでも、駅弁っておいしいし」

「あと、隣から『あんたも同じくらい食い意地が張ってくるくせに、なんで太らないのよ』っていう怨嗟の目があるからそれ以上はやめた方が」


 先輩の左隣から、「コロスゾ?」みたいな目をしている相坂さんがいるから、それ以上はやめておこう。

 ちなみに集合時間の30分前に早く到着したところ、駅弁エリアに目を輝かせている相坂さんの姿を見たのは内緒だ。


「それで、どこ回るー?」

「まずは福井に行く前に、ひとまず金沢駅周辺を攻めましょう。おいしい料理屋さんも多いみたいだし、そこなら真理も満足に食べれると思う」

「自分が、でしょ?」

「殴る」

「もう前置きもなく殴るんだ⁉」

「そのあとはせっかくなので恐竜博物館とか、あとは……」


 左で、美少女二人がパンフレットを見ながら旅行計画を考えている。

 うむ、あれだ。めちゃくちゃ楽しい。


 俺は普段、あまり旅行に行っても観光地を回るのが好きではなく一刻も早くホテルや旅館で落ち着きたいタイプなのだが、先輩と相坂さんと行くというのならやっぱりいろいろなところに行きたい。

 思い出が欲しいというか、たくさんの感情を共有したいというか、多分みんなこういう気持ちになるから旅行で様々なところに行くんだろうなあと思う。


 そんなことを思いながら、でもやっぱり旅館に向かってからのこと、さらにもっと言えばお風呂から出てきてからのことを考えてしまっていた。

 馬鹿野郎、俺。





 そこから新幹線が到着したのは金沢駅。


 金沢駅で検索をしてくると出てくる、誰もが金沢駅と聞いて思い浮かべるであろう、暗闇にライトアップされて出てくる門は『鼓門つづみもん』というらしい。金沢駅の兼六園口に存在しており、観光客に非常に人気となっている。


 実際、立ってみるとその威圧感が半端ない。

 その威容を誇る二つのぶっとい柱はあまりにもでかすぎて、自分がちっぽけに見えてくる。とんでもねえ代物だなこれ。


「すっごくおっきいー! 千太くん何人分なんだろう?」

「何人分かわかりませんが、分かったところで僕単位だと弱く見えそうですが」

「ってか、この後ろガラスで天井覆われてるんだーっ! おもしろーい‼」


 金沢、つまり石川県は北陸ということで日本海側。つまりたくさん雪が降る。

 だからこそ、観光をしてきてくれた人のためにこういうガラス張りの天井になっているのだとか。


「……!」


 相坂さんも言葉にしないが、かなり楽しんでいるようだ。

 無言でその光景を写真に収めている。なんかいつもの大人っぽい感じとは違って女子高生らしさがある。ちょっとかわいい。


 そんなこんなで十分に金沢駅を楽しんだ後は、お昼ご飯だ。

 駅近くにあった和風の食堂のようなところに入ってみる。


 狙いはもちろん。


「海鮮丼3つ、お願いします」


 海の幸、である。


 やっぱり北陸に来たら魚を食べないことには始まらない(北陸初の男)


 北海道もめちゃくちゃおいしいらしいけど、絶対ここも美味い。


「はい、お待ち~」

「うぉっ、すげえ……」


 大きなどんぶりに、これでもかと海鮮が詰められている。

 輝くいくら、つやつやとしているウニ、生きのよさそうなピンクのサーモン。イカに、マグロに、やばい。これはやばい。


「うーっ、美味しそう~~っ‼」

「……(カシャ)」


 二人とも目の輝き方がいつもと違う。いつもが少女漫画的な輝き方をしているとしたら、今はむしろジャ〇プに載ってそうな、強敵を前にしてにやりと笑う主人公のような瞳だ。


「「「いただきます‼」」」


 醤油を適度に垂らして、いざ実食。


 その味は言うまでもなく絶品だった。


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