第5話


 目的地に行くために電車を幾度も乗り継いだ。乗り換えの駅でわからないことがあると、駅員さんに勇気を出して聞いた。


「どっちが東京方面ですか?」


「こちらからみて右側の一番線です、三分後に来る電車に乗れば大丈夫です」


「ありがとうございます!」


 すぐに対応し、丁寧に道順を教えてくれた。


「なんだ、怖くなんかないじゃん」


 人と話すのが怖い事ではないと分かった。そして、目的地に近づくほど、外はキラキラとした楽園に見えた。たくさんの知らない人が行き交う楽園だ。


 そして、誰も私を敵にすることはなかった。


 鉛がいくら訴えてきても聞こえなかった。


 目的地に到着すると、チケットを買って一人で席に座った。


「プレイボール!」


 どこまでも響く掛け声で試合が始まった。私の心がドキドキ揺れた。


 そして、テレビで見るのとは違う、キラキラとした光景に心を奪われた。いつまでも見ていたい、目の奥からダイヤの宝石が生まれそうなほどの新しく麗しい世界だった。応援する人の綺麗で輝く声が、私の鉛に刺さった。


 得点が入ると、隣の人がハイタッチをしてくれた、お菓子をくれた、好きな選手を教えてくれた、連絡先を交換した。


 友達になれた。


 そして、好きな選手がまた、虹を描くホームランを打った。

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