第2話 初めて見たの魔法

トンネルを出る時の眩しさで視界が真っ白になった。

十数秒して視界が戻ると、民家の前に立っていた。

生垣の中に土を敷きつめた庭があり、その奥に平屋と納屋が二つ並んでいた。

美海が振り返ると、さっきまで歩いていたトンネルが消え、砂利道と原っぱが続いていた。

美海は尋ねる。


「ここはどこ?」


ウォルトは答えた。


「こーこはね、君にぴったーりの場所だよー。さぁ、中を覗いてごらーん。」


言われた通り、門の陰から中の様子を確認する。

納屋の入り口が大きく開かれ、中で若い女の人が何か作業をしているのが見えた。

納屋の中はあまり整頓はされていない様だった。

壁に掛けられた何段もある棚の上には、ガラスで出来た手のひらサイズの丸い玉や瓶が並べられていた。

そして、それらは全て中に色々な色の光が一つ入っており、綺麗に光っていた。

女の人が、ふと顔を上げて美海に気が付いた。

そして、ニコッと笑ってから、こちらに近づいてくる。

とっさに、門の陰に隠れる。


「こんにちは。中が気になるの?見て行く?」


とても優しい声で話しかけてくれた。

ゆっくり顔を出すと、さっきと同じ様にニコニコ笑っている女性の顔が目の前にあった。


「こんにちは。勝手に覗いてごめんなさい。私、ウォルトに案内されてここに来て、中を見る様に言われたんです。」


美海が振り向くと、ウォルトは居なかった。


「あいつは、案内するだけで、家の中にははいれないんだよ。」


お姉さんはニコニコしながら教えてくれた。


「こっちにおいで、あれの事教えてあげる。」


美海はお姉さんに付いて納屋に入る。


お姉さんは、棚に置いてあるのがガラスではなく空気を固めた物で、中に入っている光は、魔法で光を注ぎ込んだ物だと教えてくれた。

そして説明の後、目の前で実際に作ってくれた。

レンガ造りの窯の中に両手を入れて、水をすくう様に取り出す。

すると、水でも湯気でもないモヤモヤした物が手からゆっくり溢れ出していた。


「これが、窯の中で溶かして柔らかくなった空気。そしてこれを作りたい形に丸めたり、伸ばしたりするの。」


言いながら、お姉さんは手のひらで粘土を転がして玉を作るような動作をした。

手の中にあった空気が、丸くなって行くのが見えた。


「最後、これに魔法で光を注いだら完成。」


空気の玉を両手の平の上に乗せ 、口元に近づける。

ゆっくり息を注ぎ込むと、玉の中に少しづく光が溜まっていくのがわかる。


「簡単でしょ?」


出来た玉を、美海の右手のひらに置いて持たせた。

玉の表面はひんやりとしているが、中心から温かさがゆっくり出てくるのが伝わってきた。


「私も、これ作れますか?」


お姉さんが作っている姿が余りにも綺麗だったので、美海は自分もやりたくなってしまった。


「出来るよ。最初はうまくいかないけど、美海ちゃんならすぐに作れる様になると思うな。」


美海は嬉しそうに笑った。


「ところで、美海ちゃん今日はどこから来たの?」


お姉さんの質問で、自分が迷子になっていた事を思い出した。


「大変、私家族と遊園地に来て迷子になっちゃったの。はぐれて、何時間たったかな?怒られちゃう、どうしよう。」


美海はさっきとは一転して、不安そうな顔をした。


「大丈夫、門をくぐれば、遊園地に戻れるよ。それに、私たちの時間は人間とは違うから。きっと怒られないよ。」


お姉さんは、入り口の門を指差した。


「またここに来たくなったら、さっき渡した玉を握り締めて、美海ちゃんの部屋の扉を開いてね。」


美海は、お礼を言って急いで門をくぐった。

光に包まれ目を瞑る。視界が戻ると、遊園地のお土産売り場の出口に立っていた。

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