2.涼風ちゃんとの昼休み

 ボールの跳ねる音が体育館に鳴り響く。そして、俺はスリーポイントシュートの体勢に入って、シュートを放つ。空中でボールが回転しそのままゴールへと吸い込まれるように入った。



「先輩さすがです。これで5回連続ですよ!!」

「ふ、この程度当たり前なのだよ」



 少し、興奮している俺は決め顔でそういった。いかん、つい俺の憧れの漫画のキャラの口調まで真似をしてしまった。中学のころの俺はとあるジャンプ漫画にはまり、ひたすらスリーポイントを練習していたのだ。そのかいあって今は高校でのレギュラーである。まあ、そのかわり高校デビューの時にやらかしてしまったのだけれど、それは今でもいえない黒歴史だ。

 俺は黒歴史を繰り返さないようにルーティーンをする。里香に教えてもらったメンタルコントロールの一種で、一定のパターンの動作をとることにより心を落ち着かせるのだ。ちなみに俺のルーティーンはエア眼鏡をくいっとやる動作である。はたからみるとダサいが、マジで落ち着くんだよな。まあ、恥ずかしいからこれがルーティーンって言う事は誰にも言っていないんだが……



「先輩お疲れ様です。今日は調子がよかったですね」

「いや、涼風ちゃんがいたからさ。わざわざ付き合ってくれてありがとうな」

「そんな……先輩が、がんばってるからですよ。私達マネージャーができるのは応援とかサポートだけですし、大和先輩ががんばっているのは私が一番良く知っていますから!!」

「そのサポートがあるから頑張れているんだよ」



 練習を一通り終え、一息ついた俺の言葉に、涼風ちゃんは顔を真っ赤にしながらうなづいて、ポカリとタオルを渡してくれる。本当にいい子だと思う。わざわざ昼休みの練習にまで付き合ってくれているのだ。うちの学校はそんなに強くないこともあり、他に練習しているやつがいないので今は二人っきりである。



「そろそろご飯を食べようか、タオルと飲み物ありがとう」

「いえいえ、本当に気にしないでください、私が好きでやっている事ですから!!」



 俺が涼風ちゃんに汗を拭いたタオルを渡すとなぜか、彼女は満面の笑みで褒めてくれた。なんかむず痒いな。

 俺達は体育館に併設されている部室に移動してご飯を食べる。今日は朝起きるのが遅かったのもあり、購買部で買ったパンしかない。対して涼風ちゃんは可愛らしいお弁当箱にぎっしりとカラフルなおかずが詰まっている。ああ、すごいうまそうだなとみていると俺の視線に気づいたのか、彼女は顔を真っ赤にして俺からお弁当箱を隠した。



「そんなにじっくり、見ないでください……昨日の残り物なんであんまり綺麗じゃないんです。いつもはもっとしっかりしたやつを作ってるんですよ」

「いやいや、すごい美味しそうだぞ。ていうか、涼風ちゃんが作ってるのかすごいな? いいお嫁さんになれると思うぞ」

「もー、適当な事を言わないでください。今のはセクハラですよ!! だからみんなにグリーンって呼ばれるんですよ」

「俺の黒歴史ーー!! 俺仮にも先輩なんだが!? てか知ってんのかよぉぉぉ」



 俺の入部当時に高校デビューでやらかした過去からついたあだ名がグリーンである。先輩や同期は一年ちょいたった今でもバカにした感じで、俺の事をグリーンと呼ぶのだが、まさか後輩である涼風ちゃんにまで言われるとは……後輩たちには絶対言うなとあれだけ圧をかけていたのだが無駄だったようだ。



「そんなへこまないでくださいよ。先輩のそういう所可愛いと思いますよ。確か、卵焼き好きでしたよね? お詫びによかったら一つ食べますか?」

「え、いいのか? ついでに忘れてくれると嬉しいんだが……」

「それはどうでしょう。でも、先輩がどうしてもっていうなら忘れてあげますよ。はい、どうぞ」



 恥ずかしそうにはにかみながらも、彼女はお弁当箱から卵焼きを差し出してきた。いいのかな、卵焼きって結構メイン料理じゃないだろうか? てか、これってあーんってやつでは? 俺が困惑していると彼女は顔を赤らめながらも首をかしげている。食べないのかということだろう。せっかくの好意だ。無駄にするわけにはいかないだろう。俺はすぐに意を決して、卵焼きを口にする。口の中で甘みが広がる。



「なにこれ、うますぎるぞ?」

「えへへ、そんな大げさですよ……でも、料理は趣味でやってるんで少し自信はあるんです」

「いやいや、本当にすごいぞ。俺も親が仕事でいないから料理をしてるからわかるけど、マジで尊敬するレベルだ」



 俺の言葉に彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、顔をうつむいた。あ、ちょっと興奮して力説しすぎてしまったのだろうか? ひかれた? でも、本当に美味しかったんだよな。



「じゃあ……もし、よかったら今度から先輩のお弁当を私が作ってきましょうか?」

「え……それは嬉しいけど。さすがに悪いと思う。彼氏彼女とかの関係ならわかるんだが……」

「じゃあ、私達付き合ってみますか?」

「え……?」



 彼女は目を濡らしながらこちらを上目遣いでこちらを見つめる。え? 待って。なんだって。俺が固まっていると彼女は舌をぺろっとだして可愛らしく笑う。



「なーんて冗談ですよ。本気にしないでくださいよ。だって先輩は赤城先輩の事が大好きですもんね」

「ぶふぉ」



 突然の言葉に俺は思わず口に含んでいたものを吹き出した。ちょっと待った、想定外だぞ!! 撫子しか知らないはずのトップシークレットをなんでこの子が知っているんだ? まさか、あいつばらしたのか。今日の晩飯大っ嫌いなパクチー祭りにしてやろうか。


「あ、撫子ちゃんから聞いたわけじゃないですよ、というか先輩をみてればわかりますって。だってずっとみてきましたから……それで、赤城先輩とはどうなんですか?」

「いやー、どうもこうもないんだが……」



 小学生高学年から意識して以来本当にどうにもなっていない。いや、俺だってずっと片思いはきついんだけど、幼馴染という関係を壊すの恐いし、へたれてしまっているというのは否めない。俺の表情で何かを感じたのか、涼風ちゃんは手をぽんと叩いて、提案してきた。


「じゃあ、私で告白の練習をしてみませんか?」


 いや? どうしてそうなるんだ? きょとんとした俺に彼女はなにやらほほ笑むだけだった

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