第7話

今日は待ちに待ったリディとのお出かけの日だ!


俺は庶民の服に着替え、リディを迎えに行く。リディは既に屋敷の前に立って待っていてくれていた。


その姿は、質素なワンピースにケープコートを羽織り髪はハーフアップ。

庶民の格好をしてるのに、どこか気品があり、そして目を奪われる程に可愛かった。


顔に熱が集まるのが自分でも分かり、顔を背けてしまった。

すると……


《……ど、どうしましょうっ!に、似合わなかったかしら?!やっぱり、もう1つのワンピースの方がヴェル様の好みだったんじゃ…》


落ち込んだような声が頭に響き、ハッと顔を上げると少し俯き唇を噛むリディ。


(あ、ち、違っ)


「違う!」


思わず叫ぶように否定してしまった。

顔を上げたリディを正面から見つめる。


「その、可愛い…と、思ったんだ。その服、リディによく似合ってて」


恥ずかしくて、また顔を背けてしまうが今度は嬉しそうな笑い声と「ありがとう」の言葉が聞こえて、俺は素っ気なく「ああ」としか返せなかった。


今日みたいに2人で出掛けることを、巷ではデートと言うらしいとアーキスに聞いた。

そして今日の為に、アーキスがデートを成功させるための指南を買って出て……散々な目に合った。



       ※※※回想※※※


『良いですかヴェルグ殿下、デートと言うものは初めが肝心です!必ずリディアーナ様と服は褒めて下さい!でないと、リディアーナ様は1日落ち込んだまま過ごすことになります!』

『そ、そうなのか?』

『そうです!それから、女性受けのする店を選んで行くんですよ!ヴェルグ殿下の普段行く所はダメですからね!』

『ダメなのか!!?』

『当たり前でしょう!?そもそも、女性が行って楽しいところなんですか?!』

『……』

『それから、雰囲気ムードも大事ですからね!婚約者なんですから、良い雰囲気を作って、こう……』


そう言ってエルバートの顎に手を添え上向かせじっと見つめ顔を……


『辞めてくださ『失礼しますわ』』


そこでノックが響いて、アリシア嬢とエリシュカ嬢、サーシャ嬢が入ってきて……『…………』無言でパタンと扉が閉じられた。


『……え?、ちょっ、わー!待ってサーシャ!誤解だーー!』


慌てて部屋を出ていったアーキスとエルバート。戻って来た時には婚約者達も一緒で誤解は解けたのかと思えば……


『信じられませんわ!たとえ殿下の為とはいえ、こんな堂々とエルバート様にキスしようとしてたなんて!』

『さすがにアーキス様でも、エルバート様の唇は渡しませんわよ!?』

『ヴェルグ殿下も!笑い事ではありませんわよ!この事、リディ様に言いますからね?』

『っ!ちょっ、それだけは辞めてくれ!』

『全くですわ、そもそも……』


      ※※※回想終了※※※


と言うことが、デートの日時が決まった後にあった。


「リディ、行きたいところはあるか?」


馬車に乗り込みながら、リディに聞いてみると顎に手を置き悩み始めた。


「行きたい所ですの?」

「ああ、行ってみたい所でもいいぞ」

「でしたら、甘いお菓子が食べられるお店に行ってみたいですわ!」

「菓子か……」

「ダメですの……?」


《やっぱり男性にお菓子の店は、良くなかったかしら?ヴェル様の好みなら武器屋とか?男性の皆さんが行きたがるところと言ったら、後は……》


「ヴェル様」

「今日は、リディの行きたいところに行きたいんだ。だから、遠慮はしなくていい」


そう言って、リディの頭に手を置きぽんぽんと撫でた。

流石に子供扱いしないでと怒るかな……?


横目でリディを見ると、嬉しそうに俺の手を受け入れていた。


《ヴェル様の手は、大きくて優しくて、こうやって撫でられるの好きですわ》


リディが喜んでるなら、良いか。


「菓子店に行くのは決定として、他に行きたい所はあるか?」

「えっと、……」


《女性の装飾品店でも良いかしら……》


「行きたい所があるんだな?」

「装飾品の扱ってる店にも、行きたいですわ」

「ああ、じゃ菓子店に行く前に装飾品の店に行こうか」

「はい!」


嬉しそうな返事を聞き、馬車の外に目を向ける。リディもつられて俺に寄りかかりながら外に目をやる。リディの髪が頬にかかり、ふわりと花の香りが漂う。

更に、リディが触れている部分が熱を持ち、体に力が入った。


わたくし、街に出るの初めてですの、なのでとても楽しみにしてたんですの」


リディは俺の顔を覗き込み、口元に手を当てふふと笑った。俺に触れているのを気付いてるのか気づいていないのかは分からないが、リディはとても嬉しそうだ。


リディの顔も心の声も、どちらも嬉しそうだ。俺も嬉しい。


デートは、まだ始まったばかり。

今日は、楽しい一日になりそうだ。


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