第51話 ジェ・スーの過去 ノンブラッディカーニバル

アレックスたちが転移部屋から出て、しばらく経ってから、ようやくジェ・スーが目覚めた。


「う....、う〜ん....。 .....んん!?」


「ど、どこでありんすか?」


さっきまで、わっちの憩いの場所にいたはずでありんす。

ここは??

この体に馴染む空気...、もしかして魔界??


聖岩石で囲まれたゾクゾクする空気をこよなく愛しているわっちには、ここの空気は優しすぎて好きじゃありんせん。

戻りたいでありんす......。



それにしても.....、なしてこげん事になっとーとぉー!!

さっぱり、わかりゃんせんっ!!



そういえば、あの金髪の女...。

ムカつきんすっ!! ふんぬ〜!!


契約主のことは喋れない誓約がついているせいで、あの時、口が開かのうござりんした。

悪魔のことを喋ると、自動的にジャルジャルート様のことも話さないといけなくなりんすからっ!


あの時の勝ち誇った顔っ!

わっちのことを、昔いじめてきた姐さん方みたいでありんした!

ぐちゃぐちゃにした末に、跡形もなく殺してやりたかったでありんす。

無念....。


あのあと、意識が落ちていったから、きっとジャルジャルート様に身体を乗っ取られたんでありんしょう。

それは、まぁ別に構いやせん。


だけどもっ!

ジャルジャルートさまぁぁぁ!!

一言、言わせて欲しいでやんすよぉぉ!!

わっちを悪魔にして力をくれんしたことは、感謝してやんすが、いつも言葉が足りねえのが玉に瑕でありんすよぉぉ!!


乗っ取る前に、念話一つ送ってくれればようござりんすよ?

そうしてくれれば、わっちも安心して身体を明け渡しんす。

否はありんせん。


今回も説明が予めのうござりんしたから、何でわっちがここに転移させられてるのか、さっぱりわかりゃんせん....。


はぁ、とりあえずジャルジャルート様に会いに行きんしょう...。

さもなくば、次に何をすればいいか計画が建てられんせん。


魔力を譲渡していただいたヴェルディエント様からの指令も遂行しなくてはならねえのに、どうしたらいいのでありんしょう。

宵闇の森に戻りとうても、転移魔術をわっちは、使えんせん。


本当に、初めてお会いんした500年前と、ジャルジャルート様はちっとも変わらねえ御仁でありんすね....。





わっちが、ジャルジャルート様に初めてお会いんしたのが、500年前。

その時わっちは、花街で花魁つきの禿を卒業し、将来有望視された引っ込み禿で、16歳でありんした。

17歳には花魁になることが決まっていたでありんす。


そもそも、わっちは花街に来た経緯は口減らしのために親に売られたためでありんした。

そこからは、花魁の姐さんについて禿として働いてやしたが、小さい時はたいそう可愛がられ、幸せでありんした。

それが、変わりんしたのは、12歳くらい。

胸や尻が出てきて、女らしくなってきんした時でありんした。


わっちの醸し出す雰囲気が、同業の女性を逆撫でするものでありんしたようで、段々といじめられ、辛い日々に変わっていきんした。

ただ、それも幸いな事に、長くは続かなかったのでありんした。

13になった年に、廓主に引っ込み禿にしていただいたおかげで勉強と稽古に励むよう、別所にて暮らすことになり、一旦落ち着きんした。


でも、姐さんたちのいじめから離れられたら、今度は男の人の脅威に晒されるようになりんした。

踏んだり蹴ったりでありんす....。


外に出てお使いに行くと、必ず男の人に悪戯をされる日々。

最後の一線は、幸いにも死守出来たんでありんすが、毎度毎度、惨めで悔しゅうござりんした!

何度、逸物を噛み切ってやろうかと思ったものでありんす!


この頃には、男という生物に憎悪を募らせておりんした。


マジでもげろ!性病にかかって腐り落ちてしまえっ!

不能になれっ!ついでに頭のてっぺんだけ禿げろっ!!

そんなことばかり思っていたでやんすよ。


そんな時、運命の出会いをしたでありんすよ。

16になった時、初めてジャルジャルート様に声をかけられんした。


この時は、わっちは、まだ引っ込み禿でありんした。

新造になることは決定してやしたが、日取りが決まってねえ状態でねぇ.....、ぎりぎり禿の時でありんした。


ジャルジャルート様は、この世のものとは思えない程の美丈夫でありんした。

男なんて死ねばいいっ!と呪詛を吐きまくっておりんしたわっちでさえ、ぼーっとしてしまった程の衝撃でありんした....。


引き込まれそうな漆黒の瞳に、艶めく白銀の髪。

うっとりするほどの妖艶さが滲み出る容姿。

気品がある佇まい。

全てが完璧な御仁でありんした...。


本当にかっこよかったんでありんすよ?

言葉が足りないことを除けば....、概ね完璧な御仁でありんした。


最初に声をかけられんした時は、何を言われたのか、わからのうござりんした。

だって、いきなり『悪魔にならない?』って、言われんしたのよ?

言葉が足りねえのにも程がありんす!


まず、頭がおかしい方だと思いんした。

普通、そう思いんすよね!?回れ右で、猛ダッシュでござりんすっ!

わっちは、悪うのうござりんす!!


それに、わっちは修道院に憧れていたでやんす。

客を取らなくても、清貧で暮らしていれば、最低限の暮らしを確約されてやす修道女や孤児たちが羨ましゅうて...。


わっちの両親も口減らしならば、花街ではなく教会に捨ててくれれば、まだようござりんした。

しかし、お金が欲しゅうござりんした両親は、わっちを売ったでやんす....。

弟妹がいたので、仕方ありんせんと思いんしたが、どうにも消化不良な気持ちでありんした。


なので修道女に憧れてやしたわっちは、『悪魔なんぞ全くどうでもようござりんす。』と、走って逃げんした。

しかしながら、相手はジャルジャルート様ですから、追いつかれ捕まりんすよね。

当たり前でやんす。


追いつかれんしたわっちは、一応話を聞きんした。

その時は、『国で一番魔力がある人間の倍以上の魔力が授かるぞ。嫌いな人間を滅ぼせるぞ?』ってだけでありんした。


それはそうでありんすよ、後日悪魔になりたいと願いんした時に条件を聞いたでやんすが、聞いたが最後。

死ぬか悪魔になるかの2択でありんした。

それを聞いても、わっちは悪魔になることを選びんしたから今があるんでありんすがね。


最初は、断ったでやんすよ。

人間滅ぼす程の増悪は、無かったでやんすから。


しばらく経って、わっちは新造になりやした。

そうすると、姐さん待ちのお客と接すること毎夜。

姐さんたちの上客に接しているうちに、心変わりされる客が大量に....。

新造のくせに色目を使うんじゃないっと理不尽な難癖をつけられ、再度姐さんたちからの陰湿ないじめが始まりんした....。


物を隠されるのは当たり前。

ぶつかられる、ご飯をわざとひっくり返されるとか、軽い火傷やあざは、日常茶飯事。

流石に、階段から落とされそうになった時は、死を覚悟しんした。


それだけなら耐えられたんでありんすが、業務連絡でさえされねえ、ワザと嘘の時間を教えられるなど、わっちの心証を悪うしんしょうとする行為は、耐えれねえものでありんした。


あっ、ダジャレじゃないでありんすよ?

心証としようをかけたわけじゃありんせん。


女の汚のう部分を目の当たりにし、自分が女である事にも厭悪する日々。

それでも、まだジャルジャルート様の提案には、乗らのうござりんした。


わっち、頑張っていたでありんしょう!?


しかしながら、この気持ちが変わりんした出来事が、やがて起きんした。

水揚げを経て花魁になるはずのわっちでありんしたが、その前に強姦されんした.......。


数人の姐さんたちがニタニタ見守る中、乱暴に数人のクズどもに...。


身体はボロボロにされ、心にぽっかりと穴が空いてしまい、感情が死にんした。


ヨロヨロと店を出て、当てもなく歩き続けたわっちは、気づくと暗い道で座り込んでやした。

なんともなしに夜空を見つめてやすと、綺麗な月が浮かんでいることに気づき、しばらく見つめてやしたところ....、やがて、その月に雲がかかりはじめやした。それと同時に、空っぽのわっちの心にも黒い感情が流れ込み、収まりきれねえ穢れが溢れ出しやした。


憎くて憎くて、どうしようもなくて虚空を掴みんしょうとした瞬間。

目の前に、全てものを吸い込むような闇を持ったジャルジャルート様が現れたのでありんす。


『悪魔になろうよ。』


ただ、一言だけ言葉をかけていただきんした。

たったそれだけの言葉に、わっちの汚い感情が、スーッっと晴れ渡る感じがしたでありんす。

気づけば、わっちは了承してやした。


すると、ジャルジャルート様は、わっちの首に血で何かを書き記すと魔法陣を広げて、自らの血をドバドバと撒き散らし始めたのでありんす....。


美丈夫が、美しい笑みを浮かべながら血を撒き散らす姿に、わっちには存在しねえ玉が縮むような心地がしたもんでありんす。

ゾクゾクする狂気と、ジャルジャルート様の色気に当てられたせいのゾクゾク感で、おもわずわっちは濡れ....げふんげふんっ!


と・に・か・くっ!

その後、わっちの血液を少し垂らすことで、契約を成したのでありんす。


すると、酷い痛みと吐き気に晒され、血反吐を吐くような....いや、本当に血反吐を撒き散らしながら悪魔になりんした。


魔力が定着した後、鑑定してもらうと闇の属性が強いものだと判明。

よって、わっちが安全に効率よく人間を滅ぼせる技を最初に教えてもらいんしたのが、眷属の召喚でありんした。


すぐに眷属たちを、わっちが所属していた廓に走らせ、先程の強姦に関わった人間たちに報復することにしんした。

姐さんたちが愉しんでいる最中に突入させ、成し得る限りの恐怖を植え付けさせてもらいんした。


まず男たちも姐さんがたも、悲鳴をあげるでありんしょう?

気持ちが悪い化け物が、襲ってくるのでありんすから♪


ですから、最初に悲鳴をあげた人間の口を吸い込んでやり、口がなかったようにしてあげんした♪

五月蝿い羽音は、手折るに限りんす。

そしてさらに、悲鳴をあげる人間を順番に! ふふふ♪


そのうち悲鳴もあがらなくなりんしたら、クズ畜生どもを横一列に並ばせて、さらなる恐怖をあたえてやりんした。


女は、胸を平らに♪

男の逸物は、入れることも出来ないくらいの短小に♪

命だけは、取らねえであげんした♪

優しいでありんしょう?


そもそも、わっちの今までの恨みは、一瞬で殺してあげるんじゃ、割りに合わねえでやんすっ!

ぜーんぜんっ足りんせんっ!


これから絶望を抱えて、屑どもが自ら死を選択するくらい追い詰めねえと♪


口をなくしたから服毒もできねぇだろうし、楽には死なせねえでありんすよ。

身投げをするにも切腹するにも、自死行為の恐怖にガタガタ震えながら死ねばようござりんす♪


自ら死ねなくても、餓死することは確実。

肛門から摂取して、プライドバキバキにするのもいいでやんすが♪


目の前に、食べ物があるにも関わらず食べられねぇ辛さは、ものすごい屈辱と渇望でありんしょう?

何度もご飯を床に落とされたわっちの気持ちを味わうがようござりんす♪


そうそう♪

私を貶めた花魁の中に、店一番の稼ぎ頭の姐さんもいたでやんすよ!

この姐さんだけは、敢えて何もしなかったでやんす。

もう一体の眷属が、口と身体を押さえつけただけに留めんした。


気が強い姐さんだから、報復中に罵詈雑言を喚き散らされると耳が腐りんすからね♪


それにしても、他の人間が眷属に喰べられている間の姐さんの顔っ!

すっごく、よかったでありんすよぉぉ!

目や鼻等、穴という穴から液体が出て、汚ねえ身体になっていたでやんす♪ ぷぷぷ♪


何もしなかったのは、何故かって??


もちろん、その方が面白いからでやんす♪


仲間の人間が、少しずつ死んでいく姿を見て、精神こころを病んでいけばいいでやんす!


ちなみに、最後に言ってやったでやんすよ?

わっちのことを喋ったりしたら花街の人間全員、始末してやりんす、って♪

この警告を一生守り、苦しんで生きていけばいいでやんす。


そこからは、クズどもがじわじわと死んでいく様を、ニヤニヤしながら高みの見物と決め込んだり、嫌がらせのように姐さんのご飯を奪いに行ったり、年季明けのための金を丸ごとごっそり奪い絶望させながら過ごしておりんした。


ちなみに花魁の姐さんたちは早々に震えながら小刀で自決する末路を選んでおりんした。

まだ、肌がつやつやしているうちに死ぬ方がよかったのでありんすか?

餓死を選ぶ姐さんがいなかったのは残念でありんす....。 しょんぼり....。


そして、胸も口も無い不気味な遺体でありんしたので、廓側も夜中にこっそりと近くの寺の境内に打ち捨てておりんした。


まぁ、花魁が死ぬと、これが通常なんでありんすが、今回は寺側も恐れ慄き、供養もせずにそのまま焼き払われんした。

ふんっ、ざまぁみやがれ!!


男の方は、自決する勇気もなく餓死を選びんした♪

死ぬまでの数日は、自分を慕っていた人間からの嫌悪の目に晒され発狂するような日々。

口がないから、発狂できないでやんすがね♪


それでも大体、1週間で皆居なくなったんでありんすが、一人残った姐さんが余計なことをしでかしたでやんす。

恐怖でこころが振り切れ、わっちが警告したことを丸っと忘れて、国にわっちの討伐を依頼したでやんすよぉ。

教会から派遣された浄化に特化した人間が花街を闊歩しだしたでやんす。


ということで、人間皆殺し祭でありんすよ〜♪


まず、姐さんの足と手を喰べて自決できないようにしてから、簀巻きにして廓の窓から吊り下げ放置。

そのうち、恐怖した人間が元凶を聞きつけて、石でも投げればようござりんす。

それに、眼下で罪のない人間が次々に喰べられる光景は、良心が有れば色濃く絶望するでありんしょう?


幸いなことに、わっちの眷族のスピードについて来れる教会の人間もいなかったでやんすから、喰べ放題。

阿鼻叫喚がひしめく花街は、それはそれは華美でありんした♪

所々で逃げ惑う人間が怪我をしたり、火事が起きたりと、長年住んでいた花街の変わりように、嬉しくて涙が、つぅーっと零れ落ちたでありんす。


夜が明ける前には、全ての人間が人間では無くなっていたでやんす。

姐さんだけが心臓が動いてやしたが、ボロボロの状態でありんしたので、その内死ぬでありんしょう。

最期を看取る義理もなかったでやんすから、放置してジャルジャルート様のところに戻りんした。

そしたら何と、記念に住処をくれんした!

やはり、ジャルジャルート様は素敵なかたでありんす。


その後は、聖岩石に囲まれた宵闇の森で隠居生活を送っていたでありんす。

たまに、魔界に行っても、性欲がない悪魔しかいないので、大層居心地がいい環境でありんした。


日々、ジャルジャルート様に感謝をしながら悪魔生を送っていたでやんすが、こないだ魔王様が交代したことで、わっちの立場も変わりんした。

ジャルジャルート様が側近として忙しそうに動かれるサポートをすることになりんしたので、ヴェルディエント様にも仕えることに。

威圧がすごく、床に潰れたままでの謁見でありんしたが、ヴェルディエント様と『いかに人間がクズか』という点で意気投合できたのは僥倖でありんした!

そのままの流れで魔力と結界水晶を譲渡され、部下として人間を減らす手伝いをし始めたやんすよ。

そしたら、すぐに人間がやってきて.....。


思い出したらっ腹が立ってきたでやんす!

スイカおっぱいとほざいた、あの女!!

次に会ったら確実に殺すでやんす!!


そうと決まれば、ヴェルディエント様にもっと魔力を譲渡してもらわなければ!

今、行きますよ〜!!

待っててください、魔王様ぁぁぁぁっ!!

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