悪役令嬢はスペランカーヒロインを守りたい!!

@hachimitsu-pot

第1話 始まりはバッド・エンド




          ===BAD END===




 これで99回目の死だった。

 画面の中には私の推しのキャラクター。ミア・スペランカーが今までで一番可愛いドレスを着て死んでいた。

 学園の卒業パーティーのドレスだ。

 シルクの白のドレスに銀糸で繊細な刺繍が施されたドレスは今までみてきたどのスチルより彼女を輝かせていた。


 さっき、このドレス姿のミアをみた瞬間、やっとこのゲームを終わらせられると思ったのに……。

 きっと、最高の攻略対象と中庭にある東屋で二人きりになって、跪かれて求婚される。

 そんなスチルにぴったりなドレスだった。

 星の光も叶わないくらい美しいドレス。


 なのに、ミアはそのラストシーンを迎える前にまたもや死んだ。


 今回の死因は卒業パーティーの会場の入り口の階段で突き落とされたことが原因だった。

 幸いなことに顔や体に余計な傷が付くことはなく、死体は眠っているように美しかった。

 だめ押しのように、ミアが階段から落ちた後、会場に飾られていた巨大な花瓶もたおれ。

 ふわりと広がった亜麻色の髪に流れる水とミアにやさしく毛布をかけるように降りかかった花々が、あのハムレットのオフィーリアを思わせた。


 正直、今までのスチルで最高にできがいい。

 すごくきれい。最高にかわいい。鼻血出しすぎて死ぬ!

 この画面をこのまま切り取って印刷して額にいれて部屋に飾りたい。というかそういうグッズ公式で販売してほしい。


 どうしてこんなに酷いゲームにドはまりしてしまったのだろう。

『スペランカーヒロイン』これはゲームの通称だ。

 このゲーム、魔法学園に通う平民の女の子の卒業までを描く乙女ゲーのはずなのに、めちゃくちゃ死ぬ。そのくせ、セーブができない。


 どうして、こんなに死亡ルートがあるのかと問いたいくらい死ぬ。

 とにかく死ぬ。

 死ぬ、死ぬ、死ぬ。

 蜂に刺されたり、毒を盛られたり、階段から突き落とされたり。

 ちょっと油断すればあっという間に死んでしまう。


 おそらく、このゲームの悪役令嬢ライバル役が原因だろう。

 このゲームの悪役令嬢がものすごく腹黒くて完璧なのだ。

 美しい容姿に黒い髪にスタイル抜群。

 頭もよくって、魔法の才能もピカイチ、家柄も貴族でお金持ち。

 なんの欠点もない。

 そんな悪役令嬢に目を付けられたら、あっという間に死んでしまう。


 私のいちばん最初のプレイのときは、悪役令嬢に話しかけられた瞬間にミアは死んだ。

 なので、それがトラウマでそれ以来、悪役令嬢に関わらないようにプレイするようにして、やっとエンディング近くまできたと思ったのに……。


 きっと、今回も悪役令嬢がミアを階段から突き落として殺したのだ。

 あー、あー。

 もし、私がゲームの中にいたら、主人公ミアを全力で守るのに……。

 そう、思いながら私は再びゲームを起動した。


 見慣れたオープニング映像が目の前に広がった。



 ◇◇◇



「お嬢様、お時間です」


 頭がぼんやりする。

 だけれど、そんな私の都合など無視で現れた侍女が私の体を起こてずるずるとひきずり、朝の支度を進めていく。

 けだるい頭で、ああこれってなんか仏蘭西フランスの貴族みたい。そう、ロココ時代のお仏蘭西。

 あの時代の退廃的な貴族。


 コルセットで腰を締め上げて気絶するのが可愛いとされ、髪を盛りすぎて部屋からでられないなんてやり過ぎのお洒落を楽しんだ時代。そんな時代っぽい装飾の部屋で私はあっという間に身支度を調えられる。

 もちろん、コルセット付きだ。

 ぎゅうぎゅうに縛り上げられたコルセットは苦しいけれど、それにしても腰に手をやるとウエストがかなり細い。コルセットを締め上げる前から細かった。そして、そんなウエストを確認するために見下ろすとウエストが見えないっ! 小ぶりなメロンかと突っ込みたくなるほどの豊かな胸が邪魔をしていた。


 あれれ? と思いながら鏡をみると、そこには絶世の美女がぼんやりした表情でこちらを見つめていた。


 夜空を切り取ったような美しい瞳に、一本一本丁寧に書き込んだようなはっきりとした睫毛。絹のように細く滑らかな黒髪。肌は白く透明感がある。化粧品の広告にでられそうなくらいはっきりと個性があって美しい女性だった。

 何処かでみたことがる気がするけど、思い出せない。

 絶対にみたことあるんだけど……?


 私があんまりぼんやりしていたせいか再び声がかかる。


「お嬢様、ご入学おめでとうございます。今日からの学園生活きっと素敵なものになりますよ!」


 無邪気な顔をして若いメイドが私に話しかける。


 うーん、変な夢だと思いながら曖昧に微笑む。

 メイドは私の目がまだ冷めてないのかと思ったのか、朝食の用意をしてくれた。

 紅茶が美味しい。

 アールグレイと何かの花の香りがする。

 普段はミルクを入れるのが好きなのに、ストレートで飲めるくらい美味しい紅茶だった。そして、不思議なことに私は猫舌なのにその紅茶を熱々のままで飲むことができた。


 まあ、夢だからね。夢。

 ちょっと便利でうらやましい。

 熱々の紅茶を飲めるっていいなあ~。なんてリラックスしていると、さっきのメイドがやってきて、


「お嬢様、そろそろお時間です。こちらを」


 といって、私の服を再びはぎ取り、今度は紺色を貴重としたレジメンタルストライプのワンピースを着せれた。

 あれ、これってミアの来ていた制服にそっくりじゃない?

 なんていうか乃木坂46(※2016年頃)が来ていたというかジェーンマープル(※洋服のブランド。ブリティッシュテイストで可愛い)っぽいというか。



 もしかして、私……ゲームの中の世界に来た夢をみちゃってる!? 

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