01-02. 世界観の御都合部分説明

 人 類 の 妄 想 に

  限 界 は 無 か っ た !



 絶え間なく発達進展した宇宙開発技術は、人類に夢の推進力を与えた。


 ブレインパルスリンケージアークイオンドライブ。


 通称:パルスリンクドライブ。


 文字通り脳波を利用した推進装置である。


 基本設計は従来のガスイオンエンジンと同じだが、要であるイオン化エネルギーに外部出力された脳波を使う。


 期待、欲望、高揚。

 すべての感情が原動力になる。

 そう、パルスリンクドライブは人の想いで前進するのだ。


 これにより無限の推進比が実用化され、人類は一斉に真空の大海へと漕ぎ出した。


 人類の版図は数世紀の間に何百倍にも拡大。

 多少でなくとも政治的経済的な混乱が生じたが、人類全体の繁栄に比べれば些末なこと。


 ちょっとテラフォーミングに無理強いなマイルストーンを置いた植民計画あったり、資源惑星を無計画に掘っていたら爆発四散した程度である。

 現在でも損害を計算しきれず規模がわからない事故が、宇宙のどこかで置きている。


 だが、銀河を制する勢いで広がる人類には日常茶飯事だ。

 その程度の事故は、朝食中に流し見するニュースレベルで落ち着いた。



 そんな中、比較的初期に発見開拓された岩石型惑星エスメカランがある。

 テラフォーミングに利用した6つの資源衛星を連結させ、オービタルリングとした特徴的な外観は、惑星旗にも描かれている。


 エスメカランは豊かな水資源を有する惑星として周知されている。

 地表の海洋面積は9割に近い。

 その潤沢な環境を利用し、開発団の中継基地としてそれなりに利益を出していた。


 長く寄与港として機能していたエスメカランだが、他の植民惑星から始まった第一次独立活動期の尻馬に乗り、政治的に独立する。


 独立したからには、長期的な外交事情を考えなければならない。

 関税やら治安やら様々な要因によって、最悪他惑星に戦争を仕掛けられるかもしれない。

 なのでエスメカラン政府は、安直に観光と保養地として方針を打ち出した。


 イメージは旧時代の大海に浮かぶリゾートアイランドだ。


 輝く太陽、青い海原、きらめく砂浜。


 そして空飛び歌い踊る美少女。


 まあ、ぶっちゃけ自然環境観光だけで売れるはずもなく、惑星独自の興行が企画された。


 それが天を駆ける少女たち。

 エリアルA ザ スカイ SフォーミュラFである。


 最初は各資源衛星と地表をどれだけ早く往復できるか。荷卸業者同士の速度合戦だった。

 オービタルリングとサテライトエレベーターが、まだ未完成の時代である。


 当時の主要運送方は、循環シャトルが主流だ。

 もちろん利用するシャトルにもパルスリンクドライブが搭載されているので、乗組員が頑張れば頑張るだけ速く大量の荷物を運ぶことができた。


 これが後のブームの遠因でもある。


 もれなくレースは妨害工作などの内ゲバが挟み始めたので、荷運び業務とレース本体が目出度く分離する運びとなった。


 それから数十年、計画通りオービタルリングの宇宙港と物資の高速大量輸送が可能なサテライトエレベーターが順調に運転を開始。

 循環シャトルの仕事場は縮小し、小規模な大気圏突入観光と草レースに使われるだけになっていった。


 しかし時代は銀河規模の混沌に揺れている。


 ブレイクスルーは唐突に起きた。


 発端は、とあるレースチームがシャトルのパイロットを昔懐かしのアイドル仕立てにして売り出したことだ。


 これがなんの因果か、惑星エスメカランを飛び出して銀河的超大ヒット。


 なにがハマったのかというと、パルスリンクドライブの仕様がアイドル仕立てとピタゴラス的融合してしまったのだ。



 ずばりパイロットアイドルへの応援が、そのままシャトルの推力になる。


 レースで圧倒的な強さを見せ、キュートなライブで踊り歌うアイドル。


 彼女らを勝利へと導き輝かせるのは、キミたちの応援だ!



 その後は怒涛の変革期がやってきた。


 アイドルのフォロワーたる旧文明のドルヲタが再興され、レースの規定が整理され、レース中の妨害行為がバトル要素になり、シャトルが個人装備にまで小型化され、レース後の大型ライブが勝利者の特権に変わり……。


 そしてレースの名称が、彼女たちにふさわしいものに改められた。


 まあそんなこんな色々あって現在に至るわけだ。


 今やエリアルA ザ スカイ SフォーミュラFはエスメカランの主要産業と言っても過言ではない。


 水の惑星を舞い飛び歌う風の妖精エアリエルたち。



 その裏で、サイリウムを一心不乱に振り回して叫ぶフォロワー。

 公式販売のストラップを大量に使い鱗状のバックパックを背負うモノ。

 自らが推すエアリエルの名前を叫びながら、飛び込み台から海に落ちる禊行為。



 ……そんな光景が日常化した。

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