夢の中の男は、僕のいるこの世界をギャルゲーだと言っていた。

第24話

　――へぇ……

　初めて見るダンジョンは不思議な感じがした。光源もないのにダンジョン内は明るく先に進んでいる生徒たちの姿も普通に捉えることができる。

　ただ、みんな警戒しているのか隊列を組んで進む足並みはかなりゆっくり。

「俺たちも隊列を組んで進もうか」

「それがよろしいですね」

　マルク皇子の声に僕は頷く。トワとリンは平民だしセシルとキーンはマルク皇子の護衛だから反対するのならばすぐに声を上げるだろう。

　それがないということは肯定の意味。だからマルク皇子の声に応えるのは自然と僕になってしまう。

　僕はトワとリンにすぐに指示を出す。

「それじゃあ……」

　それからすぐに隊列を組むが、ダンジョン通路の広さを考慮して前衛３、後衛３の構成になった。

　これがバランスがよく一番動きやすいと判断したのだ。他のクラスメメイトも同じような隊列が目立つ。

　当然僕とトワとリンが前衛になるものだと思ったが、経験を積みたいというマルク皇子とその護衛のセシルとキーンが前に出た。

　ちなみにこのダンジョンで使用する武器は自分で用意しないといけないが、今回だけは先生がダンジョン前に用意していた小剣を手渡されている。

　まあ一階層は魔物が出ないと知る僕はこれが形だけのものだの分かっているけどね。

　でも知識の方が間違っているかもしれないのでトワにもその事を話していない。

　ゲームではギャルゲーというだけあって全てのダンジョンは単調（手抜き）。ほぼ一本道と言ってよかった。

　でも現実となっているこの世界ではどうだろう。そんな事を考えている間にも僕たちは開けた部屋に入った。

　その部屋は少し広く奥には先へと進める通路が見える。

　でもこの部屋の床にはいかにも罠なのでは？　と思わせる色違いのブロックがポツポツとあった。

　生徒たちはそれを避けるように進んでいる。

　実はこれ、色違いのブロックの方が安全ブロックで、トラップが発動するとそのブロックのみを残して全ての床が抜ける。落とし穴トラップだ。

　つまり何の変哲もなさそうな床の方が罠。注意深く見なれば判断できないような、ほんの僅かに浮き上がっている床が紛れ込んでいるのだ。

　僕とトワは慣れているので、この部屋に入ってすぐに気づいたが「ここにはトラップがありそうだから慎重に進もう」と張り切って先陣を歩く王子がいるので、余計な口出しはするつもりはない。成り行きに任せよう。

　ピリッとした感じもしない。たぶんというかほぼ間違いなくトラップに引っかかっても危険はないだろう。

　むしろゲーム通りの罠ならば女性には気の毒だけど……

　ガコン

　誰かがその床を踏み抜いた。あっという間の出来事だった。

　一瞬のことで生徒から悲鳴が上がる間も無くドフドフドフッと土の上に何かが落ちる音があちらこちらから上がる。

　もちろんそれは生徒たちなのだが、落ちた先は１メートルの深さもない落とし穴で、底には柔らかな土があった。

　これならばケガの心配はない。ケガをしても足を捻る程度で少しでも回復魔法が使えればすぐに治せるだろう。

　それでも落ちた生徒は着地することなどできるはずなく倒れている。王子とその護衛の除く全ての生徒が土の上に寝転ぶ形だ。

　僕とトワも敢えて避ける事をしなかったから寝転んでいる。

「「「きゃあ」」」

　それからすぐに女子生徒たちから甲高い悲鳴が上がる。

　無理もない、落とし穴に落ちた際、女子生徒たちのスカートは捲り上がってしまっていたからね。

　僕の目にも可愛らしい二つのお尻が見えている。もちろん下着もね。バッチリ目に入った。近くにいたトワとリンのものだ。

「えへへ」

　悲鳴どころか、笑みを浮かべているトワはゆっくりとスカートを戻しているところを見るとわざと僕に見せつけているようだが、リンの方はあわあわしながら慌ててスカートの捲れを直していた。

「すまない」

　一応リンには謝罪する。トワには夜にご褒美だ。そう合図するとトワがとても嬉しそうに親指を立てた。

　ただ女子生徒たちをじろじろみながら立ち上がるのも無粋だと思い、僕はなるべく女子生徒を視界に入れないように立ち上がってみたのだが、その立ち上がった先、その視線の先にルイセ様、セシリア様がいて、なぜか僕を見ながら顔を赤らめていた。

　――えっ。

　たしかにこの出来事（イベント）はヒロインの好感度が上がるものだった。

　でもそれは同じくパーティーを組んでいることが条件。

　それなのに彼女たちは僕を見て恥ずかしそうだ。それでいて僕から顔を背けない。

　――どいうことだ？

　理由は分からないがずっとこちらを見ている彼女たちをそのままにはできないので、僕は頭を軽く下げてからクリーン魔法を使ってあげた。

　ついでに彼女たちの側に居たマリア様とリーディア様にも。

　このクリーン魔法、誰にでも使える魔法だが主に身の回りを世話するメイドや侍女、それに使用人がなどが使い、貴族が自分で使うことはほぼない。かく言う僕も普段はアンナがやってくれるので使うことはない。

　でもこれが平民ならばまた違うのだけど、ルイセ様のグループ（パーティー）には平民がいないので、僕がそうした。

　そのあと同じように落とし穴に落ちていたマルク皇子たちにもクリーン魔法を使い、僕にはトワがクリーン魔法をかけてくれリンも自分でクリーン魔法をかけている。

　さすがにトワたちが皇族にクリーン魔法は荷が重いだろうからね。

「すまない感謝する」

　何処かの王子と違いマルク皇子はできた人のようで謝辞をいただく。もちろんセシルとキーンからも。

「パーティーメンバーですから当然ですよ」

　ただ僕がそう返したとき、少し驚いた顔をするなんてちょっと失礼かな。

「そう、だな。俺たちはパーティーメンバーだな」

　そのあと少し口元が緩んでいたマルク皇子。

　――そういえば……

　ゲームでのマルク皇子は三人で行動していたことが脳裏を過ぎり、学ぶために留学してきた皇子の立場では信頼できる人物が護衛の二人以外にできなかったのだろうかと少し心配になった。

　それからも、この一階層のトラップ、下から蒸気が噴き出したり、矢尻のない矢が飛んできたり、頭上から水が降ってきたりとするようなトラップに生徒たちが引っかかっていった。

　もちろん王子とその護衛は省く、さすがに不審感を持つ生徒が出るかもと少し期待したが残念ながらそんなことはなかった。

　それもそのはず、一階層の終わりで待っている先生の所に辿り着いたときには羞恥で顔を真っ赤に染める女子生徒が多数。王子のことなんて気にかける余裕はなかった。

　そして、男子生徒の方はというとそんな女子生徒を見て鼻の穴を大きく広げていたのだ。

　僕も人の事を言えないが、男子生徒は皆発情状態。あの手この手で女子生徒の気を引こうと必死。

　もちろん蒸気や水で濡れたヒロインたちにクリーン魔法をしてやったのは僕だ。バレないようにしようとしたが無理だった。

　トラップにかかるたびに僕の姿を探すルイセ様とセシリア様。他にクリーン魔法を頼める人物が側に居なかったから焦っていたのも一つの理由だろうが、彼女たちの僕に対する好感度の上がり具合がちょっと怖い。

　いや本当はすごくうれしい。でも彼女たちとはただでさえ身分差がある上に彼女たちはヒロインで王子を助ける立ち位置。

　何かのきっかけで王子と距離を縮めるかもしれない。

　巻き込まれたら王子から今以上に目の敵にされるのが目に見えている。

　でもそんな王子の現状はゲームで知る人物とはかけ離れており全く違う行動とっている。

　同じパーティーメンバーであるアルジェ嬢やシリル嬢、リビラ嬢、ビルデ嬢と良い雰囲気だ。

　彼女たちはヒロインじゃないが、オーレンジ公爵次女アルジェ嬢、バーナナ侯爵家長女シリル嬢、キューイ侯爵家三女リビラ嬢、ピーチィ侯爵家長女ヒルデ嬢で家格からすれば何も問題ない。

　あとは魔法がどの程度使えるのかどうかってところだろう。

　そんな彼女たちを周囲に侍らせ鼻の下を伸ばしていた。ちょっと王子の行動に予測がつかない。

　それに引き換えトラップにことごとく引っかかり少し俯くマルク皇子。その姿は下唇を噛み締めてかなり悔しそう。

　改めて僕は王子ではなくマルク皇子の力になりたいと思った。