第17話

 魔法学園の入学式は午後からある。そこで僕は、先に荷物を寮に置き昼食を終えてから入学式に向かうことに決めた。


 学園の寮は男子寮、女子寮、混同寮とある。僕は知らなかったが混同寮は平民が多く、二人部屋もこの混同寮にしかない。それもそのはずだ。貴族子女は早くから個室を与えられているため、それが当然だと認識しているのだから。どおりで何度も確認されるはずだ。



 寮母さんに聞いて自分の部屋へと向かう。僕の部屋は一階の一番奥の部屋だった。


 ちなみに一階が一年で二階が二年、三階が三年となっている。


「思ってたよりもいい部屋だね」


 混同寮の利用者がほとんど平民だと知ってから覚悟をしていたが、これはうれしい誤算。中に入ると勉強机が二つとベッドが二つあるだけの少し広い部屋があり、その奥には物置だけでなく、シャワー室とトイレまであった。


 少し狭くはあるが、ここは学園の寮。それに鍛錬の一貫として屋敷の敷地内ではあるが野営の経験がある僕からすればこれでも十分満足できた。


 部屋を中を見渡し、ベッドは寄せて使えば四人一緒に寝ることだってできるだろうと、思っていると、


「ベッドは寄せておきましょう」


「それ大事」


 既にアンナとレイナの二人が、ベッドを持ち上げて移動させていた。


 トワはトワで手荷物を整理しながら物置へと移動させている。

 

「クライ様のはこっち、ボクとアンナとレイナがここ……っと」


 僕も少しは手伝うつもりだったのにほとんど終わっていた。専属メイドたちは仕事がほんとに早い。


 それからアンナとレイナが食堂に向かい昼食を四人分運んで来ると、勉強机も寄せて四人で一緒に食事を摂った。


 その内容はパンとスープに揚げた肉が二切れにサラダが少し、味もいいし、なかなか悪くない。


 普通の貴族はメイドと一緒に食事を摂らないが、僕も鍛錬時以外、屋敷ではそうだった。

 でも僕はこの寮では彼女たちと一緒に摂りたいと思う。


 ただ単に一人で食べるのが嫌だったのもあるが、彼女たちと食べる食事は楽しいだろうと思ったからだ。実際楽しい食事になった。


「ピピッ」


 忘れてはいけないのが、野鳥のピッピ。普通なら絶対に懐かない野鳥なのだが、僕の魔眼で懐いてしまったピッピは籠がなくても大人しくてお利口さん。


 ただ僕から離れたがらないのが欠点で、この学園にもついて来てしまった。


 ピッピは僕が小さくちぎったパンをデスクの上に置くと、それを美味しそうにつついて食べていた。


 それからお茶を飲みながらゆっくりと時間を潰していると入学式の時間になる。


「クライ様そろそろですね」


 アンナが先に立ち上がり僕が脱いでいた制服の上着を準備してくれたので、それに腕を通す。


「アンナありがとう。トワ行こうか」


「うん」


 アンナとレイナは入学式に参加できないのでこの部屋で待機だ。といっても彼女たちは護衛だと言ってどうせ隠れてついてくることは分かっている。なので、


「アンナとレイナはほどほどだよ。無茶は絶対ダメだからね」


 と、一応釘を刺して置く。彼女たちは僕に何かありそうだと容赦がないのだから。その相手が高位貴族だとしても平気で行動しそうで怖い。絶対問題になる。


「分かってますクライ様」


「クライ様、レイナに任せて」


 二人が揃って大きな胸を叩いて揺らすと、それをトワが恨めしそうに眺めていた。これはいつものこと。


「むぅぅ」


 残念ながらトワのお胸はあれからほとんど成長していなかった。

 でもまだまだこれから成長すると信じているトワは暇さえあれば僕に揉んでほしいとお願いにくる可愛い子でもある。


 でもそうしているうちに、僕の方が我慢できなくて、すぐに最後までヤッてしまう。ちょっと反省。


 そんなトワと一緒に会場に向かっていると、学びの校舎が見えてきたのだが、


 ――!?


 僕はその校舎を見た瞬間、鈍器で殴られたような衝撃を受けるとともに様々な光景がフラッシュバックしてきた。


「うっ、うう……」


 そう、それは夢の中の男が見ている風景……いやテレビの画面? だった。そんな光景が僕の頭の中をぐるぐると駆け巡る。


 僕は激しい頭痛による立ち眩みで思わず片手と片膝をついてうずくまってしまった。


「クライさま? クライ様! どうしたんですか!? クライ様っ!」


 傍にいたトワが心配そうに身体を寄せてくる。その手は優しく僕の背中をさすってくれた。


「と、わ」


 僕の顔を心配そうに覗き込んでくるトワ。そんなトワの顔とフラッシュバックした記憶の中にあるトワとが重なり頭痛がする。


「うぐっ」


 〜〜


 それは夢の中の男が見ているらしい映像、盗賊だったトワが悪徳貴族に捕まり薬漬けにされていた光景。


 牢屋の中で横たわり虚な目をしているトワ。男が操作する人物が話しかけても「う〜う〜」と唸るだけのトワ。トワの周りには同じような症状の少年少女たちの姿がある。


「しまったっ、せっかくアークトーク男爵を倒したのに、回復魔法のレベルが足りてないからトワが仲間にできんぞ……くそ〜リセットするか……」


 〜〜


「ぅ、うう……」


 ――ち、違う、トワは僕の専属メイドだ……


「クライ様! しっかりしてください。クライ様……」


 気づけば僕はトワに抱きしめられていた。


 「「クライ様!」」


 アンナやレイナの駆け寄ってくる気配も感じるが、そこまでだった。僕は激しい頭痛に意識を手放した。

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