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 あのデカさで最強レベルとかどんだけだよ。

 まったくにもって勝てる気がしない。でも戦わずに死ぬのはもっと怖かった。


「ノエル! いつものヤツ頼む!」

【了解。外骨格装甲展開。安全装置解除。肉体制御開始。運動領域抑制装置解除。各部伝達系統正常に接続完了。基本運動性能220%で固定。痛覚神経遮断。動体視力向上完了。味覚、嗅覚神経遮断。心拍数正常に上昇中。各部神経伝達速度最大で固定。感覚判断基準完全共有回路構築成功。各部誘導優先順位。第一を克斗。第二をノエルに設定。戦闘準備完了】


 少しだが基本運動性能の上昇率が増しているみたいだ。紫先輩のおかげだろう。

 なんでも筋肉は痛めれば痛めるほどに強くなって回復するらしいからな。そこにノエルの修復力と、あの怪しいサプリメントとかの効力だろう。


「帰ったら、本当にキスしてみようかな?」


 独り言だったつもりが返事が返ってきた。


「ずいぶんと余裕じゃねぇかレッド!」

「あぁ、ブルーさん早いんすね?」

「お前さんほどじゃねぇけどな。で、相手はどんなヤツよ?」

「超巨大級で物理攻撃特化型みたいっす。あ、もちろん強さも最強っす」

「ふんっ! お前が言うとなんか簡単に勝てそうな気がするから不思議だよな」

「そうっすかね? 普通に考えたらたぶん死にますよ」

「あはははは。全然死にそうにねぇヤツが言っても説得力ねぇってぇの」

「いやいや、意中の相手とか居たら気持ち伝えておいた方が良いレベルですって!」

「それなら問題ねぇ。とっくに付き合ってる相手が居る」

「そうだったんすね」

「まぁ、こんな無駄話する機会なんてなかったからな」

「二人とも、ずいぶんと余裕があるじゃないか」


 珍しく一番最後がブラックさんだった。


「あ、ブラックさん! 相手めっちゃくちゃでかくて最強らしいっすよ!」

「そうか……それでも、この3人なら不思議と乗り越えられる気がするな」

「そうなんすよね! きっちり勝ってカネルに自首してもらわないと!」

「そうだな、でなければなにも始まらない」


 ――そしてモンスターが出現した時間と共に3つのビルが倒壊した。


 コマに腕を足したというか人型だけど足がないというか中途半端なヤツが宙に浮いている。

 手首の部分はなく、その先にあるのは手でなくトゲのいっぱい生えた鉄球みたいだった。

 その鉄球と本体と思われる身体がグルグルと回転していて次々とビルを倒壊させていく。


【報告。敵モンスターにダメージ発生を確認。自爆目的の可能性大】

「はぁ⁉ なんだよそりゃ⁉」

「どうしたレッド⁉」


 いつもなら先制攻撃を仕掛けているブルーだが今回ばかりは相手が相手である。

 ブラックさんの提案で慎重に行こうということになっていたのだが、これは想定外だった。

 

「極端な事を言えばこのまま放置でも自爆する可能性があります!」

「なんだよそりゃ⁉」

「とにかく、ビル倒すだけでも自分にダメージ入ってるみたいなんで削るだけなら可能だと思う!」

「よし! レッド! ブルー! とにかく叩いてダメージ通りやすそうなところを見つけるぞ!」

「「了解っす!」」


 言うが早いか、ブラックさんは空中を飛び回ってあっさり敵本体と思われる頭に強烈な蹴りを入れている。

 しかし、いまさらながら俺とブルーには同じ事が出来ない事に気づく。

 相手の位置が高過ぎて攻撃が届かないのだ!


「ブルー! バーニングナックルで俺を飛ばす事は可能か⁉」

「なに言って、って! やるしかねぇのか!」


 ぶっつけ本番の人間ロケットである。ブルーの拳の上に飛び乗り後は運任せ。


「いくぞレッド!」

「あぁ! 思いっきりやってくれ!」

「バーニングナックル‼」


 ものすごい勢いで打ち出された俺は敵の頭めがけて飛んで行く。


「ノエル! ソードモード!」

【了解。外骨格装甲変形ソードモード展開】

「くらいやがれ!」


 敵の頭部に刀を突き刺すと同時に余った勢いで身体がぶつかるが感触が物足りなかった。


「ノエル! ブラックの攻撃と今の攻撃ダメージは入ってるか⁉」

【否定。克斗及びブラックの攻撃以外のダメージしか確認できません。よって本体は左右の鉄球部分と推測】


 ちくしょう! シルクハットの時と同じパターンだったか!


「ブラック! ブルー! 敵の本体は左右の鉄球だ!」

「了解した! 狙ってみる!」


 あっさりと空中を移動して左の鉄球部分に蹴りを入れるブラック。


「で、俺はどうすりゃいいんだよ⁉」


 地上に残されたブルーには悪いが、今は待ってもらうしかなかった。


【報告。ブラックの攻撃によるダメージを確認】

「ブラック! そのまま続けてくれダメージは入ってる!」

「了解した」


 さてと、俺は反対側の鉄球でも狙ってみるか!

 相手の腕の上を駆け下りて、トゲの部分を狙い、そぎ落とせないか試してみる。

 スパっと切れた! 思ったよりも柔らかく感じたが手ごたえは悪くない。そのまま地上に落下。

 ズドンと言う音と共に地面がへこんでいた。


【報告。敵モンスター。ターゲットを無差別からブラックと克斗に変更】


 よし! これで片方は、なんとかなりそうだ!

 敵はコマのように回るのを止め鉄球だけが俺とブラックめがけて移動し始めた。

 つまり片方は、ブルーの射程範囲に入ってくるということだ。


「ブルー! 待たせた、片方だけでも2人で叩くぞ!」

「おう! 待ってたぜ!」


 近づいて来た鉄球に押しつぶされないように大きくかわしながらもトゲを2本そぎ落とす。

 そして地面をえぐりながら回転する鉄球に向かってブルーが渾身の一発を入れる。


「バーニングナックル‼」


 良い感じだ! これならやれる!


【報告。敵モンスター。ターゲットに変更なし。トゲの排除が有効と判断】


 とにかく俺はブルーが殴りやすいようにトゲを排除しようと思ってただけだがまさかの当たりか⁉


「ブラック! トゲはかわすんじゃなくてへし折ってくれ!」

「分かった! やってみる!」

「レッドどういうことだ⁉」

「トゲを排除した方が効果あるみたいなんだ!」

「だったらこうだ!」


 腕力に物を言わせた手刀でブルーはトゲを次々に排除していく。俺も負けじとトゲを切り落としていく。

 そして、丸坊主になったところで変化が起きた!


【警告。敵モンスターに変形の予兆あり。攻撃方法変更。分離による突撃攻撃と断定。ターゲットはブルー】


 ――変形だと⁉


「ブルー気を付けてくれ! 分離して突っ込んでくるみたいだ!」

「なっ!」


 先ほどまで直径10メートル以上ありそうだった鉄球が10個に分裂しただけでなくさらに小さくなりボーリングの玉くらいになって不規則な超高速移動を始めた。

 そしてその突撃による一撃はかなり重いらしくあっさりとブルーを弾き飛ばしていた。


「っくしょー!」


 すぐにブルーは立ち上がるが、相手の数が多い。ガードするだけで精一杯みたいだ。

 だが、それならば蜂もどきと同じ――攻撃する瞬間を狙って切れば良いだけだ!

 思った通り、攻撃を当てようとする瞬間だけは軌道が読める。そこに合わせて切って切って切り捲った!

 一撃では切れないが3回ほど当てると消滅してくれる。

 なんとか片方は片付いた、残るはブラックさんの方である。

 爆発しなかったところからすると向こうが本命ってことだろう。


【警告。敵モンスターに新たな攻撃方法追加。超高高度からの超高速突撃。ターゲットはブラック】


 慌ててブラックさんの方を見ると俺達と同じように鉄球が分裂していて――その中の一つがあからさまに形が違う。

 鉄球ではなくドラム缶に円錐状の傘をかぶせた安っぽいロケットみたいになっているのだ。


 ――あれがド本命か!


「ブルー! あの尖ったヤツに向かって、もう一度俺を飛ばしてくれ!」

「任せろ! さっきのでコツはつかんだからな! ばっちり決めてやる!」


 再びブルーの拳に飛び乗り人間ロケット発射!


「バーニングナックル‼」


 思いっきり飛ばされた俺は傘の部分に刀を突きし抱き着くようにして張り付いた。


「ブラック! ブルー! 後は、頼む!」


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