56
空中から降り立ったブラックは鉄球とセットだった。
不規則に超高速移動する鉄球も先ほどレッドがやったように攻撃する瞬間を狙えば何とか撃破できた。
むしろ心配なのはブラックの耐久力の方だ。
ガードしたり、かわしたりしているが相手の動きが早すぎて対処しきれていない。
高速で動くブラックの動きに合わせるのもブルーにとってはかなり厳しかった。
大量の瓦礫のせいで足場が悪く思うように数を減らせていないのだ。
敵の攻撃を受けブラックの苦しそうな声を聴くたびにブルーの焦りも増す。
それでも、残り3つになったところでブラックが反撃し始めて流れが変わった。
「ブルー! 私が蹴り飛ばしたヤツを打ち落としてくれ」
「了解っす!」
一直線に向かってくる鉄球に向かって「バーニングナックル‼」を決めるブルー。
あとはその繰り返しで全て片付いたのだが不安は残った。
本体ではなく見た目だけでかいコマもどきは消えていないしレッドは、空の彼方へと飛んで行ってしまったままだ。
どれ一つとして爆発はしていない――。
「どうやら、またレッドに危険な事を任せてしまったようだな」
「そうっすね……ってゆーか、ブラックさんこそ大丈夫なんですか⁉」
「正直なところかなりギリギリだったよ。もう一撃受けていたらリタイアだっただろうな」
「マジっすか⁉」
「あぁ、最低でも病院送りは覚悟していたよ」
ブラックの言葉に嘘はない。防御に対し大幅にポイントを振り分けていなかったら死んでいたのだから。
*
「なぁ、ノエル……これってどこまで上がるんだ?」
【回答。最低でも成層圏まで達すると推測】
正直なところ飛行機以外で雲の上に行くとか考えたこともないし太陽をこんなにも身近に感じたこともなかった。
「なぁ、ノエル。こいつを空中で爆発とかってさせられるか?」
【回答。可能。最大上昇値に達したところで隙が生じる可能性大】
「なるほど、こいつが停止してから降下する瞬間を狙えばやれるんだな」
【肯定。敵モンスターの耐久力僅か。ソードモードで撃破可能と判断】
――そして、その時がやってきた。
上昇するのを止めた敵がくるりと反転。ブラックめがけて加速する瞬間にタイミングを合わせ力を込めて刀を引く。
勢いよく落下し始めたところで敵モンスターは大爆発!
俺はさらに上空へ向かって吹き飛ばされた――あとは落下するのみである。
「なぁ。ノエル。人の迷惑にならないところに落下って出来るか?」
【回答。可能】
「んじゃ頼むわ」
【了解。各部誘導優先順位。第一をノエル。第二を克斗に変更。フライングシールド展開】
――すごく不思議な感覚だった。
なぜか俺は真白な部屋に居て真正面には、どことなく見たことのあるような女の子が居た。
顔立ちは、紫先輩に妹が居たらこんなかんじかな~とか、愛衣先輩にお姉さんが居たらこんな感じなのかなって感じで。
髪の長さも腰まである紫先輩と肩にかからない程度で切りそろえている愛衣先輩の中間くらい。
身長も同じで紫先輩と愛衣先輩のちょうど中間くらいだった。
それなのに胸のサイズだけは愛衣先輩と同じだたりする。
髪の色は銀色で、瞳は薄い青色。理由は分からないが服は着ていない。
「ノエルなのか?」
「肯定。意識共有のレベルが上がり疑似的に直接会話が可能になったと判断」
「なんで、服着てないんだ?」
「回答。克斗も着ていないから」
言われて見ると確かに俺も全裸だった。
それなのに性的欲求みたいなものは感じない。
例えるなら紫先輩が言っていた身も心もさらけ出すと言ったところなのだろうか?
「なぁノエル。今日までありがとうな」
「当然。ノエルと克斗は一蓮托生」
そういえばそうだったな……。
「色んなモンスターと戦って来たよな?」
「当然。ノエルは、そのために組み込まれたと判断」
俺は楽しかったし嬉しかった。でもノエルはどうだったんだろうか?
「なぁ、ノエルは俺と一緒に戦えて楽しかったか?」
「不明。ノエルには楽しいという感情が搭載されていません」
どこまでも機械的で心が和む。
最初は違和感しか感じなかったくせに、この変な口調と声が――気づけば最高の癒しとなっていた。
何をいったらどう返ってくるかもだいたい予想がつくようになったし。
否定されたとしても、それすら心地よい。
「そういえば、きちんとしたデートってしたことなかったよな?」
「当然。ノエルは戦闘用サポートシステム」
「それでもさ、一度くらいしてみてもいいと思わないか?」
「否定。ノエルに戦闘以外の使い道無しと判断」
「あははは。じゃぁ、こんど一緒に海に行こう。ちなみにこれは命令だ」
「了解。ノエルと克斗は一蓮托生。克斗が行くところはノエルの行く場所」
「そうだ、俺の居るところには、お前が居なくちゃ始まらない。だからこれからも付いて来い」
「了解。克斗の提案は最もと判断」
「じゃあ、約束だ」
「了解」
*
超高速で落下する物体があった。克斗である。
ノエルの制御によりわずかに体を動かしながら軌道を修正していた。
狙いは、崩壊したオフィス街だった。
そこならば一般人を巻き込む可能性はないと判断したからである。
一見するとまるで隕石の落下であった。
そして――。
地面に激突し大きなクレーターを作ると同時に大きな爆裂音を辺りに響かせていた。
*
「おいレッド! 大丈夫かレッド⁉」
「目を覚ましやがれレッド!」
ブラックさんとブルーの声が遠くでした気がした……。
【報告、着陸成功。各部誘導優先順位。第一を克斗。第二をノエルに変更】
「なぁ…ノエル。俺生きてるのか?」
【肯定。フライングシールドは単独での大気圏突入用に作られたシールド。よって克斗は生存】
「そう…なのか……なんでそんなもんがあるんだ」
俺の知る限りではなかったはずだ。
【回答。今回倒したボスモンスターのボーナスポイントで獲得完了】
そういえば、前に言ってたな、ポイント足りなくて選べない装備があるとかなんとか……。
それが、今回役に立ったという事か……手を動かすと動いている気がする。
「おいレッド! しっかりしろ!」
「おい! 生きてるなら何とか言いやがれ!」
「あぁ……、大丈夫みたいっす」
「そうか、良かった!」
「ったく、驚かせるんじゃねぇよ!」
「いやはや、お見事お見事!」
拍手をしながら大きく腹の出たおっさんみたいな声の人が近づいて来た。
白いバトルスーツを身にまとっている。
「どうです、このまま続けてレベル5のクリアを目指してみては?」
「断る、最初の話通り願いを叶えてくれ!」
ブラックさんは強気だった。おそらくこの白いおっさんみたいなのがカネルなんだろう。
「本当によろしいのですか? もちろん報酬の上乗せもありますよ」
「もう一度言う! 断る! 私の願いは私達の事を秘匿しろ! けして誰に何をされようとばらすな!」
「んじゃ、俺の番すね! 警察に自首して罪を償え!」
「おやおや、警察とはこの国の機関ですよね?」
「そうだ! いまさら怖気づいたとかはなしだぜ!」
「いえいえ、むしろそんな簡単な願いで命を懸けていたとは思わなかっただけですよ」
「それでは最後、あなたはどうします?」
「……あぁ、おれか…」
「はい、あなたです。よろしければレベル5を目指してみてはいかがでしょか?」
本音で言ったらまだ戦いたい。でもブラックさんやブルーの気持ちを踏みにじるようなことはしたくなかった。
「俺は、これからもノエルと一緒に過ごしたい」
「ノエルとは、私が内蔵した初心者用サポートシステムのことですよね?」
「あぁ、それがどうかしたか?」
「いえいえ、実にあなたは危うい状態にあるのに、まだ共存を望むのかと思いましてね」
「そんなことは、承知の上で話している。なにか問題でもあるのか?」
「いえね。それでは願いを叶えたとは言い難い状況ではないですか。なにせただの現状維持ですからね」
「分かった。だったらノエルと楽しくデート出来る機能を追加してくれ」
「ふむ。それは興味深い話ですね。まぁ良いでしょう考えてみます」
――そしてカネルは警察に自首し今回の騒動の主犯であると自供したのだった。
当然、街にモンスターが湧かなくなり平和が戻ってきたのである。
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