51



 もうおなじみとなった式部家の屋上での反省会。


「それが、昨日言ってた刀か?」


 ブルー出してみせてくれないかと言われソードモードを展開して見せている。


「はい、そうっすけど。それよりブルーさんけっこう毒浴びちゃってましたけどどんな感じっすか?」

「あぁ、防御にきちんと割り振ってなきゃ厳しかったな」

「私は、相手の攻撃などかわせば良いだけだと思っていたが――やはり、防御は大事だな」

「そうっすね。今回のヤツよりも広範囲で毒まき散らすヤツとか出てきた時はさすがのブラックさんもヤバイっすよね?」

「あぁ。浮いているポイントもあるからな、ある程度は割り振っておこう」

「それにしても、防御型にそんな美味しい装備があるとは思わなかったぜ」

「おそらく、防御重視型は晩成型だったのだろう。スピードとパワーが重視されてると思わされた時点で我々は罠にはまっていたのだろうな」

「そうっすね」

「だがこれは嬉しい誤算と言うほかあるまい」

「でも、二人に比べたらまだまだっすよ!」

「そんなもん圧倒的なレベル差があるんだからあきらめろって」

「むしろ、私としてはよくやってくれている方だと思うよ」

「それならいいんすけど……たぶん今日も2戦目ありますよね?」

「あぁ。あるだろうな。それと本当に1人でいいのか?」

「はい! 俺にはノエルが居るんでだいじょうぶっす!」








 1戦目が終わり帰宅すると、やはり美味しそうな匂いがした。

 たぶんだが、紫先輩には俺が帰ってくる時間が分かるんだと思う。

 だから、ただいまのあいさつがてらキッチンに向かい紫先輩の頬に感謝の意を示してみた。


「ひゃんっ⁉」


 なんだ今の⁉ どっから声出したんだ?


「あれ? まずかったですか?」

「まっ……まずいわけではない! ちょっと驚いただけだ!」

「え? 紫先輩でも驚くことってあるんですか⁉」

「あたりまえだ! 私とて乙女なのだからな!」

「わかりました、以後気を付けます……」

「そうだ、分かればいいんだ、分かればな……」


 なんとかごまかしてはいるが、実際のところ足が結構ヤバかったりする。

 だからまたしても食って寝た――。










 キスされた――。

 頬に軽く当たる程度だったが意図したものだった。

 嬉しい。たまらなくうれしかった。


「ねぇ、こんちゃん。どんなに頑張っても克斗君の一番はノエルちゃんだよ」

「言われずとも分かっている」

「でも、びっくりだよね!」

「そうだな、私自身ここまで狂うものだとは思っていなかったよ」

「それでも結果的には良かったって思ってるよ」

「そうだな、これほどまでに理想に近い形などそうそう作れないだろうからな」

「でもいいなぁ。こんちゃんばっかり好き好きされてて」

「まぁ、そう焦ることもあるまい先は長いんだ」

「克斗君が死ななければね」

「――っ!」

「そんな顔するくらいなら、行かないでって言えればいいのにね」

「そうだな……すでに私個人の力ではどうにもならない事態になってしまっている」

「言うだけならタダだよ?」

「言ったら嫌われてしまう。だからこれからも笑って送り出すさ」

「こんちゃんのいじっぱり」


 同じ相手に恋心を抱きながら、ここまで語り合える相手が居ると言うのはとても幸せなことだと紫は改めて実感した。

 だから自らを振るい立たせ、これからも克斗を支える役に徹しようと強く思うのだった。










 2戦目は、またしても離れた距離での同時出現だった。

 ならば、やることは昨日と同じ――隣街の方を俺が選択し、この街の方を二人に任せることにした。

 

 ――そして俺は今、公立高校のグラウンドに立っていた。


 相手は中型が3体。パワーは、それなりにあるみたいだが移動速度は遅い。慎重にいけばじゅうぶん勝機はあると思った。

 現れたモンスターは、瓦礫の山をとりあえず人型にしてみましたって感じで実に不格好。

 問題があるとすれば、今回も柊さんがセットということである。

 まぁ、モンスターと戦いたいという気持ちは良く分かるから下手に口出しはしないが……。

 とりあえず、刀もどきをその場の地面に突き刺す。


「ノエル! ソードモード頼む!」

【了解。外骨格装甲変形。ソードモード展開】


 どしんどしんと重々しい音を響かせながら近づいてくる相手の足に向かって一太刀。

 予想以上に柔らかくあっさり片足を――ひざ下くらいから切り離せてしまった。

 悪い予感が背筋を駆け巡る。罠だと思った。

 俺は、いったん距離を置いて相手の行動を観察する。

 1体は柊さんと交戦中で、ほぼ互角の戦いをしているように見えた。

 殴りつける以外の攻撃をしてこない相手に対し上手く立ち回って少しずつだが削っている。あとは柊さんの体力次第だろう。

 俺が足を切ったモンスターは、そのままの格好で普通に歩こうとするため上手く歩けずにいる。

 残った1体は俺に向かって歩いてくる。とりあえず片足切るだけなら問題はなさそうだと思い。1体目と同じく右足をすれ違いざまに一刀した。


「ノエル! 相手の攻撃は本当に殴るだけか⁉」

【肯定。現時点ではそれ以外の攻撃手段が不明】


 今までにノエルが分からなかったことと言えば一つだけ。


 ――倒した後に爆発するヤツか⁉


「ノエル‼ 爆発する可能性はあるか⁉」

【肯定。倒した後に爆発する可能性は否定できません】


 となれば善戦してるだけに柊さんが危ない。

 慌てて駆け寄りモンスターの足を一刀。


「何をする! 邪魔はしない約束ではなかったのか⁉」

「こいつ最後に爆発する可能性があるんです!」

「――なにっ!」

「とにかく離れて伏せててください!」

「案ずるな、私とて私設軍の端くれだ本当か否か見定めさせてもらう!」


 残念なことに言って聞くような相手ではなかった。

 まぁ、腕が折れててもこれだけ威勢がいいんだ。多少傷が増えても問題あるまい。

 ただでさえ遅い相手がより一層遅くなったのだから誘導するのは簡単だった。

 縦一列に並んだところで刀をしまい地面に突き刺した刀もどきを手にする。



「ノエル! シールド展開! それと右のフルパワーでの投げ技頼む! 一気に相手を串刺しにするぞ!」

【了解。各部誘導優先順位。第一をノエル。第二を克斗に変更。基本運動性能300%で固定】


 大きく左足を踏み出し全身を鞭のようにしならせて飛び出す先は相手の中心――半回転した刀もどきは見事に3体連続で貫いていた。


 ――そして、《じゅっど~ん》というとんでもなくでかい音と爆風。

 最初からそれを想定していた俺達は盾を地面に突き刺して身をかがめて防いだが……柊さんは吹き飛ばされていた。


「だから言ったじゃないですか」


 差し出した左手に悔しそうな顔をした柊さんが動く方の右手を差し出す。本来なら俺が右手を差し出すところなのだがしばらく使えないので仕方がなく手首をつかんで起こしてあげる。


「相手は人間じゃないんですから用心してもらわないと……」

「すまないな、私の我儘で迷惑をかけた」

「そう思うなら今度からは言う事聞いてくださいね」

「善処するよ……」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る