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 連れて来られた場所は学院長室だった。

 武器の持ち込みは禁止だと言われたが、「だったら帰ります」と言ったら学院長の椅子に座ってるおっさんから許可が出て――俺を連れてきたがたいのいいおっさんは引き下がってくれた。

 この部屋には嫌な思いでしかないが、上塗りする事だけはないようにしたい。


「菊池克斗君だったね。先ずは父親として礼を言わせてもらおう。形はどうであれ娘を救ってくれてありがとう」


 まるでどこにでも居そうなおっさんに見えたのは、こういう事だったのか。

 とんでもなく偉い人がこうも簡単に頭を下げるとは思えない。


「いえ、いいっすよ。ただのついでっていうか、たまたまそうなったってだけの話ですし」

「では、ここからは五石家次期頭首としての話をさせてもらう」


 一気に雰囲気が変わった、まるで戦場にでもいるような心地よい緊張感が張り詰めている。

 きりっとした顔つきは、なるほど紫先輩が自分よりも上手だと言うだけの事はあると思った。


「式部君からも、それなりに話は聞いていると思うが、キミを私設軍の一人としてスカウトしたいと思っている」

「スイマセン。俺自由に戦えなくなるのは無理なんで、他の案にしてもらってもいいっすか?」

「もちろんただとは言わない、相応の権力でも金でもいい。ある程度の要求なら飲むつもりで話しをしている」

「や、俺が欲しいのは思いっきり戦える状況だけなんで、それ以外は何もいらないす」


 なぜかダンディなおじ様は固まっておられる。

 もしかして、もっと丁寧な言い回しの方が良かったんか?

 でも、雰囲気的にはお互いに徹底抗戦って感じだし……これでいいとおもうんだけどなぁ。


「もう一度聞こう。キミの欲しいものはいったいなんなんだい?」

「誰にも邪魔されず戦える環境っす」

「本当にそれだけでいいのかい?」

「いいっす」

「分かった、では共闘と言う形を取りたいんだが、それに関してはどう思う?」

「俺、モンスターが発生する時間と場所が分かるんで、そこに野次馬とかの邪魔者が入らないようにしてほしいっすね」

「つまり、情報は提供してもらえると?」

「俺達の足を引っ張らないならっていう条件付きっすけど。それでよければ」 

「では聞き方を変えよう、キミはどうしてそんなにも戦いたいんだい?」

「一方的に無抵抗のヤツに対して暴力を振るう連中が嫌いなだけっすよ」

「では、戦う相手がいなくなったらどうするんだい」

「毎日彼女とデートして楽しみます」


 またしても口ひげの似合うおじ様は固まっておられるようだ。

 腕を組んでうなっている。


「つまり、キミは彼女とのデートを楽しみたいから戦っていると解釈してもいいのかい?」

「まぁ、だいたいそんなかんじっすね」

【報告。本日PM2:15分にモンスターの発生を予告。場所は南川公園と断定】

「っと、モンスターの発生場所と時間分かったんで早急に動いてもらってもいいっすか?」

「なっ?」

「時間は2:15分。場所は南川公園っす。たぶん土曜日なんでそれなりに家族連れとか多いと思うんでよろしくっす」

「分かった手配しよう」


 どこかに電話かけているってことは話まとまったってことでいいんだよな?


「じゃあ、俺――戦場に行くんでくれぐれも足を引っ張るような事だけはしないでくださいね」


 扉を開けると盗み聞きしてたであろう、がたいのいいおっさんに睨まれた。

 こりゃ帰りは送ってもらえそうにないなと思い何も言わずにスルーして目的地へと向かった。







 目的地の公園に着くと小さな三角マークが5つ横回転していた。

 さすがはレベル2だなぁと思っていたのは最初だけ。

 以前戦った……と言えるかどうか微妙なヤツが5体という内容なのである。

 相手の攻撃方法も同じなら索敵範囲も同じで、3メートル以内に近づかなければOKってのも変わらない。

 ある意味雪辱戦でもあった。

 今の俺には戦う力もあるし、強力な仲間だって居る。

 敵が出現してから約3秒間は攻撃してこないってのも、こちらにとっては有利な条件の一つだ。

 赤い三角マークの間隔は約10メートル。少しでも多くの人に迷惑をかける予定だったんだろうが、今回人的被害のでる可能性はないと言ってもいいだろう。

 本当に五石家の人がなんとかしてくれたみたいで公園にはだれもいなかったし、見渡す限り野次馬連中もいない。

 相手の攻撃方法を、先に来たブラックさんに伝えると――モグラ叩きのようりょうで各個撃破しようという事になった。

 出現した瞬間を狙って3体を撃破し、残った2体のうち一方をブラックさんが相手の死角からしかけ。もう1体は俺の飛び道具(刀もどき)で片づけようという話でまとまったところでブルー到着。

 俺が指定した場所に三人がつくとしばらくしてモンスターが出現。ブラックさんは華麗に蹴り飛ばし。ブルーは踏みつぶし、俺は刀もどきを思いっきり叩きつけて3体を撃破。

 予定通りブラックさんが相手の死角をついて蹴り飛ばし4体目を撃破。

 動きの遅い相手は格好の的でしかなかった。


「ノエル! 頼む!」

【了解。各部誘導優先順位。第一をノエル。第二を克斗に変更】


 あいかわらず見事な腕前である。半回転した刀もどきが相手の中心付近に命中しモンスターは消滅。

 楽勝過ぎる展開のまま場所を移動し――本日の反省会に突入したのであった。


「それにしても不思議なものだ。土曜日の公園に誰も居ないのは正直驚いたよ」

「あ、それ。五石家の人達が何とかしてくれたからっす」

「なっ⁉ レッド! キミの後ろには、あの五石家が居たのか⁉」

「あ、いえ。今日から共闘関係になったって感じっすかね」

「しかし…それならばあの状況も理解できる。というより認めざるをえない事実なのだろうな」

「あのブラックさん! 五石ってあの五石ってことですよね?」


 どうやらブルーも五石家の事を知っているみたいだ。俺が知らなかっただけで結構有名なんだろうか?


「ある意味国を影で支えていると言っても過言ではない方の五石家で間違いないだろうな」

「あ、それでなんですけど書き込みの時間変更してもいいっすかね?」

「確かに、人的被害が出ないのならば情報は早い方がありがたい」

「了解っす! 今度からは分かった時点で書き込みしますんでよろしくっす」


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