レベル1ボス戦

39


 テレビ、新聞、ラジオ等のメディアは、こぞってモンスター関連の内容を扱っていた。そして、そこでも主流はサイレントの自作自演としてのコメントが多く見られ――端的に言ったのならばサイレントは完全に悪者扱いだった。

 いまさらながらではあるが警察も本格的に動くらしく今後の展開が泥沼化するのは容易に想像できた。

 なにせ正確に予想出来るのはノエルだけであり、いくら防犯を強化したところでモンスターの出ないところを守っても税金の無駄使いでしかない。

 となればやはり注目されるのは克斗の書き込みだった。適当に付けたKNという名前と、その書き込みの内容が何度となくテレビに映る。

 捜査線上に克斗が浮かぶのは時間の問題だった。


「ねぇ、こんちゃん。どうしても克斗君は戦わなくちゃいけないの?」


 今週だけで何度もボロボロになった克斗を見てきた愛衣は不満をもらした。


「これはまた、ずいぶんと勝手な物言いだな」

「だって……」

「私達さえ助かればそれでいいと言うなら貴様の考えもありだとは思うが、残念なことに。すでに克斗は魅入られているよ」

「わかってるよ! でも……」

「あきらめろ、どうあっても克斗の一番はノエルだ。ここは名付け親として祝福してやるべきところなんじゃないか?」

「分かってるもん!」

「貴様も見たなら理解してるはずだ」

「無謀な正義感の理由でしょ……」

「あぁ。あの傷はそんなに安いものじゃないからな。今だから言えるが、運が良かったのか悪かったのか…場合によっては、今後後遺症に苦しむ可能性すらある」

「そう、なんだ……」

「私は、克斗がどうなったところで付き合っていくつもりだが?」

「そんなの私だって同じだよ!」

「だったらこんな所でうだうだ言ってないで子作りでもしてこればいいじゃないか」

「それは、こんちゃんだって同じでしょ!」

「私には、他にやっておかねばならんことがあるからな」

「翠叔母さんのこと?」

「あぁ。それもあるが、五石のヤツが思った以上に動いてくれていてな」

「え、聞いてないよ!」

「言ったところでどうにもならん話だからな」

「む~~~~~! こんちゃんのバカ!」

「そうかそうか、そんなにも聞きたいのなら教えてやろう」


 相変わらずの悪い笑み。何度も見せられて慣れているとはいえ愛衣は、この顔が嫌いだった。


「克斗が五石家の犬になると言う話なのだよ」

「えぇ~! 克斗君取られちゃうの⁉」

「案ずるな、あくまでも形式上の話だ。とは言え国家権力に直接物が言える五石家の後ろ盾は欲しいだろう?」

「それは、そうかもだけど……」

「私だって、あヤツにだけは借りを作りたくないと思っていたが今回ばかりは愛する夫のために涙を飲んだのだよ」

「む~~~~~! なに正妻気取りしてるかな?」

「そうか? 夫が牢獄に入らないために影で献身的な努力をしている私ってポイント高いと思うのだがな?」

「でも、克斗君には、そういうの全然届いてないよ」

「いいさ、どこまで行っても結果論でしかない。今後大惨事にだけはならないように動ける範囲で精一杯やるまでさ」

「ふ~ん。でもさ……なんだかなぁだよね」


 愛衣の視線は、テレビに流れていた。ニュースが終わったかと思えば特番が始まり、またしてもモンスターとサイレントの関連性についてだったからだ。


「テレビというのは、真実を報道する機関ではないぞ。より真実だったら面白い方を真実として流しているだけにすぎん」

「わかってるよ! わかってるもん!」

「まぁ、私も分かっていてイライラしているのだからお互い様だがな」









 いったい何時間寝ていたんだろうか?

 気づいた時は午後になっていた。右手は――まだ完全復活とはいかないみたいだった。


「なぁ、ノエル。モンスターはどんな感じだ?」

【報告。現在のところ索敵範囲内にモンスター発生の予兆無し】

「じゃぁ、右手の方は後どのくらいかかる?」

【報告。推定8時間程度で完全回復すると予想】

「そうか、引き続き修復頼む」

【了解】


 腹が減っては何とやら。

 とにかくなにか食べようと思ってリビングにいくと愛衣先輩しか居なかった。


「あれ? 紫先輩は?」

「む~! 私に対するお礼よりも、おはようよりも、こんちゃんなの⁉」

「あ、いえ、そういうわけじゃ……」

「いつも一緒だからってずっと一緒とは限らないんだよ!」

「すみません、色々とありがとうございました。お腹が空いたのでなにか食べさせてください」

「じゃぁ、私とご飯どっちが食べたい?」

「ご飯をお願いします」

「む~! どうして釣れてくれないのかなぁ?」

「や、今は性欲よりも食欲なんで」

「じゃぁ先ずはこれからだね!」


 なにやら怪しげな飲み物が――それも大量に出て来た。


「なんですか? これ?」」

「プロテインだって。筋肉増強に良いらいいよ」


 発想としては悪くない気がしたので飲んでみると……思った以上に不味くなかった。


「ふ~ん。やっぱりこんちゃんが用意したって分かっちゃうんだ」

「あの~。もしかして機嫌悪いですか?」

「もしかしなくても悪いもん!」

「なにか、食べさせて欲しいんですけど?」

「そりゃさ、話さなくても私のこと気づかってくれてるってわかるよ! でもさ! 少しくらい『大丈夫?』とか言ってもバチは当たらないんだよ!」

「でも、そういう、上辺だけのって嫌いじゃなかったんですか?」

「嫌いだよ! ムカつくだけだよ!」

「愛衣先輩って、けっこうめんどくさい人だったんですね」

「う~~~! めんどくさい言った!」

「や、どうせ言わなくてもバレルなら本音言った方が話が早いってことだったと思ったんですけど?」

「焼き魚と卵焼き!」

「は?」

「どっちから食べたいかって聞いてるの!」

「じゃあ、焼き魚で」

「なんでめんどくさい方から選ぶかなぁ?」

「紫先輩が焼いたから?」

「む~! 正解だから面白くない!」


 なぜか、冷めたままの卵焼きが俺の口に押し込まれていた。


「私に冷たくするとこうなるんだかね!」

「つまり、優しくしないと温めてもらえないと?」

「そうだよ! 私だって卵焼きくらいなら作れるんだからね!」

「でも、冷めてても美味しいですよ。なんかお弁当にぴったりの味付けですね」

「はぅっ!」

「どうしました?」

「今、サラリーマンになってお弁当のふた開けたら卵焼き入ってたの想像したでしょ!」

「本当にすごい才能ですよねそれって」

「そんな私を怖がらない克斗君も相当だけどね」

「いいんじゃないですか、いろんな夫婦の形があったって」

「残念ながら、克斗君が思ってるほど簡単じゃないんだよ。私、人を見る目だけはあるからさ、同じような人なんてめったに居ないんだよ」

「でも、俺はノエルの事、本当に彼女だって思ってますよ?」


 ぽんっと、愛衣先輩は柏手を打った。


「そうだ、それだよ!」

「なにがですか?」

「ご飯食べ終わったらノエルちゃんと直接話させてよ⁉」

「分かりましたやってみます」

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