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 今回も、体中痛かった。特に右手の痛みはかなりヤバいレベルだった。

 紫先輩にもらった武器を杖替わりにしてなんとか家までたどり着いたが……玄関までで限界だった。


 ――どのくらい寝ていたかは分からないがノエルの声で起こされた。


【報告。索敵結果。本日PM6:35分。ショッピングモールにてモンスターの発生を予告。至急現地に向かって下さい】

「マジか⁉」

【肯定。ノエルは嘘をつきません】

「モンスターって一日一回じゃなかったのかよ⁉」

【推測。不具合もしくはレベル1になると複数体出現する可能性大】


 そういえばブラックさん言ってたな、ゲームの中身カネルとかいうヤツが好き勝手に出来る可能性があるとかなんとか。


「ノエル! 今の回復度はどのくらいだ⁉」

【回答。各可動部修復度65%。中破した右手は使用不能】

「だよなぁ……」


 慌てて体を起こそうとしたが痛みでそれどころじゃなかった。

 痛みは切り離せるから動くことは可能だと思うけど戦力にはなれそうにない。

 ここからショッピングモールまで行くとなると、それなりに時間はかかるだろうし。

 かといって昼間みたいなヤツが出てきたら大惨事である。

 それなりに人の出入りがある時間ってのが特にヤバイ。

 やっぱり、犠牲者がなるべく出るような場所を好んで出現させてるとしか思えない。


「ノエル、とりあえず痛みだけカットしてくれ」

【了解。痛覚神経遮断】


 普通に起き上がることはできたが全身が熱っぽい。

 気づけば、また着替えさせられていて、右手には包帯が巻かれていた。

 きっとまた紫先輩がやってくれたんだな。

 とりあえずベッドから降りて着替えようと思い部屋から出ると紫先輩が居た。


「まだ、痛むだろうに――ってまさか⁉」

「はい、モンスターの発生予告がありました」

「バカか貴様は! その身体で行って何ができる⁉」

「あ、大丈夫っすよ。たぶん俺は指示だけ出してればいいだけなんで戦力的には問題ないと思うっす」

「は⁉ ふざけるな! 戦力だと‼ キサマ、これだけの傷を負ってまでまだ戦うつもりなのか⁉」

「大丈夫ですよ」

「なにが大丈夫だ⁉」

「どうせ、俺は後ろで見てるだけだし…むしろ俺がケガした事でブルー先輩が引け目感じてくれてるみたいなんで都合が良いってゆーか俺の言った事きいてくれるようになったんで、たぶん戦力的には向上してると思いますよ」

「だとしてもだ! 利き腕をへし折られたのだぞ! 日常生活に支障がでるだろうが!」

「ああ、それも問題ないっすよ。ノエルがなんとかしてくれると思うんで。それに食事なら紫先輩に食べさせてもらえばいいだけじゃないっすか」

「あぁ、わかった。だがそれはそれ、これはこれだ」

「俺が戦ってるのは先輩のためっすから」

「は?」

「別にこの街の住民全員守るとかっていう大層な気持ちなんてはなっからないですから。あの日先輩達を助けてからが始まりだったっすよね?」

「ああ、そうだったな」

「その、今も同じ気持ちのまんまなんですよ。なんていゆーか。ただ、先輩達を守りたいってゆー、それだけなんです」

「なるほどな。愛衣が執着している理由に察しはついていたが…確信に変わった。愛衣が、人の嘘を見抜いたり核心を得るのが得意だったりするのは知っているな?」

「はい」

「そのため極度の人間嫌いでもある。にもかかわらず貴様に対してだけは異常に固執している。特定の人間に向けられた守りたいという気持ちが彼女を強烈に惹きつけていたのだろうな」

「そうっすかね?」

「いざとなったら身を呈してまで守ってくれる人なんてそうそう居ない。しかし、実際に貴様はそれをやって見せたではないか。会ったばかりの名も知らぬ女のために」

「まぁ、確かに……そうでしたけど」

「そして、その後も貴様の気持ちは変わらずにいる。愛衣がベタ惚れになるのも頷けるというものだ」

「なんか、そういわれると嬉しいもんすね」

「どうせ止めても無駄なんだろが。これは命令だ! 時間ギリギリまで安静にしていろ!」

「了解っす。痛み誤魔化すのが得意ってだけで痛いもんは痛いですからね」

「それと、今回は私も付き合う」

「え? や、危ないっすよ!」

「安心しろ、肩をかしてやるだけだ」

「でも……」

「わかっている、途中までだ。それなら問題なかろう?」

「あ、ありがとうございます!」







 書き込みは指定された通り10分前――。

 出来れば直接電話とか出来ればいいんだけど、きっと履歴たどられるの怖いから無理って言われるんだろうな……なんて思いながら俺はショッピングモールまでの道をゴルフバッグ担ぎながらとぼとぼと歩いていた。

 いくら痛みを消してもらってるからと言っても、途中まで紫先輩が肩を貸してくれたとしても回復しきっていないのだから仕方がない。

 今回もまた他力本願で行くしかなさそうだっただけに、祈る気持ちでショッピングモールの中に足を踏み入れた。

 思ったとおり、人通りは多い。最悪モンスターが湧いた瞬間に弾き飛ばされる人が出るかもしれない。

 モンスターの出現場所はショッピングモールのちょうど真ん中くらいで、近くに魚屋さんが在った。

 道のど真ん中で大きな三角形が横回転している。

 すでに変身しているので俺の姿は周りから見えないはず――なのでうっかりぶつからないように、近くにある自動販売機の影に隠れるようにしていた。

 もうそれほど時間はないと思っていたら!

 なんとブラックさんが時間前に来てくれたのだ!

 そして、小声で話しかけてきた。


「レッド、キミを疑うわけじゃないのだが、本当にモンスターが発生すると思うかい?」

「はい、すでにモンスターの攻撃方法とかも分かってるんで、出ないってことはないと思います」

「それはすごいな。発生する前に相手の手札が読めるとは心強い」

「ですよね」


 それなりの戦闘力があればね……。


「では、聞かせてもらおうか」

「はい、一番気を付けてなくちゃいけないのが溶解液の攻撃ですね。一般人に直撃したら一発アウトのヤツです。それから光による目つぶし攻撃と、突撃攻撃もあります。あと、攻撃された相手を優先的に狙ってくるので昼間みたいな事にはなりにくいと思います」

「なるほど、確かにこれはカンニングみたいでずるい気がしなくもないが、私達が戦っているのはあのカネルだ。相応のずるはさせてもらってもよかろう」

「場所は、だいたい魚屋さんの前で道の真ん中。多分2,3メートルくらいの空中っす」

「了解した、それだけ分かればじゅうぶんだ」


 そして――。


 魚屋さんの前だからだろうか、巨大な金魚みたいなモンスターだった。

 目の部分がライトみたいになってなければ、出目金そのものと言ってもいいくらいである。

 おそらく口から溶解液を吐いて、目が光って目つぶし攻撃を仕掛けてくるのだろう。

 戦闘が始まってすぐくらいのタイミングでブルーさんも現れた。

 相手の攻撃内容をブラックさんが手短に説明しながらモンスターの頭にかかと落としを決める。

 どうやら周りに迷惑をかけないように手加減してるみたいだ。

 なにせ左右に店があるし、通行量も多い。昼間と同じく歓声と悲鳴が混ざった声が鳴り響く。

 モンスター発生時には運良く座標の重なる人が居なかったというよりも。予想通り空中に出現してくれたからだっただけである。

 そして、降下してきたモンスターを今度はブルーがしたから突きあげる。


【報告。敵モンスタープレイヤー№3及びプレイヤー№4をターゲットに決定。目潰し攻撃を選択。3秒後攻撃開始】

「ブラック、ブルー目つぶし攻撃が来る! 備えてくれ! それからノエル! プレイヤー№3はブラック、プレイヤー№4はブルーに置き換えてくれ」

【了解】 

「了解した」

「了解だ」


 逃げてくれればいいのに野次馬根性丸出しの連中がこぞって巻き添えを食らい。叫びながら目をおさえている。


【報告。敵モンスター目潰し攻撃有効と判断。次の攻撃まであと3秒】


 はぁ⁉ 無差別攻撃タイプじゃなかったよな? それとも二人そろって防御したから有効と判断したのか?


「もう一回、目つぶし攻撃が来る! 備えてくれ!」

「了解した」

「了解だ」


 まずい、今の攻撃を続けてくれるならいいが、効果ないと判断されたと同時に溶解液攻撃が来かねない。

 野次馬連中のせいでまともに戦えない上に最悪死人が出かねない状況下なのである。

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