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 自室にあるやや大きめのソファーに寝ころびながら、いまさらではあるが俺は幸村から借りたゲームをしていた。

 形はどうであれこれがきっかけでノエルに出会えたような気がしたのと――なんとなくゲームをしてれば、またノエルが話しかけてくれるんじゃないかという希望的観測からでもあった。

 先ずはノエルと同じ声を持っているさくらルートから。

 正解は、とことんさくらのバカに付き合うことだった。

 最終的には、さくらの目的――何をしても付いてきてくれる人を探し出せたことになり、今後は普通の女の子みたいに振る舞うと言ってくれたのにもかかわらず主人公は『いまのままでもいいよ』と、度量の大きさを見せてますますさくらを惚れさせると言う展開だった。

 ここまで無鉄砲なヤツにとことん付き合ってやっただけでも主人公はたいしたもんだと感心したのだが、さらに上乗せとは……よほどのドMかなにかかとも思ったが、考えようによってはありなのかなって思う自分も居たりする。

 結局のところ長く付き合って行くには相手のマイナス面も含めて耐え続けるか受け入れるしかないと思うし。もしもそうやって自分を受け入れてくれる人に出会えたのならすっげー幸せになれる気がした。

 そう考えると最初から生涯の相手を探すとしたら方法の一つなのかなって思ってしまう俺が居た。


 次に紅理ルート。これは幸村に教えてもらわなければ気づけない隠しルートみたいなものだった。

 タイトル画面の所に変化があってそこを突くと本当のエンディングが見れるというもの。

 作戦は失敗に終わり紅理の強化は全くされなかった。それでも紅理の内面には変化があった。

 もともと優秀な資質があり孤軍奮闘、単独突破が基本だった紅理が仲間と共闘するようになったのだ。

 下手な足手まといでも作戦次第ではプラスになることもある。そうして相手のキングを討ち取りゲームに勝利するという展開だった。

 そして、紅理の意識を過去に飛ばたマッドサイエンティストが褒美として上層部の許可なく紅理を身体ごと過去へと飛ばす。

 成功するかどうかも分からない実験に挑んだのは、全て紅理がもう一度主人公に逢いたいと言う想いからだった。

 実験は成功し主人公の前に現れた紅理はいきなりプロポーズしてどんびきされるが……理由を話せばなるほど納得。

 肝心なところがどこか抜けてる紅理だと主人公が認めトゥルーエンドを迎えるという内容だった。


 そして少し考えた末に3番目は麻里絵ルートを選択。

 あの恐怖は何だったのか? スタッフのいたずら心だったと知って唖然とさせられた。

 『実は、それ私の血をイメージした……というのは冗談でして少しばかり焦がしてしまったんですの』

 モザイクの外されたお弁当はちょっぴり残念だったが、女の子の日に無理して作ってくれたお弁当だと知ると主人公は喜んで食べていた。

 その後も、どちらかというとほのぼのというか……正直爆発しろこのバカップルと言ってやりたくなるくらい甘々な展開のままエンディングをむかえていた。

 幸村が一番おすすめだと言っていたのもなるほどだった。


 最後が空乃ルート。

 主人公は野球に全く興味がないのではなく、興味を失っていたという展開だった。

 昔リトルリーグでピッチャーをしていたが、本気で投げると捕球できるキャッチャーが居なかったため連戦連敗。

 それがトラウマとなり、野球の話になると拒否反応が出るようになっちまっていた。

 空乃の行動理由は、かつてリトルリーグ時代に一度だけ対戦した主人公との再戦だった。

 そして、当然の流れで勝負。主人公はボコボコに打たれまくるが練習に練習を重ねいつか三振を奪ってみせるから付き合ってくれって流れでハッピーエンドをむかえていた。

 全体をとおした感想としては――やはり、ちょっぴり羨ましいだった。

 この先――俺とノエルにはどんなエンディングが待っているのだろう?

 出来る事ならゲームみたいなハッピーエンドを用意してもらいたいものだ。







 ノエルと話さなくなって1週間以上が経っていた――。

 俺は戦った跡地を巡る朝の散歩が日課になりつつあった。

 そんなある日だった。


《コンコン》


 と言う音を立てて缶コーヒーが俺の足元に置かれていた。

 真っ黒なところから見てブラックコーヒーだとすぐにわかった。

 なんだろうと思い拾い上げると‼

 張り紙がしてあってそこにはこう書かれていた。

 『左手の甲に向かって外骨格装甲展開と言え』と――。

 周りに人は居ない。物は試しと思い左手の甲に向かって。


「外骨格装甲展開」


 俺の目にはブラックさんが映っていた。


「久しぶりだなレッド」

「あれ? もう会わないんじゃなかったんでしたっけ?」

「もちろんそのつもりだったさ。だがこうも戦友が落ち込んでいる姿を見せられると心が動くこともあるということだ」

「なんかすいませんっす」

「いや、いい。私だってノエル君は戦友だと思っているからね」

「やっぱり、分かります?」

「おそらくだがなんらかのトラブルがあったのだろう?」

「はい、ノエルのヤツ機能を停止しちゃったみたいでして」

「なるほどな、レッドを優先すればそういう選択を取るだろうとは思っていたよ。そこでだ、フライングシールドを出してはみてくれないか?」


 言われるまま出そうと思ったが出し方が分からない。


「基本は、視線で項目を選択。瞬きで決定だと思ってメニュー画面を開いてみてくれ」

「ブラックさん達ってこんな面倒なことしながら戦ってたんっすか?」

「なれれば、そうでもないさ」


 確かにフライングシールド展開の項目があった。


「出せましたけど、これでいいんですか?」

「あぁ、上出来だ。例えばの話。レッドはノエル君が盾の形をしていても気にしないだろう?」

「そうっすね! また話ができれば上出来っす!」

「これは推測でしかないんだが、何らかの方法でフライングシールドにノエル君を移植する事が出来るんじゃないかと私は考えている」

「まじっすか⁉」

「あくまでも可能性だけの話さ。だが、もしカネルが現れてシールドに移植する程度なら可能だと言ったら考えてみてやって欲しいという話さ」

「いや、それでも嬉しいっす!」


 あくまでも可能性でしかない。そんなことは分かっている。

 でも、紫先輩が言ってた事よりもブラックさんの言ってることの方が現実味がある気がした。


「それにな、私は2人……いや、ノエル君も含めて3人か。キミたちが守った平和な街が好きになれそうなんだ」

「なにいってるんすか! ブラックさんも頑張ってたじゃないっすか!」

「いや、私の動機は不純だ。とてもレッドやブルーみたいに正義の味方を気取ることなんてできないさ」

「それ言ったら俺だって、ノエルと一緒に戦ってるのが楽しかっただけっすよ!」

「そうか……ならばお互い様ってことだな」

「そうっすね」







「ん~~~~~~~~」


 何かが俺の口をふさぎ舌を絡めている感触がして目を覚ました。


「起動。克斗の意識覚醒を確認」


 いつぞやみたノエルの姿とそっくりの女の子だった。

 ――ってゆーか口調も声もノエルそのものである。


「ノエル…なのか?」

「肯定。現在はフライングシールドを変形して人型になっています」

「なんで?」

「回答。警察署からの脱走はプレイヤー№1にとって簡単」

「プレイヤー№1ってカネルのことなのか?」

「肯定」


 つまり警察署から脱走したついでにノエルを取り出してフライングシールドに移植したってことか。


「で、なんで裸なの?」

「回答。子作りのため」

「じゃぁ、俺の身体が動かないのはなんで?」

「回答。ノエルには克斗の肉体制御が可能。よって愛衣お母さんに逃げられないようにして欲しいと頼まれた」

「案ずるな克斗、一時的なものですぐに動けるようになるそうだ」

「って、なんで紫先輩も裸なんですか⁉」

「もちろん子作りのためさ」

「そうだよ克斗君。頑張ってね!」


 愛衣先輩も裸だった。

 どんなにもがいても首から上が動く程度で抵抗できないくせに一か所だけはこの光景を見てきっちり反応しちまってる。

 しかも、おさまる気配が全くないどころか暴発すんぜんである。


「や、ちょっと待って下さい!」

「さんざん待たせた人のセリフとは思えんな」


 紫先輩は悪い笑みを浮かべている。


「そうだよ! こうなったのは全部克斗君のせいなんだからね!」

「や、でも、いきなり3人ってのはどうかと」

「回答。問題ない。克斗の戦闘欲を性欲に変換。よって相応の生殖力ありと判断」

「なるほど、つまりこれからは性欲だけを満たせてやれば危ない橋は渡らないという事だな?」

「肯定。存分に絞り出すべきと断定」

「わかったよ! 私頑張っちゃうから期待しててね克斗君!」


 どうやら俺の意見は無視の方向で話がまとまっていたらしい。

 いくら叫んでも誰一人として俺の意思を尊重してくれる人は居なかった。




おしまい

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ハンティング・プレイヤー 日々菜 夕 @nekoya2021

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