第21話
レルフィード様と町に買い物に出た時に、カクタスダンサーさんという、サボテン型の小人さんたちに会わせてもらい、彼らの歌も教えてくれたので、歌いながらダンスを眺めていた。
まあダンスというか、土地を耕すための労働なのだそうだが、私の膝を越えるか越えないかという背丈の小さなサボテンの集団が、トッテ、トッテと軽やかにステップを踏んでいる姿は可愛らしく、ファンタジー以外の何物でもなかった。
(可愛らしくっつーても、この人たちみんな超ジー様レベルなんだもんなぁ……魔族ってば、若く見えて長生きって羨ましいわー……)
隣のどう頑張って老け込ませても20代前半にしか見えない整った顔立ちのコワモテ魔王様も、確か174歳とか言ってたもんねえ。
ファンタジーすごいわー。
いやこちらの人たちにはリアルなんだろうけど、私にとっては映画の世界である。
サボテンさんも握手をした時に、トゲトゲが全然痛くなかった。猫ヒゲみたいな柔らかい感じになってたので、きっと固さの調節も出来るのよね。
ちょっと痛いぐらい我慢だと思ってたのに、気配りまでしてもらえるとは思ってなかった。
なんと優しいサボテンさんだろうか。
念話とかで歌が直接聞けなかったのがかえすがえす残念だ。
暫く楽しくダンスを見物して、スライムさんにも会いたかったのでお礼を言ってお別れし、スライムショップに向かう。
そう、スライムは売り物なのである。
ペットショップと同じようなものなのかと思ったが、一家に一体は大概いるのだそうだ。
スライム自らやってくるので、職業斡旋所に近いと言っていた。
掃除をしてくれるホワイトスライム。
白ちゃんと同じ子である。
水の魔法を操る事が出来るブルースライム。
なんと体にブラックホールのような荷物を保管出来る冷蔵エリアが存在するらしく、肉や魚などを卸している商売の人は、鮮度を保ちながら大量の商品を運べるので、どんな小さな商売の人でも必ず一体は確保している。
雑用や簡単な事務仕事も出来るグリーンスライム。
これはジオンさんが仕事をさせているので何体も見た。一番おっとりしてる感じがする。
火の魔法を操れるレッドスライムは、貴族の家やレストランなどの厨房には欠かせないらしい。
城の厨房にもいるらしいが、照れ屋なのと手のひらサイズの小さな子たちなので、単に私が気づかなかっただけのようだ。
他にもレアな子がいるらしいが、滅多に現れないそうで、このお店にもいなかった。
「それにしても、スライムさん働かせすぎのような気がするのですが」
店を出てから、相変わらず手を繋いだまま歩き出すレルフィード様に私は釈然としない思いで告げた。
「……だが、奴らも働く事が魔力摂取なのだぞ?ホワイトスライムはホコリを食べるし、グリーンは作業しながら雑草や虫などを食べる。レッドスライムは定期的に火を食べないと魔法が使えなくなる。
それに、スライム自体が役に立つ事を喜ぶのだ」
「あー、なるほど。良いことをしつつ自分の栄養も確保してる訳ですか?」
「そういう事だな」
素晴らしい。まさに適材適所ではないか。
スライムさんもカクタスダンサーさんも立派だなぁ。
「私も少しは城でお役に立ってるでしょうかね?」
「何を言う。キリのおかげで城の食生活は素晴らしく向上したぞ」
良かった。一応お給料頂いてるしな。
食べるもの作るぐらいしか私にはここで出来る事がない。
いや、聖女がやってきたら穏便に話し合いをするために働けるかもだけど、まだ先の話だしな。
一社会人としては、必要とされている事がモチベーションにもなる。
「それに、……わ、私の練習相手になってくれるのだろう?」
うーん、レルフィード様って、無口になりがちだけど、荷物も持ってくれるし、姿が見えないと迷子の心配もしてくれるし、転ばないように手を引いてくれるし、立派な紳士なんだよな。
会話さえ円滑に出来れば何の問題もないと思うけれど。せいぜい会話のレッスンぐらいで大丈夫じゃないかなあ。
私は素直に思ってる事を伝えると、
「いやっ、まだ全然ダメだっ!キリで少しは慣れたと思うが、他の人には緊張が取れない。まだまだ練習が必要だ」
「そうですか?まあ本人が仰るのだからそうなんですかねえ。私なんかで良ければお付き合い致しますが、慣れるためには他のメイドさんとかとも──」
「いや、キリだけでいい」
あー、コミュ障だもんねぇ。いきなりポイポイと第3者とは無理かも知れないな。無理に急かしても良くないだろうし。
まあ、私はコワモテだけどイケメンの優しいお兄さんとデート紛いのことが出来る(それもこの国で一番偉い人である)わけだし、むしろ有り難いんだけど、私みたいなのをしょっちゅう連れ歩くと、本当に彼がデブ専だと思われるんじゃないかと心配だ。
…………いや、もしかして自分の性癖に気づいてないだけで、本当にデブ専なのかしら?
「えーと、レルフィード様」
「なんだ?」
「ここに、すんごい美人で性格もよくて、ナイスバディのレディAさんがいたとします」
「…………?ああ」
「デートに誘われたとしましょう。そして、たまたま同じ日に私と町に本を買いに行く予定がありました。さて、どうしますか?」
「断ってキリと出かける」
「そこは変更すべきです私の予定を。じゃ、Aさんとの予定に何の問題もない場合はどうしますか?」
「キリを誘って出かける」
「それじゃ練習にはなりませんよ」
「……む」
む、じゃないよ魔王様。何ふくれっ面してるんだ。
私にしか慣れないんじゃ意味がないじゃない。
「レルフィード様は格好いいんですから、美しいレディとも練習した方が良いでしょう?」
「だが、キリは帰ってしまうだろう?聖女の件が片づいたら」
「そうですね、仕事もありますし」
「だからなるべく一緒にいないと時間が勿体ない。それに、キリの手は柔らかくてさわり心地がいい」
「肉付きがいいだけですよ」
「私はこういう手が好きだ。私はゴツゴツしてる。女性の手というのは柔らかいのだな」
ニギニギと手を握られる。あまり表情は変化ないが、楽しそうである。
やばいな、女性に免疫のない人に私を練習台にしてしまったのはやはり間違いかも知れない。
刷り込みみたいになっているのでは?
むちむちした人の手は緊張しない⇒自分はむちむちした人が好き、と勘違いしたままになるのは危険だ。
これは、私が早急に痩せなくてはなるまい。
でも、ご飯美味しいんだよなあー。なにせいいお肉や魚使い放題だもんなあ。スイーツもいい果物使えるし。
お城最高。
私は険しい道のりになりそうで少しため息をついた。
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