第19話
「…………え?私にか?」
本屋で私が何冊か本を選んで会計をした後で、レルフィード様とひと休みするべくカフェに入った。
私はミルクティーを飲みながら頷き、さっきのマフラーの話をした。
「レルフィード様の私服は割とモノトーンが多いようなので、お似合いになるかと思いまして。
あ、でも気に入らなければ使わなくても──」
「いや使うっ!是非使わせて欲しい!」
食い気味に返したレルフィード様を眺めて、ああやっぱり寒かったんだわきっと、と買って良かったとホッとした。
紙袋を渡して、
「良ければ。お似合いになるか分からないので少し身につけて頂けると有り難いのですが。色合い的にお気に召さなければ、買ったばかりなので交換してくれると思いますし」
「分かった」
紙袋を開いたレルフィード様は中からマフラーを取り出そうとして固まった。
「……あ、色が好きではなかったでしょうか?」
「……いや、あの、色がどうこうと言うか」
「ではワンポイントのデザインが?」
「デザイン、と言うか……これを首に巻くとこの国では間違いなく私は変態に、なるん、だが……そちらの世界ではふ、普通なの、だろうか」
レルフィード様が顔を赤くしてうつ向く。
なんでだ。
と一瞬遅れてハッと気づき、手元のもう1つの袋をガバッと開けた。
…………マフラーこっちだった。
おかしいな、後から買ったから確かに上の方に乗せてたはずなのに、どうして下着入ってる方が上になってるのだ。これでは私の方が変態みたいじゃないか。
「ま、誠に申し訳ありません!そちらではなくこちらでした!」
慌てて謝罪すると袋を交換してもらった。
「す、済まない!女性のした、下着を見てしまって」
「いえっ、私が間違えただけですから。こちらこそお見苦しいものをお見せしてすみません」
耳まで赤くして謝るレルフィード様にこちらの方が申し訳ない気持ちになる。
「ちなみに日本でも一般の男性は下着を首には巻きませんのでご安心下さい。
そんなことしてたら日本でももれなく変態ですので」
「……そうか。価値観が同じで安心した」
レルフィード様は今度こそ自分宛てのプレゼントだろうか、と不安そうに袋を開いてチラリと見て、安心したように取り出した。
「…………とても暖かそうだ。私は落ち着いた色が好きだ」
巻いてもいいだろうか?と首に巻きつけた。
「キリ。私に似合うだろうか?」
「はい。とてもお似合いになります」
正直、イケメンは何を身につけても似合うのね。
むしろ厳つい感じがマフラーで柔らかい印象になって、いい感じである。
「……そうか。人にモノを貰うのは初めてだから、とても……不思議な感覚だな」
「プレゼントのやりとりとか、こちらではしないのでしょうか?」
「いや、昔々、母がケーキを作ってくれたが………両親ももう50年以上前に亡くなってるしな。私も余り社交的な付き合いをしないものだから」
そうか、100年200年単位で長生きしてると、ご両親とか先に亡くなっててもおかしくはないのか。
「それは御愁傷様でございます。……えーと、ご不快ですか?プレゼントとかされるのは」
「いや、全く不快ではない。慣れてないだけだ……これは、私が使ってもいいのだろうか?」
「そのために買いましたから。外出の際には便利かと」
「そうだな……キリ、ありがとう」
頭を下げようとするレルフィード様のおでこをガシッ、と押さえた。
「っ?!」
「レルフィード様は魔王様でしょう?
私は今、こちらでメイドなのですから、使用人にイチイチ頭を下げるものではありません。こちらが居心地が悪くなりますので、お言葉だけで結構です」
「そ、そうか。分かった」
レルフィード様は頷くと、
「何かマフラーの礼がしたいのだが」
と私を見た。
「え?いや、私が勝手にプレゼントしただけですし、お気遣い不要です」
「モノを貰ってモノで返すのは何か違う気がするし…………何か見たいものや行きたい所はないだろうか?」
だから聞きなさいよ人の話を。
要らないって言ってるでしょうが。
そう茶化すのは簡単だが、本人はとても一生懸命考えている。前向きにコミュニケーションを取ろうと努力しているので、そこは伸ばさないとコミュ障脱却から遠退いてしまう。
でもなー、見たいものって、本も買っちゃったしなぁ。何かあるかなー?
……あ。
あったわ、お願いしたいこと。
「すみませんレルフィード様、お言葉に甘えて1つお願いがあるのですが」
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