第13話

 私は本日はお休みの日である。



 朝、隣国に聖女絡みの調査に行くジオンさんとシャリラさんにお弁当を作って渡したら、やたらと喜ばれた。


 単なる好意でしたことだが、喜んで貰えるとこちらも嬉しいモノである。


 手を振って見送ると、次は私のお出掛けである。といっても、こちらで外に着て出られるものはとりあえずメイド服だけである。準備と言うほどの事は何もない。



「………ま、待たせただろうか」


 ぼんやりと(いい天気で良かったなぁ………)と思いつつ食堂から外の景色を眺めていると、少し慌てた様子でレルフィード様が姿を現した。


 長めの金髪を後ろでくくり、シンプルな黒の細身のパンツに、飾り気のない普通の白いシャツ、がっしりした体に黒の薄手のコートを羽織り、黒ぶちの眼鏡をかけている。



 あれだ。イケメンは多分何を着ても補整効果が働くというのは世の中の揺るがないシステムなのだろう。


 普段着風の格好でも、私の人生で出会った男性のトップ3に入るであろう、本当にアホみたいに整ったイケメンである。


 まあ出会ったと言っても、ベスト3の残りの2人は人気の俳優さんで、たまたま職場の近くで撮影してたのを見ていた程度のモノだから、ベスト1と言ってもいいのだろう。



 大体、イケメンという存在などはレアだからこそイケメンなのである。

 職場や町中にゴロゴロと転がってはいない。ゴロゴロしてたらそれはフツメンである。


 そもそも勤めている土木建設会社の事務所なんて、とうのたった元兄さんかオッサンかジー様しかいない。平均年齢40越えで、27の私が一番若手、ぴちぴちだった位である。

 まあぴちぴちというよりはパツパツだが。



「レルフィード様おはようございます。眼鏡をしているのを見たのは初めてですが、視力がお悪いのですか?」


 レルフィード様と廊下を歩きながら、私は尋ねた。


「………本ばかり読んでいるせいか、ここ数十年でめっきりとな」


「数十年て、レルフィード様は私より年下のように見えますが」


「………キリは幾つだ」


「先日27になりましたが」


「そうか。私は174歳だ」



 衝撃の事実に思わず鼻水が出そうになった。


「おっ、おじいちゃんだったんですかっ?!あれっ、あのっ、ランチで出してる食事とか辛いモノとか大丈夫なんですかっ?健康的な問題とか塩分摂りすぎは糖尿になるとかっ!!

 童顔も大概にして戴かないと………え、待って、それじゃシャリラ様やジオン様も」


「シャリラは153で、ジオンは190歳になったと思う」


「ひぃぃぃっっ!なんて見た目詐欺!

 あんな刺激物与えて心臓発作でも起こされたら、私人殺しじゃないですか!

 ………あれ、魔族殺し?って言うか長寿ですね皆さん………いやそんなことどっちでもいいけど、そういう話は先にして下さらないと!」


 いくら別の世界とは言え、年寄りを死に誘(いざな)う手伝いなど御免被りたい。

 日本に戻っても一生罪の意識に苛(さいな)まれてまともな生活など送れるワケがない。


 あばばばば、と座り込んで震えていると、レルフィード様が呆れたように私の手を取って立ち上がらせた。


「………だからジジイと言うな。魔族は長生きなんだ。私などまだ若輩者だ」


「………え?」


「人間は、せいぜい長くても100年程度だろうが、私たちの寿命は大体300~500年位だ。個人差はあるがな」


「あ、………そうなんですか?」


「それに見た目も変化が緩やかなのは魔族の特徴だ。ヨボヨボになる事もない。人間の40代位の外見がかなり老齢と思えばいい」


 私は深く息を吐いた。


「驚かさないで下さい、一瞬血の気が引いたじゃありませんかもうっ」


「あ、す、済まない。あと、別に年寄りになっても食べるものは変わらないぞ?代謝がいいから油っこいのも塩気が強いのも普通に食べる」


「………じゃあ、お食事とかは特に気にしなくても大丈夫ですか?」


「問題ない」


 ようやく心から安心できた。

 魔族を救うどころか大量虐殺者になるかと思ったわ。


「それなら一安心です。あー良かった。じゃ、行きましょうか。………足元お気をつけて下さい。そこ段差が」


「だからジジイではないと言っただろうが」


「ああ、すみませんつい」



 いやー、綺麗で見た目も若いまま長生きとか、何ですかその天国モードは。

 羨ましいことで。


「………いや、じゃ、行くぞ」


 レルフィード様はスタスタと歩き出した。



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