ハンバーグにはギリギリなりたくない

@snacam

Ya-Ya-yah

 ソーセージの作り方映像を見た人の中には、「豚さんがかわいそう」とかいう感想以外にも、「はなりたくねぇな」と思った人もいるだろう。

 ウインナーならまだ羊の腸だけど、フランクフルトは自分の腸だ。

 自分の腸に、自分の挽き肉を詰めて、薫製にされる。嫌だよそんなの。


 そう思って真面目に考えてみれば、例えば野山で野垂れ死んだときに、生のままではらわたを食われるのは、まぁ仕方ない。

 頭から丸のみとか、腕を齧られるとかは、別にって感じ。


 「丸焼き」も構わない。

 「煮込み」もいいかな。

 「船盛」も、まぁいい。


 死後「ネギマ」にされるのは、寄りのだ。

 でも、「ハンバーグ」にされるのは、寄りのかな。

 「トンカツ」はいいけど、「メンチカツ」は嫌だ。

 そう考えると、挽き肉にされるのが嫌なのかなと思うけど、「カマボコ」なら許せる気もする。


 最悪なのは「カボチャをくり貫いた器で作ったカボチャプリン」だね。

 「グラタンコロッケバーガー」のほうがまだマシだ。



 🍖 🍖 🍖



「そういうわけで、調理法について希望を聞いて頂ければと思うのですが」

「ソウハ言ッテモナァ……」


 僕をキャトルミューティレーションした宇宙人は、メカニカルな斧を肩に担いだまま、少し困ったような顔をしていた。

 顔のパーツもバランスも全然違うのに、宇宙人でも表情って読めるもんだな。


「知的生命体ノ最後ノ願イクライ、聞イテヤリタイケドサ」


 宇宙人は数年前に地球にやってきた。

 当初はそれなりに平和的な第五種接近遭遇対話だったんだけど、貿易というか、食料提供のときに、ちょっとした文化の違いが現れた。

 宇宙人には牛や豚より、人肉のほうが好みだったらしい。アミノ酸の組成的に。


 で、先方との交流は第四種接近遭遇誘拐にランクダウンしちゃったわけだ。


「俺ハ肉ニスルダケデ、めにゅーヲ決メルノハ栄養士ダシ、作ルノハ調理師ノ仕事ダシ」


 宇宙人はサイバーな斧を両手で弄びながら、至極真っ当なことを言った。


「ああ……まぁ、それは仕方ないですね」


 仮に「オ前タチハ一度デモ豚サンノ希望ヲ聞イタコトガアルノカ?」なんて言われたら、豚さんに死後の進路希望を相談されたこともないから、モヤモヤしただろうけど。


「一応、肉ニ希望めにゅーヲ書イタらべるダケハ付ケテヤルケド……」

「あっ、ありがとうございます」

「実際めにゅーヲ決メルノハ担当ノ連中ダカラナ。期待ハスルナヨ」


 親切な宇宙人は、自分の職分で可能な限りの対応をしてくれるらしい。

 その気持ちだけでも嬉しいよね。


「デ、何ニスル?」

「そうですね……」


 理想は姿焼きだけど。

 形が残るほうがいいしな。


「姿焼き、は」

「ウーン……ソコマデ形ガ残ルノハ難シイカナ……チョットぐろイシ……」

「ですよね」


 言われてみれば、僕だって豚さんの丸焼きから直接肉を切り分けるのは、ちょっと嫌かもだ。お魚なら平気なんだけど。


「アル程度手ガ込ンデテ……野菜モ使ウホウガ、希望ハ通リヤスイカナ」

「栄養バランスも考えなきゃですか」

「理想ハネ」


 野菜を使った肉料理なぁ。


「具体的にはどんな野菜が人気です?」

「俺個人ハぴーまんガ好キ」


 うーん、ピーマンの肉詰めだけは嫌だな。

 青椒肉絲チンジャオロースは……ギリギリ、アリか。

 手が込んでないとは言わないけど、細切りなら。


「青椒肉絲でお願いします」

「アー、ウマイヨネ」


 さらさら、と宇宙人はメモ用紙に宇宙語で書き留める。

 読めないけど、たぶん青椒肉絲と書いてあるんだろう。


「ジャ、ソロソロ」

「はい、お願いします」


 そうして僕は屠殺され、解体されることになった。

 その後、無事に青椒肉絲になれたかどうかは知らない。

 そりゃだって、死んでるからね。



 おわり。

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