第41話 潜入捜査(4)疑惑

 トラックから下り、あまねは伸びをした。

「何やってんだ?」

「いえ。ちょっとストレッチを」

 だめだった。

 今日は珍しく、トラックをそのまま朝までここに止めて置き、朝、直接加工し直すための工場へ運ぶのだという。だから、今晩のうちにと思ったのだが。

 個室に戻り、窓から外を窺う。

「……サン?」

「星が、見えないかな、と」

 イチは隣に来て空を見上げ、

「これだけ曇ってたら無理だろ」

と胡散臭そうに言った。


 イチはトイレに行き、ギョッとして大声を上げかけた。

「なんだ。脅かすなよサン」

「え。いや、別に」

 サンは小さく笑い、イチは部屋の方へと足を向けて、手の中のそれをギュッと握り込んだ。

 そして寝袋に入り、隣を窺う。

 静かだが、寝息とは違うような気がするし、起きているような気がする。

 イチはサンが眠りに入るのを、今か今かと待ち続けた。


 そうして2人共、寝不足になったのだった。


 翌朝、朝食にメロンパンを食べていると、Bの悲鳴が響き渡った。

「な、何だ!?」

 全員がギョッとして声のした方を見る中、Bが食堂に走り込んで来て鬼のような形相で皆を睨みつけた。

「誰がやりやがった!?」

 それに、全員がキョトンとして互いの顔を見た。

「あの?」

 一番古参のメンバーが訊く。

「昨日の荷物が消えてやがる!どいつが隠しやがった!?」

 青天の霹靂だ。

 薬盗難の犯人にされてはたまらないと皆慌て、あまねもあれが市中に出回ったらと慌てた。

 そんな皆を見ていたBは、ここに数人がいない事に気付き、全員を集合させろと怒鳴りつけた。そして、残ったメンバーの間を、各人の顔を睨みつけながら歩いていく。

「今素直に知っている事を喋れば、助けてやる」

 嘘だ、と誰もが思った。

 そして、Bはあまねとイチのところで足を止めた。

「何か怪しいんだよな、お前ら」

「何でですか。僕はただのプータローですよ」

「そういう返しだよ、サン」

「……」

 イチはフッと微かに笑う。

「イチのそういう余裕もな」

「……」

 あまねとイチは、無言でお互いを見た。

「お前ら、まさか共謀して――」

「はあ!?こんなやつと!?冗談じゃねえ!影が薄いわ、特徴が無さすぎるわ。お前幽霊じゃねえのか?」

「うわあ、幽霊!生きてるよ!ほら!失礼だな!イチこそ殺し屋か?それとも影を引きずってますアピールの厨二か?封印された左手でもうずいちゃったりするのか?」

「誰が厨二だ!失礼はお前だろ、サン!幸せそうな顔でメロンパン食いやがって!」

「好きなんだよ、メロンパンが!悪いか!」

「パンの一番はチョココロネに決まってるだろが、お子様め!」

「メロンパンに謝れ!というかチョココロネの方がお子様だろうが!」

「あの形の美しさが子供にわかるか!」

「それより奥までぎっしりとチョコレートを詰めてくれる方がいいわ!」

 ぎゃあぎゃあとお互いを指さして言い争いを始めるあまねとイチに挟まれていたBは、堪り兼ねたように大声を上げた。

「ああ、もう、黙れ!うるさい!パンなんてどうでもいいんだよ!」

 それで我に返ったあまねとイチは、気まずく口を閉じた。

 それに、いないメンバーを連れて急いで戻って来たメンバーが、手の中のパンをしげしげと眺める皆を見て、何があったのかという顔をした。

「まあ、保留だ。

 これで全員だな。いいか!今すぐ盗んだ薬を返せ。返せば今回は助けてやる。見付けてから犯人が判明した時には、わかってるだろうな?」

 それに、ほとんどの者が顔を青くして強張らせた。

「全員2人1組で探せ。今すぐだ!見つからなかったら連帯責任だぞ!」

 それに皆は、大変な事になったと、大慌てで食堂を飛び出して行った。

 Bは頭を抱えるようにしてぼやいた。

「参ったな。幹部が取りに来るって話だったのに、キングまで来るなんてなあ――って、まだいたのか。とっとと行け!オラ!」

 メロンパンとあんパンを片手に持っていたあまねとイチも、食堂から追い出された。




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