第34話 人類の淘汰(1)魔術士狩り

 ニュースを見ていたヒロムは、

「またか」

と溜め息をついた。

 最近魔術士狩りが頻発していた。

 魔術士が許可なく魔術を使うと、場合によっては罰則がある。一般人相手に使うと、重いものにもなる。

 とは言っても、自衛のためなどになら、過剰防衛にならない範囲なら認められるのは当然だ。

 なので、魔術士狩りのターゲットは、魔術士といっても大した魔術が使えない魔術士や、魔術を使う事をためらいそうな魔術士に限られていた。

「卑怯なやり口だぜ」

 不機嫌丸出しだ。

「学校の前には抗議団体が集まって抗議演説を繰り返してるらしいよ。生徒の外出は勿論むりだけど、教師が通うのも、食材とかの納品にも困ってるらしい」

 あまねも眉を寄せて、僅かにコップ1杯分の氷を出せるだけの若い魔術士が袋叩きにされて重症を負ったというニュースを読んだ。

「SNSでも攻撃されるそうですよ。誰それは魔術士だ。何するかわからない危険因子だ、とかあおったりして」

「魔術士である事を隠している人がバラされたり、SNSで顔写真や住所を晒されたりしているらしい」

 マチとブチさんも憂鬱そうに言う。

「家族が魔術士だってだけで、今は危ないからってバイトを首になったやつもいるらしいぜ」

 それを聞いて、あまねは家族の事を思い浮かべた。

 自分の名前が晒されたら、両親も兄も有名人なので、恰好の餌食にされるだろう。そう考えると、申し訳なさに身が縮む。

「流石に警察官を闇討ちはしないと思うが、些細な揚げ足取りはあり得る。注意した方がいいな。

 ヒロム。しばらく合コンは自粛しろ」

 ブチさんに言われて、ヒロムは口を尖らせながらも了承した。


 自宅の植木鉢の花に水をやれる程度の水しか出せない魔術士の主婦を襲って、連れていた5歳児共々ケガを負わせた襲撃者達を逮捕し、聴取した。

 1人1人分けて話を聞けば、あれほど声高に正義とやらを叫んで暴力を正当化していた彼らも、大人しく俯く者がほとんどだった。

 SNSなどを通じて「魔術士はいつも武器を持ち歩いているのと一緒で危険」などという意見に感化され、ノリや流行のファッションのように集会に参加し、気付いたらデモやヤジにも参加し、襲撃にも加わっていたとしょんぼりとする大学生もいた。

 魔術士を何人狩れるかをグループで競い合うという行為もあり、これはゲームのような感覚で参加していたと、ケロリとして言う高校生もいた。

 総じて、魔術士を攻撃する意見に、いいねと同調する人は多いが、そのほとんどは、軽い気持ちのようだ。

 中には、気に入らない人の事を「魔術士だ」と書き込んで、顔も家も学校も全てを晒すという悪質なイタズラもある。

「魔術士が怖い?あいつらの方がよっぽど怖ぇよ」

 ヒロムは、待機時間もないくらいに出動と聴取を繰り返しながら、ウンザリしたように吐き出した。

「まるで、魔女狩りだな。中世の」

 あまねが言うと、ヒロムもああと言う。

「そう言やそうだな。あれも、無実の人間を魔女だって密告したりして、皆で吊るしあげたんだよな」

「結局、人間なんて、そうそう本質は変わらないって事か?どれだけ文明が発達して洗練されたような顔をしてみても」

 ヒロムとあまねは言い合いながらも書類を書く手を止めないで書き上げ、書き上げたと思ったら次の事件が飛び込んで来る。

「次はスーパーで主婦か」

「ママ友がこじれたのかも」

 言い合いながら、2人は部屋を出て行った。

 皆が疲弊していた。

 だが、これがもっと大きな事件を根にしているとは、この時にはまだ気が付かないでいたのだった。



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