第23話 ノアの代理人(4)罠

 各国の首脳や関係者が来日し始め、今日からいよいよサミットが開催される。警備陣は、今日も会場やホテル付近をパトロールである。

「せめて一般人は立ち入り禁止にしてくれよぉ」

「そんな事をしたら叩かれるよ」

「じゃあ、サミット会場を離れ小島にしてくれよ」

「いい案だと賛成したいけど、セキュリティとキャパシティに問題があったのかもな」

 ヒロムとあまねは言い合いながら歩いていた。

 不審物の通報があって行ってみれば、ゴミだったりイタズラだったり落とし物だったり。不審者の通報があって行ってみれば、雑誌記者だったりチカンだったりただの気のせいだったり。

 それでも、何らかの政治団体が来ていたり、ノアでないにしてもテロリストが見つかったりするので、律儀に応対するしかない。

 エリア内に現れた魔術士には例外なく登録証の提示を求め、照会しなければならない。

 華やかな表舞台の裏側は、大変だ。

「また通報だ。不審人物」

「こっちにも要請だぜ。別れて行動しろってさ」

「何かあったら連絡しろよ」

「おう」

 結局、数が足りなくて、警備にあたる魔術士は、分散して行動することを余儀なくされた。

 

 魔術士である事を示す登録証は、世界中のどの国でも、登録し、登録証をいつも携帯する事を求められている。魔術士は凶器を持たずに何かできる、というのが、大多数をしめる一般人の危惧するところであり、それから魔術士自身が身を守るためにもと、導入された決まり事である。

 しかし、これは差別だと抗議する団体もあり、こういう場所に登録証なしにわざわざ現れて仕事を増やす魔術士もいるのだ。

 他にも、単に忘れただけの魔術士もいる。

 マチが向かった先は単なるマジシャンだったのだが、杖を振ってトランプを燃やしたりしたので、通報があったのだ。

『マジシャンさんでした。はああ。端っこまで来たのにぃ』

 マチが泣き言を言う。

「おかしな奴じゃなくてよかったじゃないか」

 あまねが言うと、

『そりゃそうですけど、また戻るんですよぉ?』

とマチが泣きそうな声で言う。

『こっちは登録証を偽造してたぜ。遊び半分で作ってみた一般人だった。

 ったく、オレも南の端っこだっつうの。たりぃ』

『こっちで暴れたやつは、仲間内で酒を飲んで酔った勢いらしい。今も絡んで来るからまだ戻れんな』

 これも端の方へ行ったブチさんが、溜め息混じりに言う。

 あまねは、

「僕の方も、よく聞くと痴話げんかでした。今は目の前で滅茶苦茶、いちゃついてます」

と言う。

 あまねも端まで急いだのにこれで、頭に来るやら力が抜けるやらだ。

 そしてふと、気付いた。

「あれ?全員端っこ?」

 感知の網を広げる。

 4班のみならず、6係の魔術士たちは、見事に警護エリアの端に散っていた。

 嫌な予感に血の気が引く。

「もしかしたら、向こうの策略かも」

『ええ?何だって?』

「おかしいくらい、魔術士が中央から引き離されてる。今すぐ戻った方がいい!」

 言い終わった時、気配を感じて目をやると、イチャイチャしていたカップルが、鬼のような形相であまねに殴りかかって来ていた。

「うわっ!」

 あまねは、これが罠だと確信した。

 カップルは一般人で、大した攻撃では無かった。それをいなし、叩き伏せて制服警官に後を任せると、

「罠だ!ノアは中央をもう狙ってる!」

と言い、走り出した。


 サミット会場では、無線を聞いた警備部員が緊張した。

「警備を固めろ!誰も建物内に入れるな!

 あと、窓に近くに要人を近寄らせるな!何があっても、本人がどんなパフォーマンスをしたがってもだ!」

 警備責任者の命令で、全ての人間が警戒を高める。

「総理、念の為に、部屋をお移りください」

 紺野が走り込み、一旦会議は休憩になって、首脳はぞろぞろと、窓もなく壁も分厚い安全な部屋へと移動を開始しようとした。

 が、ある大統領が声を上げた。

「わたしはテロに屈しない!なぜ我々がテロリスト如きに振り回されて、スケジュールを変えなくちゃいかん?」

 面倒臭い事を言い出しやがって、という顔を一瞬警備担当者は浮かべた。




 

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