第22話 ノアの代理人(3)一日の終わり

 爆弾を仕掛けようとしていた遠藤というテロリストとその仲間は逮捕されたが、彼らは言わば雑魚だ。ノアの代理人がまだ捕まっていない。それに、ほかにもいるかも知れない。

「しかし、1つは脅威を取り除けたな」

 官房長官がややほっとした顔をする。

「は。しかし油断はできません。気を引き締めて、警備に勤めます」

 警備部長は厳めしい顔でそう言った。

 総理はうむと頷き、

「頼む」

とだけ言うと、秘書官を振り返った。

「紺野君。例の資料の件だがね」

「はい」

 誰もが忙しい。


 一日パトロールをし、部屋へ戻って報告書をまとめる。

 ノアが魔術士の可能性もあることから、6係はずっと警備に加わる事になっている。また明日も、歩き回る事になる。

「足がパンパンですぅ」

 マチがふくらはぎを叩きながら愚痴った。

「明日はウォーキングシューズかランニングシューズにした方がいいな」

 ブチさんに言われ、

「はい。そうしますぅ」

と素直に言う。

 踵の低いパンプスを履いてはいたが、それでも辛かった。

「ノアか。どこからどんな風に狙う気だろうな」

 ヒロムが腕を組んで考え込んだ。

「これまでのノアの仕事と言われているものを見ても、バラバラなんだよなあ」

 あまねは困ったように言った。

 狙撃もあれば毒殺もあるし、爆破も、火を放った事もあるし、窓辺にいる所を魔術の氷をぶつけて落下させた事もある。

「こんなに手口がバラバラって、変ですよぉ。何かのポリシー?殺人方法のコンプリートを狙っているとか?」

 マチも首を傾げた。

「次の手口の予測がつかんな」

 ブチさんは溜め息をつく。

 人もコストもかかり、大変だ。

「本当に、これ全部ノアの犯行かな。犯行声明があったにしても……」

「まあ、ノアからの署名が届いたんだからなあ。成りすましは無理だぜ、詳しい内容や紙やデザインを発表してないのに一致してるんだから」

「まあな」

「とにかく、6係は主に魔術を念頭に置いて警護だ。感知を張りっぱなしで大変だろうが、頼むぞ」

 ブチさんがあまねとマチに言い、3人は

「はい」

と返事をした。


 総理は補佐官や大臣と一緒に、サミットでの意見交換、会談についてのまとめと確認をしていた。

「こんなもんか」

「はい。ただし、温暖化とエネルギーについては、各国の国益、経済に結びつきますから、表面上でも統一見解にいたるのは難しいかと。

 魔術関連は、魔術士の多くいる国は秘匿したがり、魔術研究後進国は共同管理したがるでしょう」

「軍事利用が多いアメリカやロシア、中国は、間違いなく公表も拒否しますが、人権と言われれば、反対はしにくい」

「魔術士が渡航する時には能力を開示する、それが精一杯だろうな。人権と言われても、その国の安全と関連部署以外の閲覧禁止、許可制にするという事で、まあ、落ち着けるだろう。

 ここが落としどころだとはどこも思っているだろう。まあ、ホスト国として、ここは日本が提案させてもらおうか」

 彼らが相談するのを、紺野もメモを取りながら聞いていた。

「ところで、わが国にはどの程度の魔術士がいるんだ?」

「はい。身体強化、属性が1つから2つの者がほとんどで、戦術級未満の者がほとんどです。魔女のような予知系統の者は数名いますが、いずれも、占い師よりまし程度です。

 戦術級は数名。陸上自衛隊に3名と警察に1名。この警察官は、オールラウンダータイプです」

「情報の秘匿には気を付けろよ」

「はい」

「あと、手土産と料理は問題ないか」

 考えなければいけない事は、山のようにあった。


 休憩室で紺野が水を飲んで溜め息をついていると、笙野が来た。

「お疲れ。いる?」

 チョコレートの箱を振る。

「ちょうだい」

 それで、並んでチョコレートを口にする。

「甘い。脳に糖分が行き渡るぅ」

「はああ。心が低血糖になるぅ」

 笙野は言って、スマホに入れた写真を眺めた。あまねとヒロムだ。

 紺野もひょいと覗き込んで、

「この子達ね。ホント、仲いいのね」

とふふふと笑う。

「でしょ」

 笙野もふふふと笑う。

「まあ、現実には、片方は女の子が好きで合コンの常連なんだけど」

「写真じゃわかんないからいいじゃない。妄想させてもらいましょ」

 腐女子2人はふふふと笑った。

「この子達って、魔術士なんでしょ、6係なんだから係なんだから。どんな能力の子?」

「器用で頼りになるわよ」

「警察官にオールラウンダータイプが1人いるって聞いたわよ。凄いじゃない。まさか?」

「あら。

 まあいいか。この子よ。本人は過小評価しかしてないけどね」

「へえ。自己評価が高いのが魔術士には多いらしいのに、珍しいわね。

 さあて、目の保養もしたし、行くわ」

「ええ。お互いもうひとふんばりよ」

 2人は笑って別れた。

 が、背中を向けた紺野は、何やら考え始めた。



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