第47話 その2

「く、来るな」


エンピツモドキを差し出し、オーツチが叫ぶ。


ぐん!!


あたしは、初めて得体の知れない命令を耳にした。


いや、どちらかというと、頭に響いたというべきだった。


気持ちは進もうとするのに、身体が前傾姿勢のまま固まってしまう。

それをみてオーツチは、勝ち筋を見つけたようにニヤリとした。


「下がれ」


身体がいうことをきかない、その気が無いのに後ずさりし始める。タカコも同じ感じだが、目がうつろになっている。意識がない感じだ。


「やっと操れるようになったようだな。ようし、止まれ、そしてパンツを見せろ」


「誰が!!」


あたしの身体は制止したが、スカートはめくらなかった。


「くそ、なんでだ、なんでお前はダメなんだ」


 あたしに意識を向けているせいか、クラスメイト達はビトーちゃん達を囲んだまま動かない。

そのせいだろう、ビトーちゃん達3人も動けなかった。タカコは変わらずか。


 オーツチの操りかたは人によって差がある。

だが、その違いがあたしには分からない。これがカトーちゃんとか究なら見抜いているんだろうな。


 そのカトーちゃんは冷静に状況を読んでいる感じだ。できればアドバイスがほしいけど、何にも言ってこない。

ただ、なぜか余裕のある顔をしたまま動けずにいた。


ということは、なにか打つ手があるんだ。考えろあたし、頭が悪いという言い訳は今はするな、絞り出せ少ない知恵を。


 今は昼休み。もうすぐ5時限目の先生が来る、たしか現国で、担任の北方先生だ。

このまま持久戦でも、かまわない。担任にエンピツモドキを没収してもらえばいいのだから。


 そう思ったら余裕は出来たが、相変わらず身体は動かない。今ならオーツチがあたしのスカートをめくっても、抵抗できないだろう。しかしコイツは来ない、何故だ。


 エンピツモドキを両手で持ち、へっぴり腰でこちらに向けている。

 顔は真っ赤で、汗ばんでいる。おそらく手詰まりで、どうしていいか分からないのだろう。なら、持久戦路線でいこう。


そう決めた時だった。


エンピツモドキの赤く点滅している部分が、激しく瞬いた。そしてオーツチがニヤリと笑った。


「そういうことか」


なにが?


「紅、パンツを見せろ」


「いやよ!!」


「紅、伏せろ」


その言葉を聞いたとき、あたしは反射的に伏せてしまった。どうして?


「くくくく、そうかそうか、そういうことか」


しまった、どうやら使い方のコツみたいなものを掴んだらしい。


 あたしは伏せながら、次に何を言われるのかと、はじめて怖いという気持ちになった。

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