第一章 第十六話~強襲~

「ついてこい」


 広い……それになんて豪華なんだ。

 中の広さは王宮内で一番大きく設計されているのだろう。ざっと見て1000人は入りそうな程の面積がある。天井には豪華なシャンデリアが配置され、左右の壁には神々や天使が描かれたステンドグラスが数十枚設置されている。入り口から真王達がいる王座まで直線で50m以上はあるか。そして正面の終着点、玉座には立派な椅子が置かれており、その椅子には純白の白ローブに白い髭、白髪の長髪の老人が座っていた。間違いない。あの人が真王だ。


「ご苦労であったな社尽王。こちらに来い」

「はっ!」


 真王は右手を上げて社尽王に指示。その命令を受けた社尽王はゆっくりと真王の元へと歩き始めた。


「御足労をおかけした社尽王」

「お疲れさん」


 真王の左右には二人の男性が立っており、その二人は歩み寄る社尽王に労いの言葉を投げかける。

 右側にいるのは鎧を着た体格のいい人で、口元には立派な髭、右目には何者かから受けた切り傷が一本入っている。凄い目力だ……この距離でも圧倒される覇気のようなものを感じる。

 左側には僕と同い年に見える青年が立っていた。アイドルのような整った顔立ちに切れ長の目。髪の毛は白銀で少し長め。こちらを見て少し笑っている? 左手には杖のような棒を持っているけど、足が悪いのだろうか?


「さてと……初めましてと言おうか? 私は真王だ」

「へっ! てめぇには前に会ってるだろうが!」

「そうだ!」

「おい!」

「構わん社尽よ」

「はっ!」


 真王は黙らせようとした社尽王を止め、ラージオさんとオンダソノラさんに話を続けさせる。


「さてと……君とはどこで会っていたかな?」

「忘れたとは言わせねぇぞ! 音楽の国でお前と対面しているぞ!」

「ああ! あの時、確かにお前と会っているぞ!」

「音楽の国……」


 真王はそう呟くと無言になって口元に手を当て始めた。その状態で数十秒程時間が経過し、真王はゆっくりと元の体勢になって口を開いた。


「すまんな。何も記憶に無い」

「なに!?」

「記憶に無いだと!?」

「ああ」

「ああって! あれだけの人数の音楽家達の、いや! 世界中の人々の宝物を奪っておきながら……!」

「今答えを言っているではないか。音楽の国だけではない。笑いの国や遊びの国。科学の国に、武術の国……それにこの街のように大した取り柄もない街も入れたら一体何億人になると思っている。その辺の一般人など覚えちゃいない」


 こ、こいつ……!


「お前達は十年前に道端に落ちていた石の形を覚えているのか? 私にとってはそれと同義――」


 真王が言い終わる前にそれは起きた。

離陸時のジェット機のエンジン音が可愛く感じる程の爆音と共に左右に設置されているステンドグラスがひび割れ見るも無残な姿に変わり、天井に吊り下げられていたシャンデリアは前方に吹き飛んで行った。

それと共に僕らの前方の視界が割れたガラスみたいに割け、その奥では地面をえぐりながら衝撃波が突き抜け、真王達に襲いかかっていた。


「音破!?」

「お、おい! いきなりかよ!」

「奇襲作戦が!」


 攻撃の正体は音破だった。真っ赤な光を体全体から放ちながら右拳を突き出している。あれだけの演技力を持ちながらここで奇襲作戦を放棄してまで攻撃した理由とは一体なんだ?


「すまねぇ皆さん」

「一体どうしたの!? 理由を聞かせてよ!」

「理由か……理由は――」


 音破は付けているの仮面を位置を直しながら言葉を続けた。


「あのクソ野郎をぶっ飛ばしたくなったってことですかね」

「……ぷっ! がっはっはっは! 音破君! 全くお前ってやつはよぉ!」

「う……」

「……はぁ。そう言うのは……俺にもやらせろよなぁああああああ!」

「「「わぁ!?」」」


 まだ煙が立ち込めている玉座めがけて今度はラージオさんが光線を放った。何万人もの観衆に届かせる大咆哮がたった一人に向かって投げかけられ、青白い光線が真王に襲いかかった。


「はっはぁ! どうだ真王!」


 口元から煙を立ち込めさせながら中指を立てるラージオさん。その行動にあっけを取られて茫然と立ち尽くす僕らに向かって、ラージオさんは言葉を続けた。


「やれやれ。音破君よ。君の気持ちはわかるが、こういう気持ちよさそうな事は俺にもやらせてくれよな」

「へへへ! すみませんねラージオさん!」


 そう拳をぶつけ合う二人を見て、僕らもつられて笑ってしまった。全く……この人達は……


「作戦もクソも無いじゃないですか」

「ぐぬぬ……すまん」

「別に謝ることはないさ。けど。僕にもやらせて欲しかったな」

「旋笑ちゃんも『そうだそうだ』って顔してますね」


 暗殺から奇襲へ。奇襲から強襲へと作戦は路線変更したが、なんの被害も無く、誰一人欠けることなく無事に終了した。あまりにも呆気なかったが全員無傷ならなんの問題もない。


「さてと。次の作戦だな」

「ああ。ここの騒ぎはもうとっくに王宮中に響き渡ってるだろうよ」

「確かに。二人の能力はとにかく目につきますからね」


 大咆哮に大轟音。光線に衝撃波。どちらも暗殺や隠密とは真逆の能力だ。攻撃力は申し分ないのだけど、こういう場面では少し不利か。二人が言った通り、憲兵が押し寄せてくるぞ……


「まぁこっから先は敵を薙ぎ払いながら逃げるだけだ。楽勝だろ」

「だな。長居は無用だ。さっさと――」

「どこへ行こうというのかね?」

「「「!?」」」


 回れ右をして扉から出ようとした僕らの背後。つまりは衝撃波と光線により完全に破壊されたはずの玉座から真王の乾いた声が聞こえ、驚きと戸惑いと共に振り返り、その場所を確認した。

 次第に煙が晴れていく玉座には……無傷の、それも一歩も動いた気配の無い真王に社尽王。それに両脇の二人が立っていた。


「ば、バカな……! ありえない……!」

「俺の渾身の攻撃を……いなした?」

「一歩も動かずに? 音破達の攻撃を??」


 光線も衝撃波も生身でいなすなんて考えられない。となると考えられるのは……


「TREの能力か」

「どうだろうな。それは……確かめればいい事だ!」


 赤い光が体から出始め、音破は真意を確かめるべく二発目の衝撃波を叩きこんだ。突き出された腕が伸び切ったところで大気にヒビが入る。大気を殴ることによって発動し、生み出された衝撃波は雷鳴のような音と共に真王に襲いかかった。

 他のTREの攻撃を見たことが無いけど、音破の衝撃波の威力は並じゃない。僕らの世界で言う自動車なら余裕で、下手したら戦車だって吹っ飛ばせるくらいの威力はある。それを真王達はどういなす……?


「またか……」

「父上ここは私が」

「いえ。私にお任せください」


 社尽王が一歩前に出た? 真王達の前に壁になるように立ち、僕らの方に手を伸ばす。すると、社尽王の体から黒い光が立ち込め始めた。やはりTREだったのか。それにあの色はラージオさんと同じ黒色……という事はかなり攻撃的な能力と推測できる。音破の衝撃波を力で打ち消すつもりか? だとしたらかなりのパワーを有した能力か。堂々と打ち消す自信があるというのなら、社尽王の射線上に位置するここは危険か? 

 僕達はすぐに回避できるように身構えて社尽王の行動を観察した。


「な、なんだ!?」


 ソレは僕らの想像を超えたものだった。

 社尽王の目の前に現れたもの。ソレはどす黒い渦を巻きながら広がり始めていた。小さなブラックホールと言った方がしっくりくるか。とにかく見るからにまずいものだ。そして衝撃波と小型ブラックホールはぶつかり合い、衝撃波は音も無く吸い込まれていった。


「ブラックホール……なのか……?」

「そんな名前のモノは聞いたことが無いぜ。そりゃなんだい?」

「宇宙に存在するもの凄い密度ともの凄い重力を有している天体です。その重力は光すら脱出できないものでして……要するになんでも飲み込んでしまう星ってことです」

「社尽王はそれを?」

「わかりませんが……衝撃波を飲み込んだのは確かです」


 ブラックホールを生み出すTRE? だとしたら何を奪われた?


「ぶらっくほーる? よくわからんが私の能力はそのようなものではない。まぁあらゆるものを飲み込む、という点では同じだが。……そうだな。冥土の土産に教えてやろう。私は『異次元の穴を開く』TREだ」

「い、異次元の穴!?」


 異次元の穴って! そんな非科学的な……と思ったところでここは僕のいる世界ではない。ここは異世界だ。常識を凌駕するのは当たり前だ。


「この能力は非常に使い勝手がいい。今のように真王様を守る為、私をコケにした無能な上官を消す為。ああ。そう言えばこの能力を授かった時には面白いものが出てきたな。異世界からの巨大な乗り物。それに乗っていた乗客は飛行機と言っていたか」

「え? 飛行機?」


 聞き覚えのある単語を久々に聴いた。飛行機? この世界には飛行機というものはなかったはず。もしかして……僕の世界から来た?


「あれは驚いたな」

「ええ。もう十年も前の事ですがね」


 十年前? 父さんと母さんが行方不明になった年と重なる? その事が妙に引っ掛かった僕は、戦闘中でありながらも、敵ながらも情報を求めようと――


「ゴチャゴチャとうるせぇぜ! ダァアアアアアア!!」

「ああ!」


 だがそれよりも先にラージオさんが光線で攻撃を仕掛けていた。

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