第33話 ボッチの思いやりは大抵裏目に出る

 ありえない、ありえない。


 なんで私が怒っているっていうのに、千鶴さんと仲良くなっているの?私の機嫌を取るために色々なことをしてくれるんじゃないの?


 私にとって、川での出来事が、どんな思い出だったかなんて、けんたろーがわかるはずがない。今まで、分からなかったのに、今更わかるだなんて思っていないし、そこまでは期待していない。


 ただ、私だけを見てくれればそれでいいのだ。そのために心苦しくても健太郎に反応しなかった。

 なのに、突然現れた銀髪のえっちぃお姉さんと仲良くなって、私のことは言葉を少し重ねるだけ。

 いや!いや!絶対、いや!なんでこっちに来てくれないの?


 小学生の時にはいつも一緒に居てくれたじゃん。

 なんで、小学生の時にできていたことができないの?


 質問ばっかりしてくるのも嫌だし、わかったふりだけするのはもっとやめて欲しい。


 今更、質問してくるってことは、今まで私に関心がなかったのではないかと不安になる。

 言葉を重ねて誤魔化そうとしているんじゃないかってけんたろーを疑いたくなる。


 わかったふりをするのだって、浮気男が都合のいい女に対して、表面的に共感して信頼を得ようとするのと同じものだ。

 もっと、ちゃんと私の深いところを知ってほしい。


 でも、嫉妬深い私のことは知らないで欲しい。


 色々な感情がせめぎ合う。どの気持ちが強いかはわからない。


 私は、早く、けんたろーからの愛の告白を聞いて安心したい。それだけが、私が自分で分かっている唯一絶対の気持ちだ。


 朝、けんたろーがダイニングに来るまでの間、私は自分のこんがらがった感情を改めて自覚する。


 早く、来ないかなぁ、けんたろー。


 美女と二人きりなんて絶対に許さないから、健太郎。


 *


 川での出来事の何がそこまで大切なことだったのだろうか?

 幼馴染なのに、俺には、未だにわからない。


 ただ、一つだけ思い出したことがある。期末テストの後で、俺がキザなことを言った後に、赤くなった凛のことだ。


 もしかして、凛はあの川の出来事で俺のことを好きになったんじゃないだろうか?

 自惚れだろうか?


 ・・・


 そうだよな、自惚れだよな。


 千鶴さんにも『よっ。プレイボーイ』ってからかわれちゃったもんな。


「もしかして、自分のこと好きっスか?」って言って、「いや、何言ってんの?私、怒ってんのによくそんなこと言えたね。」とか言われたら地獄だよね。


 八方塞がりだった。それでも、鈍足でもいいから、しっかりと考えて、正解に近づけるようにしたい。

 今日も考えるのだけは止めない。



 33.5 『千鶴の思惑』


 実のところ、私はわざと、健太郎君をからかった節がある。「よっ。プレイボーイ」って言ったのもその一環だ。


 健太郎君に、凛ちゃんが好きだと気付かせないために、言ったのだ。


 思わぬところで察しのいい部分もある健太郎君のことだから、もしかしたら、凛ちゃんが自分のことを好きだと気付いてしまうかもしれない。

 けれど、仮に気付いても、凛ちゃんには聞けないようにするために、”凛ちゃんが健太郎君を好きな訳ない”と意識させる、強めの言葉を言ったのだ。


 健太郎君は恋愛感情・人付き合いに関しての自己肯定力はそこまで高くない。だから、こう言っておけば、凛ちゃんが自分のことを好きだと疑ったとしても勘違いですますようになると思う。


 健太郎君のことだから、「いかん、いかん。こんなんじゃあ、また千鶴さんにからかわれる」とか思ってくれると思う。


 私のことも口では悪く言っているけれど、本音では信頼してくれているみたいだから、まず間違いないだろう。


 健太郎君と凛ちゃんには悪いけど、私にだって思惑がある。


 私は千里が健太郎君のことを好きになりかけているのではないかと思っている。その場合、千里は優しいから遠慮して凛ちゃんに健太郎君のことを譲ってしまう気がする。もしかしたら、健太郎君への恋心の芽生えすら気のせいだと自分を納得させて、気付かないように蓋をしてしまうかもしれない。


 それは、親友として嫌だった。

 千里には幸せになってほしい。恋を終わらせるにしろ、譲るにしろ、しっかりと自分の気持ちと向き合って終わらせてほしい。健太郎君みたいな子に言わせれば、私のこの行動は、エゴなのだろうけど、親友の幸せを思ってするエゴの中には素敵なものだってあると私は思っている。

 だって、エゴがなければ人付き合いは深くならない。エゴという自分の心のうちをみせて、打ち解けあうのが親友だと思っている。


 私はそれを千里から学んだ。表面上の付き合いだけをしていた私を千里が奥にまで入り込んでくれた。

 彼女と親友になれて良かったと思う。だから、千里にも、私と親友になれて良かったって思ってもらいたい。だから、私は、私のエゴを貫く。


 …それはともかくとして、そういう信念とは別に、健太郎君はいい子だからいじめたくなるよね。

 正直、言わなくてもいいことも言ったよね、私。笑っちゃったのとか、頭撫でてから、からかったりしたのとかはぶっちゃけ趣味だよね。


 このせいで、凛ちゃんと千里とかが色々と修羅場になりそうな気もするけど、修羅場は楽しそうだからいいよね?二人とも性格よさげだし、楽しくできるでしょう。私も頑張って楽しい修羅場にしよ!


 健太郎君も、まさか色恋沙汰で刺さたりすることはないだろうし、美女二人に愛される以上は、多少は苦しんでもらわないとね。


 私は修羅場について考える。

 怒った凛ちゃんとかどうするんだろう?

 案外、暴力に訴えたりするのかな?

 千里は、怒っても可愛いかもしれないなぁ。とにかく、楽しみだね、修羅場。


 健太郎君、ファイト!


 私は、汚いエゴにも思いを馳せる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る