第32話 女の勘はヤバいほど当たる
朝七時、五分前、いつものようにリビングに行く。
「おはよう、凛」
「おはよう、けんたろう。」
先に来ていた凛に挨拶をするが、凛は目も合わせずにむっすりとした顔で言う。これが、ここニ、三日の定型となってしまった行動だ。
いつもなら、ここで俺が、昨日の勉強はどうだったとか、今日の朝食のエッグベネディクトって凛が好きだったやつだったよなぁとか、話を無理やり振っていた。(ちなみに。エッグベネディクトは、別に好きではないらしい…)
しかし、今日はそれはしない。昨日、千鶴さんに言われたことを思い出す。
*****************************
「童貞くん、まずは凛ちゃんと話すのはやめなさい!」
「えっと、それじゃあ、ますます嫌われるんじゃ…」
意味がわからん。何もしなかったら嫌われたままじゃないか?
「いや、今の童貞君、合コンで無理矢理、話を繋げようとして質問攻めをしてくる奴らなみにウザいから。質問しすぎだから。」
うっ。例えはともかく、ちょっと自覚あるかも。
「で、でも、質問すること自体は相手に関心があるってことだからいいことですよね。」
「いや、怒っている相手が、そのことも忘れたように、質問ばかりしてくるのって普通にウザいだけだから。」
た、確かに!テンパりすぎてて、また自己中になっていたかも!
「で、でもそれじゃあ何もできなくないですか?」
考えるべきことはわかっているけれど、正解の糸口すら見つからない。このまま、嫌われていろ、ということだろうか?
「いや、何もしないんじゃなくて健太郎君からは話さないのが正解なの。」
「それって焦らしプレーって奴ですか?」
押してダメなら引いてみろみたいなこと?
「焦らしプレーって!キャハハハ!健太郎君なんかが焦らしプレーなんてできるわけないじゃん。焦らしプレーってのは、ある程度、向こうに好意がないと成立しないんだよね。よっプレイボーイ!」
「うるさいですねぇ。分かっているけど言ってみただけです。」
自分がモテないことくらい知ってるわい。
「別に向こうから、話しかけてきたら、応えてもいいんだよ。単にこちらから、話しかけないだけ。」
「でも、凛には誠実でいたいっていうか、そんなふうな駆け引きじみたことはしたくないっていうか。」
「はい、童貞決定!」
「今更だな!」
いや、このツッコミも色々間違っている気がするけど。
「今のその考えって。童貞君のわがままであって、凛ちゃんがどう思っているかはカンケーないよね?」
「それは。そうですけど…。でも、やっぱり駆け引きなんてよくないと思います。」
だって、前に千里さんを狙ったちゃらい人たちと同じになっちゃうのは嫌だし…。
それを伝えると、
「童貞君は、人付き合いのテクニックを勘違いしている!プププっ。」
一々笑いが多い、銀髪煌めく勘違い美人T。
「何が勘違いなんですか?テクニックばかりじゃ、チャラい人と同じじゃないですか!」
「なんだ、童貞君!やっぱり、分かっているじゃない!流石は、コミュ障詐欺。」
「意味がわからないですよ。コミュ障の俺にも分かるように説明してください。」
「だから、もう君は答えを見つけているんだよ。要はテクニックだけだとクズになるし、気持ちだけだと相手を怒らせちゃったり、勘違いが起こっちゃうの。だから、どちらも大切なんだよ。今までにも、怒らせちゃったり、勘違いがあったりとかなかった?」
そう言えば、今回は、自分からは拒絶しない、ってことだけにこだわってしまって、いつも以上に自分の気持ちに正直になってしまっていたかもしれない。そのせいで、怒りが大きくなっていったような気がする。
それだけでなく、今までの人生においても、正直に言い過ぎてしまった、苦い経験はある。
「安倍君って野田君のこと嫌いなんだよね」とか言っちゃって、翌日からどちらからも、ハブられたりした思い出もある。まぁ、それをきっかけに安倍君と野田君が仲直りして、より一層仲良くなったからいいんだけどね。友情のキューピッドってやつだね、ワーイ(棒)
「納得したみたいだね。じゃあ、まずは、凛ちゃんにとって、何をするのがいいと思うの?」
「えっと。…言いたくないですけど、俺と離れるのがいいと思います。」
俺は言葉をなんとか、絞り出しながら言葉を吐き出した。
普通に考えて俺といるメリットはない。
俺は一緒にいたいが向こうはどうだろうか?以前は一緒にいたいと言ってくれたけど、今はもう違うかもしれない。そのくらい、今の凛は怒ってしまっている。そう思うと辛くなる。
それを、みて、千鶴さんは微笑みながら、俺の頭をからかい半分で撫でる。
「よく言えたね。相手のことを思ったんだね、偉い、偉い。」
「う、うるさいですねぇ。俺だって凛の気持ちくらい、多少はわかりますよ!」
優しさが手の温もりから 伝わってくるので言葉に力は込められなかった。
俺は、透き通る氷のような瞳をみながら優しい言葉がかけられるのを待った。
「うん、でも却下。あんた、重症すぎ。童貞どころか、そんなんじゃあ友だちすらできないんじゃない?」
ええ、分かっていますよ。このビッチが俺の期待を裏切ることくらい。
「どういう意味で?」
「まず、第一に、女の子が怒っているアピールしているときは、周りにそいつがクズだって知らせたいか、本人になおして欲しいかの二択。」
「いや、それ以外にも、生理とかあるんじゃ…」
「黙らっしゃい、デリカシーなしお君。」
あ、そういえば、凛にもデリカシー皆無って言われたなぁ。(他人事)
「はい、傷付いたからって思考停止しない!自分の行動をしっかり省なさい!」
「はい!」
そうだよな、俺は凛が怒った理由を、ない頭振り絞って探すって、他でもない凛に言ったんだもんな。
「それで、今回だけど、二択のうちのどちらかわかる?」
「えっと、後者?」
前、一緒にいたいって言われたしね。
自信がわいてきた。ありがとう、千鶴さん。
「ブッブー。」
って思ったらやっぱり期待を裏切る千鶴さん。
「前者なんですか?」
「違うよ、どっちもだよ。」
二択じゃなかったのかよ!騙しやがったのか。
「純情すぎでしょ、君。さては、半チャーハンを認めないタイプだな。」
確かに、半チャーは、中途半端なので嫌いだ。でも、それは、関係ないでしょ。ビッチの言葉は意味不明だな。
「根拠は?」
「皆がいるとこで怒ったから、前者はあるって思っていいよね。で、後者は…」
ゴクリ
「後者は?」
「女の勘かな?」
とっても、頼りないものが根拠だった。ホントに嫌われていないのかな?
「大丈夫ですかね?」
「大丈夫、大丈夫。恋愛マスター千鶴を信じなさい!信じる者は救われる!
(正直、お風呂でのこのことを考えると、十中八九凛ちゃんは、健太郎君のこと好きだしね。)」
「はあ。」
ため息をつきながらも、色々俺のために考えてくれた千鶴さんを信じて、やってみることにした。
*****************************
ということがあったのだ。だから、凛に話しかけるのは我慢している。話しかけなければ、話しかけないほど不安でたまらなくなる。
逆に言えば、今まではこの不安から逃れるために、凛に話しかけてしまっていたこともあったってことだ。そう思うと、千鶴さんの言ったことも案外正しいのかもしれない。
あとは、あのときの思い出が、凛にとってどういうものだったのかを考えるだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます