第24話 大体の女の子は可愛いとこと、怖いとこがある

 クッキー事件のあと、しばらくして、パーキングエリアで休憩をいれることになった。


「運転お疲れ様でした。」


 パーキングエリアにつくと、俺は千鶴さんにお礼を言った。色々、文句は言ったけれどここまで一時間半という長期間にわたって文句も言わずに運転してくれているのだ。お礼くらいは言うべきだろうと思って言っただけだった。


「おっ。遂に私に惚れたことを認めるか?少年。」


 だが、千鶴さんは、またもや、からかってくる。

 千鶴さんと喋ると話が進まなくてイライラする。からかいにも愛情がない。


「いや、普通にただのお礼ですから。ブスに用はないです。」


 辛辣に返してしまう。


「ほ~。さっきから黙っていればそう言うことを言うんだ。」


 そう言って、銀髪を揺らめかせながら俺に近づいてくる。

 そのまま、俺の顔に胸がわざとあたるようにして抱きしめてくる。


「や、やめてください。」

「でも、私なんてブサイクで興味ないんでしょ。だったら、胸が当たろうが別にいいっしょ?」


 やっぱり、胸を当てているのはわざとか!それに胸だけでなく、モデル体型のほっそりしたお腹まで、俺の胸のあたりにあたる。甘いラベンダーの香りもする。…千鶴さんは胸も意外とあってブラ越しでも柔らかいのがわかるし結構、やばい。男性的な反応をしないのは至難の業だった。


「いや、ブサイクだからこそ近づきたくないんですよ。」


 それでも何とか強がってみる。


「ふむ、強情な子だね。って痛った。千里何するの。」


 千里さんが“バシン”という割といい音をたてて千鶴さんを叩いていた。


「千鶴もやめなさい!ってか、学校ではこんなことしないのに何でこんなことするの?むしろいつもは、男子との距離だって、遠いじゃない。」

「だって、反応が新鮮でつい。」

「ついじゃないの。全く。」


 いつもはほんわかしていて怒る時も軽く怒るって感じなのに同級生にはこんな風にも怒るのか千里さん。

 千里さんの新たな面を見ている気がする。

 そこで、凛が俺たちのことを睨んでいるのに気づく。凛はエロい話が嫌いなので多分、千鶴さんと俺との会話に不満があるのだろう。


「いや、凛これはだな。むしろ俺はセクハラの被害者というか。」

 先回りして言い訳をする。

「けんたろー千鶴さんに近づくのも喋るのも禁止。」


 いや、さっき、お前だって身体だけの関係がどうって言っていただろ?って言おうと思っていたがやめた。

 缶コーヒーを握りながら底冷えするような声で凛が笑っているのを見ちゃったからね。女性の笑顔って怖いんだよね。


 俺は震えながらコクコクと、何度も首を縦にふる。イノチ、ダイジ。


 それをみて満足すると思ったらそうでもない。


「ち~づ~るさ~ん。千鶴さんもあんまりHなことを言っていると本気で怒りますからね。」


 今度は千鶴さんに対して怒りにいく。凛は確かに優しいけれど怒ると怖い。

 中学の時はとある女の子をからかっていた男子一〇人ほどを泣かせた女帝事件というものが存在するのを薄っすら思い出す。(怖すぎて記憶に封印していた。…確か、笑顔とハサミだけで男子が阿鼻叫喚に、うっ。頭が…。これは思い出してはいけない記憶な気がする。)


「でもさ、凛ちゃ、」


 俺が封印されし記憶と戦っていると、千鶴さんは反論しようとした。


「で・も、なんですか?これだけ下ネタを言う正当な理由がおありなんですか?でしたら、私のような出来の悪い人にも分かるように簡潔に明瞭に迅速におっしゃってください。全力で拝聴させていただく所存ですので。」

 そこで一旦言葉を切る。


 ガコン


 持っていた缶コーヒーを握りつぶす。そのせいで黒々とした液体が缶からあふれ出てくる。未開封の空き缶を握りつぶすってうそだよね?

 凛はそのまま言葉を続ける。


「そうでないと、私怒ってしまいますので。」


 その言葉には流石の千鶴さんもコクコクと俺と同じように頷くしかない。

 凛は、わざと不快な気分にさせる人には容赦がない。丁寧語の時の凛は何故か語彙力が高くなり敬語を使うようになる。


 そんな凛を中学時代の同級生は畏怖と尊敬をもって女帝モードと呼んでいた。

 進学校で、ある程度は常識がある人が高校に入ってからは多かったので凛がこの女帝モードで怒るのは久しぶりにみた気がする。


「凛ちゃんってあんなに怖いの?」

 よせばいいのに千里さんが声をかけてくる。

「ちーさとさん。何か言いましたか?」

 凛が千里さんにも圧力をもって微笑みかける。


「…う、ううん。何でもないよ。休憩もおわりにして早く行こうって言っただけ。」

「はい。そうですね。そうしましょう。(ニコッ)」


 そして、今度は千鶴さんから千里さんに運転が交代する。

 助手席に千鶴さん。後ろに凛と俺という風に座る。


「よし、ロックバンドをかけるよ。」

 千里さんは顔に似合わず少し古い洋楽のロックをかけ始める。

「千里、あんたロックはだめだよ。」

 千鶴さんが凛に怒られた時と同等の震えをもっていう。

 

 ああ、嫌な予感がする。


「Here we go!!」


 千里さんから不穏な言葉が出てきてアクセルを限界に踏む音がする。

 静かさが売りのハイブリッド車からブルルンというエンジン音がけたたましくなる。


 *


 気付くと別荘についていた。


 何があったかはわからねー。幻術なんて言うちゃちなもんじゃねー。気付いたら別荘の前で車が止まってやがったんだ。


 車から出ると、俺と千鶴さんと凛は色々あったことも忘れて涙を流して抱き合っていた。


 互いの健闘を称えあっていた。絶対、二度と千里さんの車には乗らない。

「何をやっているの?早く荷物を持って準備するよー。」

 千里さんがいつものほんわかした笑顔で三人を不思議そうに見守っている。

 ・・・

 女の子って怖い。

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