第13話 コミュ障のおこす、すれ違いは大きくなりがち

「ごめん、聞こえなかった。」


 正確には何の話か分からなかった。いつ言ったって何のことだ?


「だから、私がけんたろーのことが嫌いになったなんていつ言ったのって聞いているの。」


 涙目で凛は俺のことを睨んでくる。


「だって、ラインだって返してくれなかったし教室でも話してくれなかったし。何より最後に喋った時には直接嫌いって言われた。」

 凛に対して不満そうに言い返してしまう。


「それは、だって、だって。分かればか!大体、昔から私の気持ちを決めつけてそう言うことを言ってくるとこはホントキライ。少しくらい察してよ。」


 ドンッ


 そう言って凛は、俺の胸を思いっ切り叩いてきた。結構、痛い。その痛みに対する怒りもあって、言いたいことを怒鳴って言ってしまう。


「言ってくれなきゃわからないんだよ。こちとらコミュ障だぞ。」


 我ながら謝らなければと思った矢先にこんな言葉を発するなんて最低だとおもった。


「っ。でも、けんたろーだって私に察しろって態度を取るじゃん。登校一緒に行こうって言った時に理由もなしに断られたことがどれ程悲しかったか。頑張って理由も考えたけど分からなくてどれだけ泣いたかあんたには分からないでしょ!」


 そう言う凛は涙目を通り越して既に泣いていた。

 感情の発露を表すように泣いていた。


「しょーがねーだろ。中学の時にそのせいでからかわれて、女子が陰キャの俺と仲がいいお前の悪口言ってて。それなのにまた同じようなことになる可能性があるのに一緒になんて通えるかよ。」


 自分の心さえも騙していた本音に近いものを言ってしまう。あの日凛に迷惑を掛けたくないって思った。だから、迷惑がかかる元凶を取り除きたかった。


 結局、中学生のガキの決意なんて緩くて凛に話しかけられたら応えてしまうし、一緒の登校を断ったことを後悔もした。

 それでも俺は凛の悪口を言われるのが何よりも耐えきれなかった。凄く悲しくなったのもちゃんと覚えている。

 だから、凛の誘いを断ったことを後悔していたのに、自分から一緒に登校しようとは言わなかった。せめてもの意地だった。


「そんなことで悪口いう奴なんて友達じゃないもん。大好きなけんたろーに拒絶される方が遥かに悲しいもん。」


「俺だってお前と一緒にいたかった。だから、勉強は最低でもお前よりもできるようにした。お前に教えるって言う体があれば多少は一緒にいても白い眼で見られないかもと思って高校入学したときは頑張ったんだぞ。」


 俺の頬にも水滴がこぼれ落ちていく。


 これは恋愛感情なんかじゃない。


 凛と怒鳴りあってはっきり分かった。


 凛は可愛いと思うけれど、異性というより可愛い妹って言った方がしっくりくる。もしくは、アニメのキャラクターとかペットに近いかもしれない。大好きなアニメキャラやペットのことは、世界一可愛いと思っても、世界一好きだったとしても、恋愛対象ではないだろ?


“○○ちゃん(キャラクター)と付き合いたい”とか口で言うことはあるかもしれないし、本音かもしれない。だけど本音であっても本気ではないだろ?そんな感じが俺にとっての凛だ。


 でも、凛が大切な人であることに変わりはない。


 エロガキの俺がエロを捨ててでも一緒にいたい女の子なんだ。俺は家族のように幼い頃から仲が良かった、尊敬できる凛と、一緒にいたかった。ただ、それだけだったんだ。だけど、それは紛れもない事実だ。


「そんなの聞いていないもん。けんたろーこそ言ってくれなきゃわからないよ。それに大体私のことを美化しすぎだよ。けんたろーよりコミュ力高くたって分からないものは分からないよ。」


 そう言って、もう大学生も近づいてきた高校生二人がオロオロと大号泣していた。


 凛の大切な何かになれているのは嬉しかったし、自分の心のうちを言ってくれなかったことに理不尽な憤りも感じた。もっと仲良くなれたはずなのに

 それに何よりそんな凛の葛藤に気付けなかった自分に怒りが湧いてきた。


 パーン。


 その時、紗栄子さんが手をたたいた。

「はい、この話終わり。仲直りの握手ね。」

 可愛らしく紗栄子さんは微笑んでいる。

「あの、俺たちもう高三なんですけど。」

 握手は子どもの頃の俺たちの間にあったルールの一つだ。

 喧嘩しても握手で仲直り。

 でも、高校三年生にもなって泣き叫んだ挙句に仲直りの握手とか黒歴史認定すぎる。


「え~。じゃあ、健太郎君は凛と仲直りしたくないの?」


 そう思っていると、俺の表情に渋面したものが出ていたのか紗栄子さんは優しそうなたれ目を意地悪そうに歪めて言ってくる。


「ん。」

 そう言われては仕方ない。眼も向けずに俺は手を差し出す。ごめんの言葉は出てこなかった。


「仕方ない。けんたろーが恥ずかしがり屋だからこれで私は許してあげよう。」


 目をはらしながら凛がそんなことを言ってくれた。

「はー。許すのはこっちだし。」

 思わずひねくれたことを言ってしまう。

「はいはい。でも、ケンタローは私のことが好きすぎて私が悪口言われているのに耐えられなかったんだもんね。ツンデレってやつだね。」

 ひねくれた俺の態度にも凛は赤く眼を充血させながら得意げな顔で言ってくる。

 きっと凛のことは恋愛対象じゃない。それは分かった。

 それでも、凛はやっぱり世界一可愛いくて世界一大好きなただ一人の幼馴染だ。俺は自信をもっていえる。

 ふと真っ赤に充血させた瞳を見て思った。

「ふん。お前に言われたくねーよ。」

 

「あらあらよかったわね。仲直りできて。」

 全て分かっていたと言わんばかりに紗栄子さんは優しく楽しそうに微笑んでいる。


 13.5 『勘違い=加速 あるいは、ツッコミのない世界=狂気』


 やったー!けんたろーが私のこと「大好きだから一緒にいたい」


 って言ってくれたよ。私も大好きだって伝えたし、これはもう付き合っているってことでいいんじゃないかな?


 しかも、高校の入学に登校を断ったのも実は私のためだったなんてめっっちゃうれしい!

 いぢ張って怒っちゃったけど、嬉しいなぁ。


 今回のけんかだって、雨降って、痔固まるってやつだね。痔の面倒を将来見るくらいにけんかした後は仲が良くなるよって意味だったよね?


 ってことはもはや結婚じゃん。結婚しなきゃ痔の面倒なんてみないもんね。いつの間にか、婚約しちゃったってこと?私たち。


 けんたろーってば大胆だなぁ。まったく。仕方ない婚約してあげよう。

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