第11話 模試の判定の意味ってこんな感じだぜ!by禿の担任

千里さんに教えてもらった翌日は水曜日で学校だった。


「ふわぁぁ。」


 俺は大きくあくびをする。

 千里さんが夏の模試の目標に設定したC判定を目指すことは意外と難しい。かなり睡眠削って頑張らなければならない。

 俺の成績だと偏差値一〇以上、上げなければならないのだから当然だ。


 判定についての目安は、我が愛する禿げの担任曰く、

「合格するだろう」ってのがA。「まあ、大体合格するかな」って感じがB。「ワンチャン合格するよ」がC。


「入試当日に奇跡が起きて、前日にやった問題がたまたまでたら、合格できるかもね、可能性は少ねーけどな」っていうのがD。


「ふん。奇跡が起きようが槍がふろうが受かるわけねーだろ?お前が受かるなら空から美少女がふってくるわ!そんでもって俺が不倫しているわ!そんなところ受けようとすんの?バカなの?」ってのがE。


 うん。俺はもちろんEだよ。

 あの禿げの担任に面談で「バカなの?」って言われたら「うっせー!ばーか」って言ってやる。(今の成績だとたぶん言い返せないけど。)


 まあ、とはいえ、俺の志望する大学の医学科を第一志望にしていて、A判定を出せる現役生はK塾の模試でもS塾の模試でも全国に五人もいない。C判定を取るだけでも大変なのは間違いない。C判定取ることができれば志望校にワンチャン受かるかもしれないってわけだから当然だろう。

 今の俺の成績からはワンチャン受かるってとこにいくだけでも難しい。


「けんたろー、どうしたの?眠そうだよ?」

 模試のことを考えていると大きなぱっちりとした黒い瞳で凛が俺の方を見てきた。寝ぼけ眼で凛を見つめ返す。


 ホントにこいつ肌のもきめ細かで綺麗だよな。


「え、そ、そうかな。」



 俺の心の中の声に凛が応答したのが聞こえた。

 もしかして、俺、今寝ぼけて口に出していた?

 部活の頑張りを示す凛の少し焼けた肌がほんのり朱に染まっている。 

 

 昨日の千里さんのこと言えねーじゃん。


 ま、ねぼけていっちゃっただけし、凛ならそこら辺も察してくれるだろうし、いっか。それにせっかくだし前から言おうと思っていたことを注意しよう。


「ああ、綺麗だから。日焼け止め忘れるなよ。川行った時もいつも塗らないし。」


 寝ぼけ眼を一生懸命こすりながら言ってみた。


「もう、健太郎が言ったんだもん。スポーツしている女の子の焼けた肌っていいよなぁ。って。それなのに清楚で色白な年上美人が来た瞬間にこれだもん。最悪すぎ!」


まて。流石にそれは聞き捨てならない。


「いつ俺がスポーツしている女の子がいいって言ったんだよ。捏造するんじゃない!」


 俺は中学校の頃から白い肌の深窓の森の美女に憧れていたんだ!ゲームで森のハーフエルフの美女とかが少しエッチな柔肌を出しているのとかが好きなんだ。川で身体を洗っているハーフエルフの美女が「きゃーーー」とか恥じらいながら叫ぶ姿とかが最高なんだよ!童貞丸出しの想像だろうがそれが理想だ。


 “森の奥の“とか、”深窓の美女“って聞いただけで心が踊るくらいだ。そういう子が徐々にエッチなことに耐性がついてきて、それでもやっぱり顔を真っ赤にして言ってくる「まったくもー、仕方がないぁ」って言葉だけでご飯三杯は行ける。


 なのに、陽で焼けていた方がいいなんていうわけがない。


「むむむ。言ったもーん。小学校の夏休み、互いに親が遊びに行って留守番してた時に。」


 少しつり目の美鈴が涙目になりながら睨んでくる。


「脈絡もなくそんなこと言うかよ。」

「世界陸上見ながら言っていたもん。健太郎のばか。」

 凛の罵倒は語彙が少ないので馬鹿かあほくらいしかない。なので、怒り度は言い方による。


 そして、この言い方は

(凛、マジで怒っている。なんで?)


「んな、昔の話覚えているわけないだろ?」

 凛の怒りに気付きながらも思わず口走ってしまう。


「ばーか、あほ。あっかんべー。」

(小学生のような罵倒だ。あっかんべーは新手だけど。)


「じゃあ、記憶力の悪いけんたろーは、小三の夏のことも忘れちゃったの?」

 薄い口紅を塗った艶やかな唇を触りながら聞いてくる。

 目線が唇に吸い寄せられる。


「あ~、やっぱりそんなことは覚えているんだ。馬鹿、エッチ、変態。」


 涙目で言ってくる。さっきのハーフエルフの妄想通りに”エッチ”っていってもらえたのに嬉しくない。

 だって、幼馴染がわりと本気で怒っているのが分かってしまったんだから、仕方ない。


「だ、だってあれが初めてだったし。無我夢中だったし。忘れるわけないだろ。凛だってそうだろ?」


 凛の逆鱗に触れないように恐る恐る上目遣いで凛を見ながら言う。

「・・・。で、デリカシー皆無っっ!けんたろーなんて嫌い!」


 そう言って先に学校へ走って行ってしまった。

 その後も、凛とは同じクラスなのだが話せずじまいだった。


 少しだけ胸につかえるものを感じた。

 それを胸に抱きながらその晩も千里さんがくれたお手製問題集を進めるのだった。


 翌日も、翌々日も凛とは話すことができなかった。 


 人気者の凛に陰キャの俺が話しかけるのは無理があった。話しかけようとしても声の大きな空気の読める陽キャが俺の声をかき消してしまった。

 凛とも眼が合ったのだけれどぷいっとそっぽを向かれてしまった。

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