外套

「……」


 ロンは窓の横に椅子を持っていって、ぼんやりと外を眺めながら座っている。数日前にエロワと話ができたと言っていた。その時は


『あのオウジサマはしょうがない子供だな』


 と自分の方が彼より10程も年下なのに姉のような顔で苦笑いをしていた。しかしその後はなにか考え込むことが多くなった。どうやらエロワのことを考えているらしいのだけど、それ以上のことはわからない。


「なあアデール」


「うん?」


 気が付くとロンが窓辺からこちらを見ている。


「どうしたの?」


「人ってさ、一回見ただけじゃわかんないもんだよな」


「そうねえ。いい人だと思ったら悪い人だったり、逆もあるし、ちゃんと話してみないとわからないことは多いわね」


「なー。エロワもなー。別に悪い奴じゃないんだよ。ちょっと子供っぽくて拗らせてるってだけでさあ。わかんなかったんだよなあ」


 ロンは大きくため息を吐く。


「何か、気にかかることでもあったのかしら」


 そう聞くとロンは困ったような顔で首をかしげる。自分でもうまく説明でいないのであろう。


「うーん。人ってよくわかんないなーとか。あとエロワが将来の話をしててさ。こんなことをこれから学びたい、みたいな。あたしにはそういうのよくわかんなくて。村にいた時もその日その日のことしか考えてなかったし。今は一日一日出来ることをしてるだけだし。先のこととか考えてなかったんだよな」


 なるほど。それをここ数日考え込んでいたということね。とてもいい傾向だ。


「そう悩むのはいい事だと思うわ。先のことを悩むのはいつだって遅くないし早くないのよ。それになんにも考えていないと言うならそのことをエロワに相談すればいいじゃない。エロワが話しづらければガルニエだっていいでしょう。ガスパルは止めた方がいいでしょうけど、エメやリゼットだっていいと思うわ」


 私がそう言うとロンが遠慮がちにこちらを見上げる。


「アデールはそういう相談には乗ってくれないの?」


「私? ……考えてもいなかったけど、もちろんあなたが私に相談したいというならいくらでも聞くわ。当たり前でしょう。でもご存じの通り私も田舎住まいだったのがいきなり都会に出てきて、てんやわんやの末に今の生活があるから、参考になるような生き方はしてないのよね」


「いいよ。だってあたしのこと一番知ってるのはアデールだろ。ただ聞いてくれたらそれでいいから」


 ロンは照れたような顔で言った。その顔が可愛くて、ついこちらも笑顔になる。


「いくらでも聞きましょう。手始めに温かいお茶とお菓子を用意するわね。あと冷えてきたからブランケットも出しましょう」


 そう言って台所へ移動する。今夜は長くなりそうだから、夕ごはんを作るときにデザートも多めに用意しておこう。風呂上がりに着る用のは織物も一枚温かいものを出しておかねば。秋の夜長に将来の夢の話。なんだかロマンチックで悪くない。

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