第15話「グリフォンスレイヤー(後編)」


「「「グリフォンを倒すものグリフォンスレイヤーだ!!」」」




 倒した────……。


 俺が──……。


 倒した??


「……お、俺が、グリフォンを倒した!?」


 もはやピクリとも動かぬグリフォン。

 確かにレイルが討伐したというのに、全く実感が湧いていなかったのだ──。

 だから戸惑う。


 村人の歓喜に応えることができない……。

 だけど、間違いなくレイルが討伐したのだ!!



 その証拠に、今この瞬間よりレイルに大量の経験値が流れ込む!!



 ──ポォン♪



 ※ ※ ※

 

 レイル・アドバンスのレベルが上昇しましたレベルアップ


 ※ ※ ※



 ──ポォン♪ 



 ※ ※ ※

 

 レイル・アドバンスのレベルが上昇しましたレベルアップ


 ※ ※ ※



「な……?!」


 不意にステータス画面が起動。

 レベルアップを告げる………………。


 それも、


 ポォン♪ ポォン♪ ポォン♪


 それも…………。


 ポォン♪ ポォ、ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ……──ポォン♪


 ※ ※ ※

 

 レイル・アドバンスのレベルが上昇しましたレベルアップ

  レイル・アドバンスのレベルが上昇しましたレベルアップ

   レイル・アドバンスのレベルが上昇しましたレベルアップ


 ※ ※ ※

 

 レイル──……

  レイ────……

   レ──────……


 レベルが上昇しましたレベルアップレベルが上昇しましたレベルアップレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルレベルアアアアアアアアアアッッッッップ!!


 ※ ※ ※



 それも大量に!!!!!





 ──ポォン♪


 ※ ※ ※

 

 レイル・アドバンスのレベルが上昇しましたレベルアップ


 ※ ※ ※




 淡く輝くレイルの体。

 ステータス画面が見たこともないくらいに多重起動し目の前を埋め尽くしていく。

 半透明のそれが重なり合い、もはや先が濁って見えないくらいの大量の画面。


「う、ぐ……! こ、こんなに?!」


 ミリミリと体が軋むほどのステータス値の上昇。

 そして、LVが恐ろしい勢いで上がっていく!


 それほどまでに格上。

 あのSランクパーティの『放浪者』ですら複数で奇襲してなんとか倒せるという化け物だ!


 正面からは、彼らですら逃げるというその途方もないモンスターをレイルがたった一人。

 本当に単独で倒してしまったのだ!!


 おまけに、『放浪者』が逃げ散ったために彼らがあるはずだった経験値すらレイルが総取り!

 その量たるや、もう……。



 二匹の災害級モンスターの経験値がたった一人に!!



「本当に────……俺が……」


 あのグリフォンを────。




 わぁぁああああああああ!!

 うわぁぁあああああああ!!


 うぉわぁぁおおおおおお!!



 スー……と、消えていくステータス画面を見送ると、その先には満面の笑みを浮かべた村人たちがいた。

 満身創痍のままに熱狂する村人たち!


「勇者!!」「勇者!!」「勇者!!」

「英雄!!」「英雄!!」「英雄!!」


 歓喜

 歓喜

 歓喜ッッ!


「「「やったぞぉぉぉぉぉおおおおおお!」」」


 そして、歓声がレイルを包む。

 茫然として、立ち尽くすレイルを歓声と歓喜と感謝が包む!!


「わっわっわっわっわ!」

「わっわっわっわっわ!」


「「「わっわっわっわっわ!!」」」


 もはや何を祝えばいいのかわからぬほど高揚する村人たち!!

 ただただ声を上げ、歓喜歓喜歓喜!!!


 滅びの危機を脱した幸運を強運に感謝を!!

 レイルという青年に感謝を!!


 村を襲った厄災を!

 あの憎きグリフォンが二匹も一度に!!



 ──英雄の誕生をこの目で見たッッッッッ!!



「……お、俺が?」


 レイルはじっと、手に持つドラゴンキラーとラ・タンクの槍を見て、今起こった出来事を反芻はんすうする。



「「「うわぁぁぁああああ!」」」

「「「勇者! 勇者! 勇者だ!!」」」


「「「英雄! 英雄! 英雄の誕生だ!!」」」


 まさか、


「────俺が……」



 わぁぁああああああああ!!

 うわぁぁあああああああ!!



 俺が、勇者……?


「──俺が、英雄……?」


 スー……と一人、涙をこぼすレイル。


 胸に去来する思いは、

 故郷で蔑まれ、その噂が光の速さで国中に響き渡り誰からも顧みられなかった日々。

 冒険者ギルドでも、一人。


 誰も助けてくれない。

 皆が噂する。


   『疫病神が──』

   『疫病神め──』

   『疫病神だ──』


 そう。

 だって、


「俺は、ずっと疫病神と────……」



「「「勇者! 勇者!!」」」

「「「英雄! 英雄!!」」」



 な、涙が止まらない。


 俺は疫病神なんかじゃない?


 そ、そんな……、

「俺は…………。俺は、こんな歓喜を知らないッ」


 ガクリと膝をつくレイル。


 切り裂かれ踏みつけられ、装備はボロボロだ。

 ポーションで回復したとはいえ、身も心も傷付き、本当にボロボロだったのだ。


 だけど──────……。


 だけど!!

 だけど言いたかった!!

 

 ずっと、

 ずっと、

 ……ずっと、ずっと言いたかった!!



「────俺は、『疫病神』なんかじゃないッッッ!」



「「「ありがとう!! 冒険者さま! 勇者さま! 英雄様!!」」」



 その言葉に一人涙するレイルを、村人たちが持て囃す。


 もう村中お祭り騒ぎだ!


 倒れ伏したグリフォンをボコボコに殴る村人に、

 歓喜の余りに涙し、崩れ落ちるご婦人たち。

 自警団は喜びの余りレイルを取り囲み全員で胴上げ、胴上げ、胴上げの嵐!!


「お、おい! うわ! ちょっと!!」


 そのまま宴会場と化したグリフォン討伐現場でレイルはもみくちゃにされる。

 村の食糧庫は開かれ、とっておきに肉やチーズが惜しげもなく調理し振舞われる。


 熟成されたワインは領主向けの品ではあったがそんなことは知ったことか。

 羊も牛も、グリフォンにあらかた食い尽くされたがそれでも今日くらいい、いいだろう。

 鳥も卵も新鮮なものを使おう。


 飲めや歌えや、生きていることを祝おう。



 強き英雄、レイルを称えよう!


 勇者レイル、万歳!!

 英雄レイル、万歳!!



「「「冒険者レイル、万歳!!」」」


 万歳!!


 万歳!!



 ばんざーーーーーい!!!





 わぁぁあああああああああああああああああ!!





 ──その日、村は散々な被害を追ったものの、

 強き開拓民の人々は傷を忘れて意識がなくなるまで痛飲した。

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