第15話「グリフォンスレイヤー(前編)」

『クルァァァアアアアアアアアアア!!』



 迫りくるグリフォン!

 そして、俯くレイル!!



 フッとした浮遊感を一瞬感じた気がしたが、世界はこともなし。

 レイルは地に足を尽き、同じ空気を吸っていた。


(あぁ、わかる────)


 ここは……。

 この場所は──……。


 ──────この時間はッッ!


「……そうだ。ここが俺の時間軸」


(ああ、この場所だともさ……)


 同じ時だ。

 同じ場所だ。

 同じ絶体絶命だ!!



 だけど、



「だけどよぉ……」

 意志の籠った目を持ち上げるレイル。

 目の前にはグリフォン。


 食われる1秒前ッッ!!



 その咢が──────!


「………………よぉ、グリフォンの旦那」


 スチャキ!!

 迷いのない仕草で吹き矢を構えるレイル。



 ふーー……。

 すーー……。



「……………………一昨日おとといに行ってきたぜッ!」



 フッ──────!!



 手に持つのは毒の吹き矢!!

 その名もドラゴンキラー!!


 レイルをそいつを迷うことなくグリフォン目掛けて発射!!



   『品質は保証するぜ』



「あぁ」

 保証してくれなきゃ困るっつの。



 猛烈な勢いで飛び出した毒針!

 それが──。


 ──────スパァァアン!!


『クルァァ────ァ゛?!』



 ドラゴンの柔らかい場所に、至近距離を打ち込むという、根本的な欠陥品──。

 だけど……!!



 この距離なら外さない!!!!

「────くたばれ、鳥野郎!」


 プスッッ! と放たれた毒矢が間違いなくグリフォンの口に飛び込み下に命中した。

「かーらーのーぉぉぉおおお……!!」


 ──回避ッッ!


 そして、一昨日から現在に戻ったレイルはこの瞬間を予測していたので────難なく一撃を放って素早く身をひるがえす!

 一連の流れさえシミュレートできていれば、ドラゴンキラーの欠点すら克服できる。


『キュア…………?!』


 予想外の動きに戸惑ったのはグリフォンのみ!

 そして、食らう────……!


 品質保証のドラゴンを殺すというその毒を──────!!

 …………その瞬間!!



 ブハァァァアア!!



 まるでバケツを零したような水音。

 これは一体……。


『────────ク、カ、ァ……?!』


 ……ガハッ!


 グリフォンが吐血。

 そして、さらに毒が回ったかと思えばッ!!



『コァ……』

 ────ボンッッッ!!



 まるで爆発するように全身から血を噴き出したグリフォン!



『クルアァァアアアア………………!』



 ボトボトボドボド……ボト──!!


 したたる鮮血に、グリフォン自身が驚愕しているようだ。

 あの厄災級のモンスターが信じられないといった表情でレイルを見ると……。



『ゴホォ……!』


 さらに吐血。そして、フラリと巨体を傾げる。


 だが、そこは厄災級モンスター。

 まるで毒に抗うように一度力強く羽ばたき、空へ────……。


「ま、まだ戦えるのか?!」

『キュルァァァアアアア──────ァァァァァァァァァァァア……』



 大空へ────……。


 そして、

 そのまま……。

 グラリと傾き──。





 ズゥゥゥゥウウン…………!





 大空の覇者は墜落し、

 ────地響きを立てて地に臥した。


 奇しくも、それはあの片割れのグリフォンのそば

 まるで、狙っていたかのようにその横に巨体を横たえると──……息絶えた。


 濛々と立ち込める土埃。


 そして、 

 埃に晴れた先には傾き、つぶれたグリフォンの遺骸が…………。


『コッフ……コッフ……』


 救援に駆けつけてくれたつがいが死んだことを見届けた一匹目のグリフォンが、静かに目を閉じる。


『コッフ…………』


 そして、薄く目を開けるとレイル見た。


「…………悪く思うなよ────俺は冒険者なんだ」


 残りのドラゴンキラーを取り出すと、ラ・タンクの槍が付き立つ傷口に押し当てた。

 その瞬間、ブシュウウ……! と、鮮血が舞い上がり、グリフォンの命が散っていった。


 筋肉が弛緩し、槍がフラリと傾く。

「おっと」

 なんとはなしにその槍の柄を掴んだレイル────。


 次の瞬間。





「「「「「うぉぉぉぉおおおおおおおお!!!」」」」」




 突如背後で歓声が上がる。


(え……?)

「な、なんだ?!」


 見れば、満身創痍の村人が多数その光景を見ていた。

 二匹目のグリフォンに単身挑み、

 そして、最後のグリフォンにトドメを刺したレイルの姿を!!


 た、


「「「……た、倒した──?」」」


 それは、レイルという疫病神と呼ばれた冒険者の快挙。

 そして────……。


「倒した……!」

「一人で倒した──!」

「あの青年がグリフォンを倒した!!」


 どこに身をひそめていたのか、村中の人間がわらわらとやってきた。

 そう──彼らは見ていた。


 『放浪者』たちの所業を。


 そして、グリフォンから逃げた連中『放浪者』と、残された囮の青年がたった一人で立ち向かいグリフォンを倒した様を!!


「倒した……!」

「倒したぞ──!」

「討伐したッッ!!」


 家の中から。

 櫓の上から。

 村の全てから!!


「倒した!! 倒した!!」

「グリフォンを倒した!!」

「あの空の化け物を倒した!!」


 あの青年が倒したぞ!


「たった一人で成し遂げた──!!」


 騎士団ですら手を焼き、倒せなかったグリフォンを。

 Sランクパーティが卑劣な手段でも倒せなかったグリフォンを。

 今までは誰も単独では成しえなかった、あの強大なグリフォンを!!



「「「うぉぉぉおおおおおおおお!!」」」




 ──疫病神と呼ばれた孤独な青年がたった一人で!




「勇者だ!!」

「勇者が誕生した!!」


「英雄だ! 英雄がここにいるぞ!!」




「「「グリフォンを倒すものグリフォンスレイヤーだ!!」」」

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