第10話「絶体絶命」

 ロードの醜悪な顔が愉快満悦に歪み、レイルを絶望のどん底に突き落とした。

 コイツは初めからそのつもりで────……!!


 ろ、

 ロード……。


 ロード!!


「ろ、ローーーーーーードてめぇぇええええええ!!」


 血を吐くようなレイルの絶叫。

 それを受けて笑い転げるロード達。


「今さら気付いても遅いんだよッッ!」

「「「ぎゃははははははははは! この間抜けがぁ!」」」


 無様に地面に転がるレイルをあざ笑うロード達。

(あぁそうか! あぁそうかよ!! わかった。今わかった!!)


 ──全部理解できた!!


 ここにきて、すべてを理解できてしまった……!


 人食いグリフォン。

 疎まれているDランク冒険者。


 Sランクの所以────……。


 つまり──────。

「最初から、俺を餌のつもりで連れて来やがったのか──テメェぇぇぇえええええ!!」

「あったり前だろうが!! お前みたいなクズ冒険者、他に使い道があるかよぉぉぉおお!──おい、ラ・タンク」


 無造作にラ・タンクを呼びつけたロード。

 クィっと顎でレイルを指し示すと、


「おっけー。じゃ、ちょっ~~~とは血ぃを出してもらうぞレイル。イ~イ匂いがしたほうが食いつきがいいんでな────。クククよかったな~、最後に俺たちの役に立ててよー。ひゃははははははははははは!!」


 もはや、レイルを人として見ていないその目!!

 その目ぇっぇええええ!!



「あばよ、『疫病神』ッ!」



 コイツ──!!

 コイツッ!!


「お前らぁっぁぁああああああああああ!」




 ザクッ!!




「ぐぁぁああああああああああああああああ!!」



 ラ・タンクの槍が容赦なくレイルの肩を薙ぐ。

 その瞬間激痛と鮮血が迸る。


「おーおー出る、出るぅ」

「すっげぇ、出汁だな。こりゃ食いつきがよさそうだ」

「せいぜい叫んでグリフォンを呼んでくださいね、生・き・餌・さん」


 ゲラゲラと笑うロード達。


「だーいじょうぶよー。痛いのは一瞬。旨くすればパクリと言ってくれるし、その前にちゃ~~~んと、グリフォンは仕留めてあげるから」


 んね?

 そう好き勝手に言って、全員がフラウを振り返る。


「………………準備よし」 


 ジャキンっ!!

 物騒な金属音とともに、フラウが馬車の中からコクリと頷く。


 そして、


「……僕は、警告したよ──」


 そういって一度だけレイルを見ると、あとはもう視線を合わさないフラウ。


「ふ、フラウ……! お、お前らぁぁあ!! ぐぅぅうう!」


 ま、まだだ。

 まだ肩を切られただけ────ポーションを……。


「おい、逃げるぞ、グリフォンが来る前に足も切っちまえ」

「あいよー」


 ロードの無情な指示に、ラ・タンクが自慢の槍で宿の中からレイルの足を切り裂く。その激痛!!


「ああああああああああああ!!」


「お、いい声──」

「あ、ポーションを飲もうったって無駄ですよ。私たちが支給したのはただの砂糖水ですから、ウヒャハハハハ!」


 そういって大笑いするボフォート。

「なんだと! ぐぁ!!」


 今度はロード自身から薄く切られて、背中からも血が溢れて地面に染み込んでいく。

(なんてやつらだ……!!)


 どーりで気前よくクソ高い上級ポーションをレイルにくれると思ったら……!


「くそぉ!!」

(し、死んでたまるか……! こんな、こんな奴らのために──……)


 満身創痍のレイルは動けず。村の広場で血まみれになって蠢くのみ。

 そして、上空を黒い影が────……。


「「「「きたーーーーー!!」」」」


 うっひょー! と大喜びの声を上げるロード達。

 

 来たーって?

 何が……?


「って……」


 ははは……確認するまでもないよな────。


『クルァァァアアアアアアアアアアアア!!』


 ズドォォォオオン!!


 砂埃とともに、降り立つ巨大な質量。


 そこから強烈な獣臭。

 そして、巨大な影────!!




「ぐ……!」


 人食いグリフォン!!!

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